マイニング・ソルジャー

立花 Yuu

文字の大きさ
上 下
33 / 48
section 3

No.031

しおりを挟む
 山の様にデカいエイリアンは、触手を矢のように、目にも追えない速さで飛ばしてきた。
 図体がデカいくせに、とんでもないすばしっこさは、マイナーの手を焼いた。
 目が速さに慣れるまでは、避けるのに精一杯だった。

「これが、レベルAクラスか」

 一見すると不規則なように動きながらも、必ず規則性がある。

「リーダーッ、次は、パーティA、D、Eだ、来るぞッ」

 ヴェインの指示に気付かされた形となったリーダーは、メンバーに指示を出した。

「A、D、Eは回避ッ、パーティB、C、Fは死角から攻撃後、直ぐ、後退ッ」

 助かった、とでも言いた気に、リーダーはヴェインに親指を立てた。
 リーダーの指示に即座に従った少女アバターは、誰よりも俊敏だった。彼女のインパクトがありすぎるコスチュームを忘れるわけがない。仲間にする他ない。

 最後に総攻撃を仕掛け、エイリアンはガラスを粉々にしたように、砕け散った。
 メンバーたちが「よっしゃあぁ!」と拳を突き上げて歓喜した。

「助かったよ、ヴェイン。ありがとな。さすがは、レインツリーの元パートナーだな。パーティを解消したんだって?」

 ショートタイム・パーティのリーダーは自分の自信を誇りながら、訝しげに首を傾げていた。

「まあな。色々あって」

 ディスプレイに分配された報酬額が表示された。

「もし、入るパーティがまだ決まっていないなら、俺と組まないか? 俺も、まだソロだからさ、仲間を集めようと思ってるんだ」
「折角だけど、悪いな。俺も仲間を集めてんだけど、決める時は、俺から声掛けた奴が良いんだ」

 断りながら、さっきまで近くにいた少女マイナーを目で追っていた。
 あれ、すぐそこにいたのに、と必死に目で探した。

「何かあったら、メッセージ送ってくれ。じゃあな」
 
 唐突に切り上げた、ヴェインは声を掛けると決めていた少女マイナーを追った。
 蔓性の幹と葉に覆われた際どいコスチュームを身に纏っているので、目立つには目立つ。だが、人込みの中に消えてしまう前に、急いで少女に駆け寄った。

「ねえ、君、ちょっと待ってーーエッ!」

 声を掛けたと同時に、突然、少女はヴェインの手首を掴むと、強引に連れ出され大木の陰に隠れた。
 廃墟化した古代の神殿が森に覆われているフィールドなので、彼女の衣装はここのフィールドと今にも一体化しそうなデザインだ。見失わなくてよかったと、掴まれながらヴェインは安堵した。
 他のマイナーたちから見えない位置に入ったところで、手首は離された。

「何のつもり。戦闘中から、ずっと私を見ていたでしょ。何が狙い」

 ヴェインは大木に背後を取られ、際どい衣装の少女に迫られて、必要以上に緊張した。

「狙いと言われると……俺と、パーティ組まないか?」

「え?」と彼女は片眉だけを器用に歪めた。

「俺は今、ソロなんだ。そっちだって、ショートタイムのパーティに参加しているんだから、ソロだろ? 俺と組まないか。なんつたって君、強いしさ」 

 ヴェインは堂々と手を出して、握手を求めた。今時、握手は変だったかと思い、恥ずかしさを堪えた。
 少女は腕を組むと、面倒臭そうに、フイッと横を向いた。

「あんた、前にレインツリーと、建物の隅から私の戦闘を観察してた時があったでしょ」
「よく覚えてたな。このショートタイム・パーティに君がいたなんて、何かの運命かと思ってさ。俺、ヴェイン」

「え?」と、また彼女は片眉を歪めた。
「あんた、男なの?」

 今度はヴェインが「エッ」と驚いたが、直後に自分のコスチュームが女兵士だったのを思い出した。

「人を見かけで判断しないことだな。声だって低いだろ」
「確かに、変態。ったく、どうして私が、あんたと手を組まなきゃいけないのよ」

 小麦色の肌に、赤銅色の長い髪が艶めいている。右肩から腕には筋力増強サポーターが装備されている。五十口径の対物狙撃銃で狙撃するには必須アイテムだ。足にはラビット・ブーツとも言われる、瞬発力増強ブーツだ。
 ガチガチに装備してんなぁ、銃もそうだが、装備アイテムにも金を惜しんでいない。
 ていうか、稼いでんだなぁこの子、ってことは俺と組む意味ないよねぇーー

