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No.030
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レインツリーはマイニング・ワールドではそこそこ有名なマイナーだが、やはり直也は知らなかった。
興味がないならそれも仕方がない。
「ギルドに誘われたから、OKした。しかもそいつ、一度、俺たちのウィルスに感染してる。HPがゼロになる前に自力でログアウトし、データを抹消された経験がある」
ビールを喉に流し込んで、チーズを口に運んだ。
残された時間は少ないと感じながらも、不思議と焦りはない。
ただ「直也を守れるか?」と問われると、「すまない」と頭を下げるしかない。
直也を守れるのなら、今すぐ二人で、誰の手も届かない場所へ逃亡したくなる。それが、せめてもの、罪滅ぼしになるのなら。
「もしかして、翔の正体を知ってるんじゃあ」
直也の目頭が充血した。
「だから、わざとギルドに入ってやった。きっと俺に、何か仕掛けてくる。捕まる前に、もうひと暴れしてやるさ」
「翔、――」と呟いた直也の目縁は、ますます赤く染まった。
大の大人が泣きそうになっている。先が思いやられるなと、翔はこめかみを押さえた。
直也の精神年齢は一向に成長しない。
小学生の時に、遠足の連絡事項を聞き逃した直也は、俺に「先生、何て言ってた?」と訊いて来た。その時、俺は何故か適当にあしらった。そうしたら、急に泣き出した。
中学の帰り、道沿いにあった古ぼけたペット屋に、カメレオンやインコや、カメが売られていた。大都会の中で今にも押し潰されそうな、ペット屋だった。直也が気に入っていた、カメレオンが誰かに買われて、いなくなった時も泣いた。
「もう覚悟は、できてる。とんだ憂さ晴らしになっちまった」
ビールを、もう一杯、頼もうか、どうしようか迷う。
直也は横に首を振ると、堪えたような顔で笑顔を作った。
見せた笑みに込められた意味が何なのか、分からなかった。でも、作り笑みだと分かった。
何十年、お前と顔を付き合せていると思ってる。
「一緒に捕まるなら、何も怖くないよ」
嘘吐け。本当は怖いくせに。泣きたいくせに。
直也の脆弱な横顔に魅入られる。
目頭を赤くさせる直也はモスコ・ミュールに視線を落としたまま、無理に口端を吊り上げているので、引きつ攣った顔になっていた。
「お前は、やりたい仕事ができて、良かったな」
喜びもしなければ、困った顔をするわけでもなく、直也は視線だけを上げた。
「そんなことはないよ」
笑うな。直也の作り笑いを見る度に、胸の奥が痛んだ。
胸の内側が熱くなったり、苦しくなったり、高笑いしたくなったりする。イカの塩辛とアボカド・ディップをぐじゃぐじゃに混ぜたような、わけの分からない味が舌に残った。
「これ空けたら、帰るか? 明日も仕事だろ」
直也はふと顔を上げると、少し考えてから、口を開いた。
「僕は、もう少し飲んでいくよ。喉も渇いたし」
直也にしては意外な答だった。この店が、気に入ったのかもしれない。
「そんじゃあ、付き合うよ。ぐでぐでに酔ったら、誰がお前を介抱するんだよ」
「そこまで酔ったことないだろ」と直也はムキになって否定した。
翔は店員を呼んで二杯目のビールとモスコ・ミュールを注文した。
興味がないならそれも仕方がない。
「ギルドに誘われたから、OKした。しかもそいつ、一度、俺たちのウィルスに感染してる。HPがゼロになる前に自力でログアウトし、データを抹消された経験がある」
ビールを喉に流し込んで、チーズを口に運んだ。
残された時間は少ないと感じながらも、不思議と焦りはない。
ただ「直也を守れるか?」と問われると、「すまない」と頭を下げるしかない。
直也を守れるのなら、今すぐ二人で、誰の手も届かない場所へ逃亡したくなる。それが、せめてもの、罪滅ぼしになるのなら。
「もしかして、翔の正体を知ってるんじゃあ」
直也の目頭が充血した。
「だから、わざとギルドに入ってやった。きっと俺に、何か仕掛けてくる。捕まる前に、もうひと暴れしてやるさ」
「翔、――」と呟いた直也の目縁は、ますます赤く染まった。
大の大人が泣きそうになっている。先が思いやられるなと、翔はこめかみを押さえた。
直也の精神年齢は一向に成長しない。
小学生の時に、遠足の連絡事項を聞き逃した直也は、俺に「先生、何て言ってた?」と訊いて来た。その時、俺は何故か適当にあしらった。そうしたら、急に泣き出した。
中学の帰り、道沿いにあった古ぼけたペット屋に、カメレオンやインコや、カメが売られていた。大都会の中で今にも押し潰されそうな、ペット屋だった。直也が気に入っていた、カメレオンが誰かに買われて、いなくなった時も泣いた。
「もう覚悟は、できてる。とんだ憂さ晴らしになっちまった」
ビールを、もう一杯、頼もうか、どうしようか迷う。
直也は横に首を振ると、堪えたような顔で笑顔を作った。
見せた笑みに込められた意味が何なのか、分からなかった。でも、作り笑みだと分かった。
何十年、お前と顔を付き合せていると思ってる。
「一緒に捕まるなら、何も怖くないよ」
嘘吐け。本当は怖いくせに。泣きたいくせに。
直也の脆弱な横顔に魅入られる。
目頭を赤くさせる直也はモスコ・ミュールに視線を落としたまま、無理に口端を吊り上げているので、引きつ攣った顔になっていた。
「お前は、やりたい仕事ができて、良かったな」
喜びもしなければ、困った顔をするわけでもなく、直也は視線だけを上げた。
「そんなことはないよ」
笑うな。直也の作り笑いを見る度に、胸の奥が痛んだ。
胸の内側が熱くなったり、苦しくなったり、高笑いしたくなったりする。イカの塩辛とアボカド・ディップをぐじゃぐじゃに混ぜたような、わけの分からない味が舌に残った。
「これ空けたら、帰るか? 明日も仕事だろ」
直也はふと顔を上げると、少し考えてから、口を開いた。
「僕は、もう少し飲んでいくよ。喉も渇いたし」
直也にしては意外な答だった。この店が、気に入ったのかもしれない。
「そんじゃあ、付き合うよ。ぐでぐでに酔ったら、誰がお前を介抱するんだよ」
「そこまで酔ったことないだろ」と直也はムキになって否定した。
翔は店員を呼んで二杯目のビールとモスコ・ミュールを注文した。
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