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第43話
しおりを挟む結局翌朝冬馬さんが迎えに来てくれてアパートに帰る事に。
「そろそろ店も開けないといけないし今日は来てね」
運転をしながら冬馬さんは言った。
「うん」
一度アパートに帰り、シャワーを浴び用意を始めた。
寝不足なのかストレスなのかクマができていた。メイクも思うように仕上がらず嫌気がさしていた。
そういえば柊生から連絡がない。メールの一つあってもおかしくないのに。
「もう出れる?」
既に用意をしていた冬馬さんは私のメイクが終わったのを見計って言ってきた。
「ごめんもう少しかかりそうだから先店行ってて」
「わかった、気を付けてくるんだよ」
メイクは終わっていたが、忙しく用意をするふりをして先に店に行ってもらう事にした。そして、冬馬さんの車が出発したのを確認すると、私は柊生に電話をかけた。
プルルルルル‥‥プルルルルル‥‥。
結構鳴らしてみたが柊生は出ない。まだ寝てるのかと思い、夜にでもまたかけることにした。
冬馬さんより30分ほど遅れて店に着いた。
いつものように二人で作業をする。
いつもと変わらない冬馬さん。
あれ?まさかこのまま普段通りの生活を続けるつもりなのか?そう思うほど冬馬さんは普通だった。
閉店時間になり、店を閉め二人で家に帰る。
私はもう一度ちゃんと話をしようと冬馬さんに言う事にした。
「冬馬さん、少しいい?」
「なに?」
「一旦座ってほしい」
「わかった」
私がそう言うと、冬馬さんはソファに腰かけた。私は真剣に聞いてほしくて机を挟み冬馬さんの前に座った。
目線的には冬馬さんが私を少し見下ろすような感じだ。
「私、出て行く」
「は?いきなり何言ってんの?」
冬馬さんはかなり驚いていた。まさか私がそんな事言うとは思っていなかったのだろう。
「店ももう手伝えないしごめん」
「店はいいけど出て行くのは許さないよ」
「でも籍はまだ入れてないし‥‥」
「だから何?籍入れてなかったら何してもいいの?俺の気持ちは?」
「本当にごめん。もうそれ以上の事は言えないし出来ない」
「俺が‥‥どんな思いで結婚式の日みんなに謝ったと思ってんの?恥ずかしくて、消えたかったよ」
冬馬さんは眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
「それは本当に悪いと思ってる」
「どう考えても俺にはももしかいないんだよ。それにももはあいつとは付き合えないよ」
「どうして?」
「俺たちの仲を壊した代償は払ってもらうってきっちり伝えたから、だから今後あいつと会う事もないよ」
「えっ、待って、意味が分からないんだけど」
「昨日あいつの姉が迎えにきたでしょ、あれ俺が連絡してたんだよ」
どおりで‥‥柊生の事を思うと私といた方がお姉さんも安心なはずなのに連れて帰るなんておかしいと思った。
「冬馬さん知り合いだったの?」
「知らないよ、でも部屋で番号の書いてあるメモを見つけてそれでかけてみたんだよ。そしたらあいつの姉だったから事情は聞いた」
「じゃあお姉さんがどんな思いで私に連絡してほしいって頼んできたかわかるでしょ」
「わかるよ。でも婚約者がいるって知ってて頼んだ結果、俺らはこんな事になってんだからあいつの事は許さないって言った」
「それで柊生を迎えに‥‥」
「それに弟を二度とももに近づかせるなって言ってあるから多分連絡もしてこないと思う」
「なんでそこまでするの?」
「なんで?ももを失いたくないからだよ」
「だからって‥‥」
「ももはそんなに俺と別れたいの?そんなにあいつが好き?たった一晩で気持ちが変わるの?」
「一晩じゃないよ。‥‥実は少し前にも柊生が帰ってこないって聞いて連絡した事があったの」
「聞いてないよ」
「その時は連絡するだけで会うつもりもなかったんだけど柊生がいきなり来ちゃって」
「会ったの?」
「‥‥うん」
「そんな事も知らずに俺は馬鹿みたいだな」
「やましい気持ちとかなかったし、もう会う事もないだろうと思ってたから。それに余計な心配かけたくなくて。それだけは信じて欲しい」
「ももが嘘つくとは思ってないからそれは信じるよ」
「でも、その日から気にはなってたの。多分その時は好きとかっていう感情ではなくて本当にただ大丈夫かなって‥‥」
「それで式の日に限って連絡がきたのか」
「タイミング悪いよね」
「タイミングとかどうでもいいよ。問題はももの気持ちが向こうに向いてしまった事だよ」
「こればっかりは自分でもどうしようもないの」
「俺さ、ももにこの話したっけ?」
「どんな話?」
「実は前に婚約してた相手がいたんだ」
意外だった。勝手に冬馬さんが結婚したいと思ったのは私だけだと思ってた。
「それは初耳だね」
「本当にすごく好きで、信頼してたし、このままずっと一緒にいるんだって思ってた。でも結局浮気されててさ、あっさり捨てられたよ」
「そんな事があったなんて」
「でも、ももと出会ってやっと立ち直れたのに‥‥ももまで居なくなるなんて俺耐えられないよ」
「冬馬さんごめん」
「もう謝らなくていいから、居て」
「冬馬さんの気持ちはわかる。でも柊生の事は放っておけない、私がそばにいないと」
「俺の事はどうでもいいんだね」
「そんな事ないよ。ただ‥‥もう気持ちが戻る事はないと思う」
「はぁ‥‥」
ため息をつきながら手で顔を覆う冬馬さん。
冬馬さんの事が嫌いなわけじゃないから私も本当は辛い。
私は冬馬さんを慰める為に隣に座った。罪悪感で押しつぶされそうだったから‥‥。
「冬馬さん‥‥?」
私が顔を覗きながら呼びかけると、ゆっくり抱き寄せられた。
「もも‥‥」
心なしか震えているようにも感じた。
私は強く抱き返した。
冬馬さんの温もりを久しぶりに感じた気がした。この2、3日で状況がかなり変わり、混乱しずっとざわついていた心が少し癒されるような、優しく包まれるような気分になった。忙しい毎日に、柊生の事で忘れていたが、それが冬馬さんの好きなところだったと思い出した。
だからと言ってもう後には引けない。
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