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第十五話
しおりを挟むそれはニュースで知る事になる。
私がバイトをしている時、テレビから流れるアナウンサーの声にあんなにも反応したのは生まれて初めてだろう。
「〇〇区で今朝刃物で刺されている状態で発見されたのは近くに住む、ーーりゅうとさん25歳。ーーりゅうとさんは搬送先の病院で死亡が確認されました」
あんなに頭が真っ白になったのも生まれて初めてだった。
ベルが鳴っている事にも気付かないほどテレビの前で立ち尽くしていた。
「れい?大丈夫?」
明らかに様子がおかしかったのだろう、竜也くんがやってきて私をバックヤードに連れてってくれた。
「どうしたの?」
「‥‥死んだ」
「えっ、誰が?」
「りゅうと」
「りゅうとってれいが言ってた人?」
「うん」
「そんな‥‥」
竜也くんも動揺を隠せないでいた。
りゅうととは、朝バイトに行ってくるねって言ったのが最後だった。
竜也くんが今日は上がっていいと言ってくれたので私は放心状態になりながらも、震える手でやまとに電話したが出なかった。
そりゃそうだよね。
震えが止まらなかった。
家に帰ると、私の異常なまでの震えに流石の母親も心配してきた。
しばらく布団を被り何も考えずにいたかった。しかし、りゅうととの日々が走馬灯のように張り付いて頭から引き離そうと思っても無理だった。
りゅうとが好きでよく聞いていたジャンヌダルクの月光花。
本当に遠くに行ってしまった。
雨は自分を隠してくれるから好きって言う、うちを見て優しく微笑みながら、そんなれいが俺は好きって言ってくれたりゅうと。
小さい頃から親に甘えられず自立を強いられていた可哀想なりゅうと。
りゅうとが悪いんじゃないよ、そうさせた周りが悪いんだよ。
同情じゃなくもっとちゃんと愛してあげてたら良かったかな。
こんなにあっさり死んじゃうなんて。
安らかに。
それから数日間私はバイトも無断欠勤し電話も電源を切り、まともに食事も出来ず化石のようになっていた。
もちろん葬儀には行かなかった。
現実を突きつけられるのが怖かったから。
やまとと話したのはそれから一ヶ月ほど経った頃だった。
私は怖くてニュースがトラウマになっていた。あのアナウンサーの感情のこもってない言い方、声のトーン、字幕。
その為、その事件の犯人の事も知らなかった私は全部やまとから聞いた。
りゅうとは色んな人の恨みを買っていたようで出所したら絶対殺すと言う人間がいたらしい。りゅうとはそいつに刺された。
そいつは逃げていたが、すぐに捕まったらしい。
やまとは心なしかホッとしたような顔をしていた。
「いなくなって嬉しい?」
私が聞くと、やまとは答えた。
「まぁ」
「うちも」
悲しい気持ちと妙な安堵感。
心と頭は別なんだなってその時思った。
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