「そりゃあ、腕がいいから」

 見ていて、エロいし、目の保養ーーとは絶対に口には出せない。

「そろそろマイナー・ネーム教えて」
「じゃあ、どうしてソロになったの? レインツリーって奴がいたでしょ。クラン・ランクにあんたたちのネームが上位に載ってたし。パートナーと解消した理由を言って」

 ヴェインの科白を無視して、彼女は薄にび鈍いろ色の瞳を向けて、目尻を細くした。
 レインツリーと建物の陰から観察していた時も思ったが、扱いづらそうな子だ、しかも現実世界の本人も若そうだ。

 今にして思えば、レインツリーと初めて会った時も、そうだった。
 どこの馬の骨かも分からない奴に、「パーティにならないか」と誘われれば、誰だって「こいつ、何者だ?」となるのは当たり前だ。

「全部話そうと思っていたから、いいけどさ。君『倒せないエイリアン』って知ってるか? そのエイリアンに攻撃されると、武器や装備、習得したスキル全部が初期化され、自動回復スキルなど初期設定に含まれていないスキルは消滅する」
「何、それ? そんなエイリアンが【マイニング・ワールド】にいるってこと?」

 半信半疑の彼女は、大木に寄り掛かり、「で?」と鋭い目付きで先を促した。
 心臓に毛が生えたような冷静さに、ヴェインはうっかり続きの言葉を忘れそうになった。

「『倒せないエイリアン』はレベルが高い場合が多い。だから、無力化されると勝つ術なしだ。しかも、やられて強制ログアウトになると、ユグド登録が抹消される」

「ハッ!」と今度は眉根を歪めて、声を上げた。
 無理もないか。誰だって、こんな話は信じられないと思う。

「マイニング・データも、アバター・データも、ユードも消えるの?」
「抹消なんだから、全部が消える。その事実を、俺はレインツリーから聞いた。レインツリーは、あいつ独自のギルドを作って、『倒せないエイリアン』をどうにか始末するらしいが、俺はあいつのやり方には賛成できなかった」

 パーティを解消した時の、レインツリーの悄然とした顔が脳裏から離れなかった。
 レインツリーの気持ちを裏切ったみたいで、解消して少ししてから、別れるほどの重大問題だったのかと、自分に問い質した。だからって、思い返したところで、今更、解消はなしです、なんてどの面さ下げても、言えるはずがない。

「お互い、別々の道に進むタイミグでもあったんだ。俺は俺のやり方で、あいつはあいつのやり方で。パーティを作るなら、先ず始めに、君を仲間にしたいって思った」
「そんな、急に言われても――」

 急にもじもじ体を動かす彼女は、気恥ずかしそうに唇を尖らせると、声まで小声になった。

「直ぐに決められないのも、無理ないよな。場所を決めて、明日――」
「いいわよ。あんたのパーティに入ってあげる」

 もじもじしていた割に、はっきりとした答が返ってきた。
 唇先をツンと吊り上げて、「その代わり」とヴェインに指を差した。

「私を失望させないでよね。――マイナー・ネームは、レモンよ」
「おう! 絶対、失望させない。よろしくな、レモン」

 握手を求めると、指を差していた手でヴェインの手を取った。現実世界だったら、どんな感触がしたんだろうなと、ちょっと勿体ない感が否めなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

コスモス・リバイブ・オンライン

hirahara
SF
 ロボットを操縦し、世界を旅しよう! そんなキャッチフレーズで半年前に発売したフルダイブ型VRMMO【コスモス・リバイブ・オンライン】 主人公、柊木燕は念願だったVRマシーンを手に入れて始める。 あと作中の技術は空想なので矛盾していてもこの世界ではそうなんだと納得してください。 twitchにて作業配信をしています。サボり監視員を募集中 ディスコードサーバー作りました。近況ボードに招待コード貼っておきます

