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トムが笑うことも鳴くことも、緑の目で自分を見つめることをしなくなってしまったら。
そう考えただけで、ソレは周囲の空気が薄くなったように感じた。
トムのために何でもしてやりたいのに、ニンゲンを治す方法を知らないソレには何もできることはなく、ただただ尻尾でトムを包み寒さを凌いでやりながら、傍らに寄り添って寝そべることしか出来ないでいた。
そうしている間にもニンゲンは水分をトムに飲ませ、吐き出したら再び塩と砂糖を混ぜた水を飲ませ、それを繰り返して二度目の朝が訪れた。
トムの嘔吐と下痢の間隔は徐々に伸び、今では間遠になっていた。
「渓谷の王よ、お子様の体内から毒素はあらかた出たようです。これからは水分だけでなく、消化の良いものを召し上がるようになさって、体力を戻されるのが良いように思います」
「ショウカ……? なんだそれは?」
「……私が用意させていただきます」
ニンゲンがトムから離れ、荷物を持って焚き火の側に膝を付き何やら始めるのを、ソレは黙って見つめる。
トムが再び弱ったときに真似出来るよう、一生懸命に覚えようとしていたのだ。
異形の者に凝視されているのが恐ろしいようで、ニンゲンはガチガチと歯を鳴らしていたが、やがて手鍋を持ってトムとソレを振り返った。
「出来上がりました」
しずしずとソレの前に近寄ってきたニンゲンは、赤い目を見ないように目を伏せながら手鍋を差し出した。
「麦の粥です。お子様に差し上げてよろしいでしょうか?」
「……まずお前が食べてみせろ」
最初に食べて見せないと食事をしない最近のトムのためにそう言ったのだが、ニンゲンはムッとしたような表情を浮かべた。しかし何か口答えをするでもなく、言われたとおりに木の匙でひと掬いしたものを食べてみせた。
「よし。トムに食べさせてやれ」
「……」
ムッとしたことで恐れが薄れたのか、ニンゲンはも震えることなくトムに侍った。
「御子様、おくちを開けて下さい」
トムの頭を膝に乗せ、口元に匙を近づける。
しかし薄っすら目を開いたトムはぷいと横を向く。
「やだ……だれ? ……とうさん……とうさん、どこ?」
混乱しているのか、すぐ後ろにいるソレに気付かないトムは、目から水を流しながらソレの姿を求めた。
その時、ソレは体が引き千切られてしまいそうな苦しみを覚えた。
「トム! お父さんはここにいるぞ! 側にいるからな!」
ニンゲンの膝の上から奪い取るように、触手でトムの体を掬い取ると、ソレは自分の腹の下に尻尾と触手で抱え込んだ。
「とうさん、とうさん!」
「よしよし、何もこわくないぞ。お父さんがずっと守っているからな」
「お父さん」
まだ水を流してはいたが、トムは安堵したように微笑み、自分を包む尻尾と触手に頬ずりした。
そう考えただけで、ソレは周囲の空気が薄くなったように感じた。
トムのために何でもしてやりたいのに、ニンゲンを治す方法を知らないソレには何もできることはなく、ただただ尻尾でトムを包み寒さを凌いでやりながら、傍らに寄り添って寝そべることしか出来ないでいた。
そうしている間にもニンゲンは水分をトムに飲ませ、吐き出したら再び塩と砂糖を混ぜた水を飲ませ、それを繰り返して二度目の朝が訪れた。
トムの嘔吐と下痢の間隔は徐々に伸び、今では間遠になっていた。
「渓谷の王よ、お子様の体内から毒素はあらかた出たようです。これからは水分だけでなく、消化の良いものを召し上がるようになさって、体力を戻されるのが良いように思います」
「ショウカ……? なんだそれは?」
「……私が用意させていただきます」
ニンゲンがトムから離れ、荷物を持って焚き火の側に膝を付き何やら始めるのを、ソレは黙って見つめる。
トムが再び弱ったときに真似出来るよう、一生懸命に覚えようとしていたのだ。
異形の者に凝視されているのが恐ろしいようで、ニンゲンはガチガチと歯を鳴らしていたが、やがて手鍋を持ってトムとソレを振り返った。
「出来上がりました」
しずしずとソレの前に近寄ってきたニンゲンは、赤い目を見ないように目を伏せながら手鍋を差し出した。
「麦の粥です。お子様に差し上げてよろしいでしょうか?」
「……まずお前が食べてみせろ」
最初に食べて見せないと食事をしない最近のトムのためにそう言ったのだが、ニンゲンはムッとしたような表情を浮かべた。しかし何か口答えをするでもなく、言われたとおりに木の匙でひと掬いしたものを食べてみせた。
「よし。トムに食べさせてやれ」
「……」
ムッとしたことで恐れが薄れたのか、ニンゲンはも震えることなくトムに侍った。
「御子様、おくちを開けて下さい」
トムの頭を膝に乗せ、口元に匙を近づける。
しかし薄っすら目を開いたトムはぷいと横を向く。
「やだ……だれ? ……とうさん……とうさん、どこ?」
混乱しているのか、すぐ後ろにいるソレに気付かないトムは、目から水を流しながらソレの姿を求めた。
その時、ソレは体が引き千切られてしまいそうな苦しみを覚えた。
「トム! お父さんはここにいるぞ! 側にいるからな!」
ニンゲンの膝の上から奪い取るように、触手でトムの体を掬い取ると、ソレは自分の腹の下に尻尾と触手で抱え込んだ。
「とうさん、とうさん!」
「よしよし、何もこわくないぞ。お父さんがずっと守っているからな」
「お父さん」
まだ水を流してはいたが、トムは安堵したように微笑み、自分を包む尻尾と触手に頬ずりした。
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