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第二章 大きなノッポの古時計は何を訴えて哭く

第四話

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「えーっと、学校のすぐ近くの喫茶店って、これだよな? ていうか、これしかないか」

 地元の高校といっても、会社近くのバス停から四十分も揺られてやって来ると、もはや地元という感じは、あまりしない。寧ろ、冬矢が通っていた高校のほうがまだ近い。
 周りを山々に挟まれ、田植え前の田圃沿いの道路には石垣が並び、大農家だろう和風邸宅が、我が物顔に建ち並んでいた。いかにも代々、そこに住み続けているかのように、堂々と。

 そんな中に、小高い丘があり、高校は丘の上にあった。
 冬矢が通った高校は隣町の町中だったので、地元の高校とは、あまり縁がなかった。
 待ち合わせは授業が終わった放課後、高校近くの喫茶店だったので、帰宅する高校生たちと通り過ぎた。
 今時、喫茶店とは思うが、スター・バックスやド・トールなどのハイカラなカフェはバスで山を越え、町に行っても出会えない。更に電車に乗り、隣町のショッピングセンターに行かなければお目見えもできない。

 高校を中心に丘がなだらかに続いている。
坂道沿いに建つ、焦げ茶色の木造の建物は、非常にレトロだった。
 喫茶店《クミッチ》のドアを開けると、カラーンと低い鈴の音が響いた。
 カウンターが五席、テーブル席が五席のこぢんまりとした店内だった。まばらにお客が入っていたが、見通しがいいので、女子高生が来ていれば直ぐに分かりそうなものだ。
 冬矢は店内を見回して、確認した。

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」

 店員が訊ねてきたが、「待ち合わせで」と軽く手を上げて、連れがいることを示す。
 まだ来ていないのかと、眉根を寄せた時、「あの!」と奥の席から一人の少女が声を飛ばしてきた。
 鉤型になった奥の席だったので、気付くのに遅くなった。
 一瞬ドキッとした冬矢は足早に奥の席へと歩み寄った。相手が女子高生と意識すると、なんだかデートの待ち合わせをしているみたいで、体のあちらこちらに変な力が入った。

「あ、初めまして――、って、三人? ですか」

 奥の席には女子高生が三人も座っていたので、想定外の人数に、冬矢は思わず生唾を飲み込んだ。

「はい、すみません、人数までは言わなかったんですけど、マズかったですか」

 黒髪ストレートの女の子が、申し訳なさそうに冬矢を上目遣いした。

「い、いえ、まったく問題ないですよ。アハハハ」

 冬矢はぎこちなさ過ぎる笑いを上げた。

「改めて、依頼を受けました、骨川ジャンク・廃棄物マネジメント処理・カンパニー会社です。担当させていただきます、伊賀です、よろしくお願いします」
「お願いしまーす」と三人の少女は戸惑いながらも、軽く頭を下げた。

 挨拶を冷静に済ませ、空いている席に冬矢は腰を下ろした。女子高生に囲まれている状況に、否応なく緊張する自分が情けない。

「で、依頼の携帯なんだけど、今そこに持ってるよね? 出してもらえる?」

 冬矢の指示で、三人はテーブルの下で持っていた携帯をテーブルの上に出した。
 三人が出した携帯は、折り畳み式の携帯だった。
 今では、薄くてタッチパネル式の携帯電話が主流になりつつあるから、懐かしいタイプといえよう。

「で、ノイズが混じるって、どんな感じに?」

 訊ねると三人少女は、お互いに目を合わせて、先ほど冬矢を呼んだ子が代表して、口を開いた。

「ザザーって音がするのと、時々、人との声みたいなのが混じる時があるんです」

 心底、気味が悪い。だから、もう触りたくない――と言った感じで、女の子は眉根を寄せた。

「人の声? あ、それと、聞いた話によると、ゲームをした後からノイズが入るようになったって言ってたけど、ゲームって、どういうの?」

 冬矢は三人の顔を交互に見ながら訊ねた。
 するとまた、三人は戸惑いながら目を合わせ、一人がスクールバッグをあさった。
 ガザガザと紙が丸まったような音と共に出てきたのは、折り畳まれた紙だった。
 畳まれたままだったので、冬矢は「開いてもいい?」と三人を見た。

「はい」

 否に暗い声で返事が来た。
 では、と心の中で呟きながら、冬矢は紙を開いた。

「これって……」

 もしかしてと気付いた瞬間、冬矢はゾワッと背筋に寒気が走った。
 A4用紙の上端に「はい」と「いいえ」が書かれ、間には鳥居の絵が描かれていた。
 その下に、数字と五十音順が書かれていた。思わずパッと紙から手を離した冬矢は、順に三人を見回した。

「これって、あれだよね? 『こっくりさん』をやったの?」

 三人を叱っているわけでもないのに、三人はひどくテンションが低かった。
皆、眉根を寄せて、かなり気まずそうに冬矢の手の中の紙を見詰めていた。静かになられると、冬矢まで口が開きにくくなった。

「実際に使った紙は、四十八分割して、破って捨てました。使った十円玉も、三日以内に使いました。この紙は今日のために用意しただけの物で、何もしていません」
「そうなんだ。でも今時『こっくりさん』って、 まあ、いいんだけど、『こっくりさん』をやって以降、携帯ケータイにノイズが入るようになったんだね」

 ゾッとはした。だが、冷静になってくれば、どうして今時、こんな古い遊びをやろうと思い付いたのかが、無性に不思議だった。
 ポリポリと前髪を掻きながら、先ずはテンションが下がりまくっている彼女たちを少し回復させるか、と冬矢は軽く深呼吸した。
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