男しか存在しない世界に女として転生した私の幸福な毎日。

ココナツ信玄

文字の大きさ
37 / 41

転生幼児は友達100人は作れない24

しおりを挟む
「おとうさん! おとうさん! ええええええん!」

 泣きながらしがみつくテスを抱き上げ、スルトは愛おしげに小さな背中を撫でる。

「大丈夫だぞ、お父さんは死んでないぞ」

「うええぇええぇえ! じんじゃやだぁあっ! おどおざああぇええええんっ!!」

「大丈夫、大丈夫だからな! テスを置いてお父さんは死んだりなんかしないからな!」

「うびゃああぁあぁああん!」

 テスを宥めているうちに死に別れる脳内イメージが湧いてきてしまったらしく、スルトまで涙ぐんで来ている。

「テス!」

「おどおじゃあああぁああぁあぁぁん!」

 ひしと抱き締め合う父子をぼうっと眺めていると、トールが私の眼の前で膝を付いた。
 しっかりと私と目を合わせてくる。

「ティカ、わかったか? 噛んでしまうと一方に何かがあったら番までもが巻き込まれてしまう。だから村では人を噛んで魂を繋げることを禁止しているんだ」

「首の後ろじゃなければいいんじゃない?」

「……そもそも人を傷付けることはいけないことだろ?」

「うん」

「だから噛んじゃ駄目だ。でも魂を繋げて番の命を危険に晒すよりは、体に傷を付けるだけだからまだマシだ。だからスルトの兄は罰労働なんだ」

「……」

「しかし故意にーー事故ではなく、噛みつこうと思って人を噛んだなら『魂を繋げようとした』と見られて罪が重くなる。うなじを噛む本能を抑えられない者は”狂い狼”と見なされるんだ。掟でも愛情でも縛れない者は、追放か死刑でしか対処出来ないからな」

「だったら! テスのおじさんだって、わざと噛んだんだから追放か死刑にならないと駄目でしょ!」

「わざとじゃない。あいつには好きな奴がいるんだ。テスと繋がりたいわけじゃないのは誰もが知っている」

「……」

 子供に欲情する性癖の人は今世にいないのだろうか、とか、スルト兄の好きな人まで一族皆に知られているらしいというプライバシー皆無な我が村に慄きを感じたりとか、色々と思わないものが無いわけでは無かったが、納得は出来た。
 今世は危険な獣も、村を襲う敵も身近に存在している。そのため村人は自分と一族の存続の為に戦わなければならず、それによって死ぬ可能性は多分にあった。
 そんな状況で大事な戦力、マンパワーをむざむざ減らすようなことは出来ない。
 アルファがうなじを噛んでオメガと番になることで史上の幸福を得るというのは、前世ではお馴染みの設定だった。一方が死んだらもう一方も生きてはいられないほどの愛によってお互いが繋がるという、何とも胸熱な設定、何ともロマンチックな関係だ。かく言う私も大好きだった。
 しかし現状では大変恐ろしいシステムなのだと実感した。
 無傷なのに、伴侶が死んだら片割れまでもが問答無用で死んでしまうのだ。致死率100%とはどんな疫病よりも恐ろしい。回避しようと対策するのは当然だと思えた。

「うん、分かった」

 大きく頷いた私に、トールは心配そうにちょっと眉尻を下げたが、くしゃりと頭を撫でてくれた。タウカも手を伸ばし、私のおでこをつるんと手のひらで包むように撫でてくれた。

 二人には守るべき家族、子どもたちがいる。それを放り捨てることは出来ず、村の掟が罰を下すのならば村人である彼等にとっては、それに従うのが最適解なのだろう。
 タウカとトールが何故テスを傷付けた人間に報復をしないのか、その理由が分かった。しかし私の小さな友人を傷付けた人を見逃すつもりは私には無い。
 要は、掟を破らないようにしつつ、しっかりきっかり仕返しをすればいいのだ。成人女性として生きていた精神を持つ私ならば簡単なことだった。
 ーー今はまだ良い方法が思いつかないけれど。きっと後でひらめくだろう。たぶん。おそらく。

 うん、と自分を励ますように自分に向かって頷いてから、私はタウカに向かって両腕を上げた。
 抱っこお強請りポーズだ。

「ティカ!」

 まんまとタウカの心を鷲掴み出来たようで、我が父は綺麗なオッドアイを潤ませ、すぐさま抱き上げてくれた。
 首っ玉にしがみつき、頬を擦り寄せる。

「……」

 痛い。
 剃り残したらしいタウカの右頬のヒゲが不快だったので、反対側の頬に寄る。
 左側はチクチクしなかったので、私は安心して頬と頬をくっつけた。
 自分の目の前に映る余計な脂肪などついていない、しなやかなタウカのうなじを見つめる。
 剥き出しだ。
 私達が住む村は基本的に暖かく、年間を通して貫頭衣と下着くらいしか着ていない。余程寒かったり狩りに行くのでもない限りズボンも履かないし、毛皮を被るのは氷が張るような真冬の一瞬くらいだ。
 魔獣狩りに行く一の村の男達を見かけたことがあるが、彼等も貫頭衣にズボンだ。ごく少数、革の小手や脛当てを身に着けている人がいたが、それだけだった。
 噛まれてしまったら遠隔無理心中が可能になってしまう、急所が無防備なのは何故なのか。
 タウカを含め、呑気すぎる村人たちを放っておけなく思った。危機意識の低い彼等を守り導くのが、今世の私の使命なのではないだろうか。
 胸の奥から湧き起こる熱い思いに駆り立てられ、一層強くタウカ首にしがみつく。

「ん? どうした? 俺も大好きなティカ置いて死んだりなんかしないからな」

 テスのように、父親の死を想像して悲しくなったのだと思われたようだ。
 優しく背中をポンポンされ、やぶさかではない気持ちになったので、そういう事にしておく。
 そう言えば、テスの泣き声が聞こえなくなったな、と疑問に思って我が家の扉の方を見てみると、うるうるした目の小さな友人と目が合った。

「ひっく……?」

 何とか泣き止んだようだ。

「……」

 きょとんとしている。

「……」

「……!?」

「……」

「……ふ……ふえぇえぇん!」

 まんまるお目々でこっちを見ていたテスだったが、すぐにハッとして再び泣き出した。
 一瞬、何故自分が泣いているのか、理由を忘れてしまっていたらしい。
 かわヨ。
 思い出してすぐ、気を取り直して改めて泣き出すところも全部が全部愛らしい。
 可愛らしい友人と、困っているんだか嬉しいんだか判別できない表情のスルトを眺めているうちに、タウカの背中ぽんぽんにやられてしまい、気が付いたら私は睡魔に意識を刈り取られていた。


    
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

処理中です...