⊕ヒトのキョウカイ⊕【未来転生したオレは、星を軽くぶっ壊すチート機械少女と共にこの幻実(せかい)で生きて行く…。】

Nao
SF
 異世界転生したと思ったら未来だった…。  忍者の家系のナオは 20歳の若さで銃で撃たれ、脳だけ保存されコールドスリープをしていた。  ナオは自称神様のカレンの手によって砦学園都市の病院で目覚め、新しい身体を貰い、将来の為に学校に入り直す…。  そして…ナオがこの世界に来てから 1ヶ月後…圧倒的な物量と、際限が無い自己進化する宇宙最強の生命体『ワーム』が砦学園都市に攻めて来た…。  ナオは人型兵器のDLに乗り、大型シャベルでワームと戦う…。  そして、都市のピンチを救ったのは、ナオでは無く、機械の翼を持つ機械人『エレクトロン』の少女『クオリア』だった。 主な登場人物 ナオ  主人公 DLのテストパイロットをやっており、全体的に能力が弱いが道具と一体化する事で強くなる。 クオリア  機械人の為、不老不死で空間ハッキングと言う科学魔法を操る。  異世界転生者も真っ青な 大量破壊兵器の機械人であるが、ロボット三原則を守っており、主にナオをサポートしてくれる。 トヨカズ  VRゲームで中距離スナイパーを主に戦っている。  ワームとの戦いでVRゲームでの能力を生かし、中距離スナイパーとして戦う。 レナ  トニー王国の砦学園都市の次期都市長。  スラム街出身の移民で、戦闘能力は低いが、脳筋型のメンバーの中で作戦指揮や政治に長けており、メンバーの能力をフルで発揮出来るようする中間管理職。 ジガ  大戦時、ヒューマノイドの整形と義体整備を行う造顔師の師が運営していた風俗店のセクサロイド。  師が死んだ作中内では、造顔師と義体をメンテナンスする義体整備師を行う。  大戦前の人の文明に興味があり、大戦前のアニメや漫画、ゲームなどが好き。 ロウ  氷河期になり、低酸素状態の現在の地球で暮らす野生児。  雑食狼に育てられ、母親が死んだことで文明が衰退して産業革命前まで戻った集落で育てられる。  獣人の為 身体能力が高い。 カズナ  トヨカズとレナの娘で 最適化されたネオテニーアジャストの完成型の新人類。  頭が良く、3歳ながら義務教育終了レベルの頭を持つ、体重に対して筋肉量の比率が多く身軽に動けるが一定水準以上の筋肉は付かない。 ハルミ  大戦時にエレクトロンと戦っていた衛生兵。  大戦時に死亡し、機械の身体になる。  作中では 数少なくなってしまった医師として活躍。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。 そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。 プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。 しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。 主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。 孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。 その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。 多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。 「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」 「君にだけは言われたくなかった」 ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数! 圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。 ===========目録====================== 1章:お爺ちゃんとVR   【1〜57話】 2章:お爺ちゃんとクラン  【58〜108話】 3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】 4章:お爺ちゃんと生配信  【239話〜355話】 5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】 ==================================== 2020.03.21_掲載 2020.05.24_100話達成 2020.09.29_200話達成 2021.02.19_300話達成 2021.11.05_400話達成 2022.06.25_完結!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

世界最強でも妹は変わらず妹だということ。~the Ranking Society Wars~

奥野ホソミチ
SF
朝起きたら、世界は不条理な位階…つまり、ランキング制度によって支配されていた。 そんな中で、俺-中田ハルヒコは、自分がランキング最下位、すなわち世界最弱の人間であることを知らされる。それが明るみに出た時、世界は俺に対して、愛想を尽かしてしまう。でも、妹だけは違った。 「世界最強のあたしが、お兄ちゃんを一生守ってあげる!」 ……この妹、ランキング1位なんだってよ。

アルファポリスで閲覧者数を増やすための豆プラン

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
エッセイ・ノンフィクション
私がアルファポリスでの活動から得た『誰にでも出来る地道なPV獲得術』を、豆知識的な感じで書いていきます。 ※思いついた時に書くので、不定期更新です。

処理中です...