上 下
9 / 28

9

しおりを挟む
清水君は古びたキャビネットからファイルを何冊か取り出すと僕に手渡しながら言った。

「そうだな、取り敢えず今日はあそこに1台空いているデスクトップがあるから電源を入れて、この書類の書式を本年度用に変更してくれるかな?分からないところがあれば聞いてくれればいいから」


僕はA3位の書式がたくさん挟まったファイルを渡され更新作業を頼まれた。

まあだいたい予想していた通りだな。でもいいか、暇な時はここで勉強して時間をつぶせば親父と母さんの喧嘩を聞かなくてもいいし。

そう思い、書類の更新作業を始めてから1時間くらい経過した時、清水が自分のスマホの画面を覗いたとたんに表情を険しいものに変えた。ただ、その険しい表情の中の清水君の大きな瞳を覗き込むと、彼の瞳の奥にある瞳孔は、獲物を捕らえる瞬間のチーターのように広がっていた。


背筋が寒くなるような目の輝き。心の奥底では何かこれから起こる面倒な事を楽しんでいる。そんな気配が感じられた。

「チッ…!またか、田中ちょっと来てくれ一次活動は中断だよ」

「ええ~?!ひょっとしてまたあいつ?困ったなぁ、まだまだ書類作りがてんこ盛りで残ってるのに、こんなときに二次活動なんて…、清水1人で行ってよー」


「だめだよ、第一もともとは君のLINEつながりだったんだろ?ちょっとは責任を感じてくれよ」

「分かりましたよ…」

そう田中さんは渋々つぶやくと、その後何か閃いたようにこっちに顔を向け僕に話しかけようとした、田中さんの表情はまるで親戚の子供が、僕が疲れているのに遊んで欲しそうな時のような感じだった。


僕は咄嗟に何故か分からないが、彼女の表情を見た途端無意識に声が出てしまった。

「いやです、代わりに介抱なんか!」

田中さんと清水君が同時に「えっ?」と言うと同時にあっけにとられた表情をした。

「今からあなたに頼もうとした事、なんで分かったの?」

「いや、今自分でもなんでそんな事言ったか分からないや」

そういうと、僕は顔が硬直して何もいえなくなってしまった。

清水はその様子をなんとなく察したかそれとも急いでいたからか分らないけど、場を取り繕ってくれた。

「いいよ、今日は忙しいし、俺がやるよ」

「わかった、じゃあまつ君と私はサポートだね」

「そうだな、じゃあいこうか。田中、タクシー呼んでくれ」

この人たちは一体何をしようとしてるんだ?


「さあ!松君もくるんだよ」
「はぁ?え?どういうこと?」

「これからやる私たちの仕事を知っといてもらわないとね!今から裏口まで行くけど、靴はもってきてないよね?」

「えっ靴?靴を持ってこないとだめですか?」
なんで裏口から乗るんだろう…。嫌な気しかしないけど、とりあえず取りに行くか…
僕は頭を傾げながら、下駄箱に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

エロゲソムリエの女子高生~私がエロゲ批評宇宙だ~

新浜 星路
キャラ文芸
エロゲ大好き少女佐倉かなたの学園生活と日常。 佐倉 かなた 長女の影響でエロゲを始める。 エロゲ好き、欝げー、ナキゲーが好き。エロゲ通。年間60本を超えるエロゲーをプレイする。 口癖は三次元は惨事。エロゲスレにもいる、ドM 美少女大好き、メガネは地雷といつも口にする、緑髪もやばい、マブラヴ、天いな 橋本 紗耶香 ツンデレ。サヤボウという相性がつく、すぐ手がでてくる。 橋本 遥 ど天然。シャイ ピュアピュア 高円寺希望 お嬢様 クール 桑畑 英梨 好奇心旺盛、快活、すっとんきょう。口癖は「それ興味あるなぁー」フランク 高校生の小説家、素っ頓狂でたまにかなたからエロゲを借りてそれをもとに作品をかいてしまう、天才 佐倉 ひより かなたの妹。しっかりもの。彼氏ができそうになるもお姉ちゃんが心配だからできないと断る。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

群青の空

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
十年前―― 東京から引っ越し、友達も彼女もなく。退屈な日々を送り、隣の家から聴こえてくるピアノの音は、綺麗で穏やかな感じをさせるが、どこか腑に落ちないところがあった。そんな高校生・拓海がその土地で不思議な高校生美少女・空と出会う。 そんな彼女のと出会い、俺の一年は自分の人生の中で、何よりも大切なものになった。 ただ、俺は彼女に……。 これは十年前のたった一年の青春物語――

処理中です...