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転生幼児は友達100人は作れない19

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 抱き締める私の手に力が入ったすぐ後で、テスのぷにぷにお子ちゃまアームにも力が入る。

(父親じゃなくて伯父さんに泣かされたんだね! よし! そいつを見つけたら成人の精神を持つ私が仕返ししてあげるからね!)

 いつかテスの仇討ちをすることを心に決め、ひしと小さな友人と抱き合う。
 一向に自分の方を見ない息子に、スルトは寂しそうな表情を浮かべている。

「……俺は駄目な父親だ。子供を守るのは親の務めなのに……」

 打ちひしがれた様子で呟いたスルトに、トールが目を剥いた。

「あいつ! テスに手を上げたのか?!」

 ついさっきまでスルト兄に共感を覚えていたはずのトールが豹変した。
 産爺であり三の村の医療師であるトールにとって、子供を傷付けることは許し難いのだろう。
 もちろん私だって、滅茶苦茶可愛いこの世界の子供達を泣かせるなんて勘弁ならないと思っている。

(ぶったりなんかしてたら! 絶許!!)

 テスの背中を撫でてあげながら怒りに燃える私の前で、スルトはふるふると首を横に振った。

「手を上げたわけじゃない! そうじゃなく……」

「スルト! お前は自分の子供じゃなく兄を庇うつもりか!!」

「そんなつもりは無い!」

「自分の言動を振り返ってみろ! お前はスルトを優先しているじゃないか!」

「そんなことしていない!!」

「お前っ」

「ふ……うええぇえぇん!!」

 大人の怒鳴り声が怖いのだろう。ヒックヒックしていたもの落ち着き始めていたテスが、再び大泣きし始めてしまった。

「テス、大丈夫だよ、誰も怒鳴ってないよ!」

 しがみついているテスの小さな背中を擦ってあげるが、不甲斐ないほどに小さなモチモチお手々には安心感も説得力も無いようで、テスはますます大きな声で泣き始めてしまった。

「えええええええん!」
 
「おっと、俺は子供達と家の裏に行ってるから、トール、頼む」

「わかった」

 タウカはテスは当分は泣き止まないだろうと踏んだらしい。
 私と友人を抱っこしたまま大人二人に背を向けて家から出てしまった。

(何をテスにしたのか具体的な話を聞きたかったんだけどな)

 敵討ちのために必要な情報を得るべく、中身が大人である私も家の中に留まりたいところだったが、小さな友人は全力で私にしがみついているし、父タウカに抱っこされている現状も満更まんざらではないので、外に連れて行かれるままになっておく。

 尻で家の扉を閉め、ゆっくりと段差を降りながらタウカは一つため息を吐く。

「何やってんだ……」

 頭の上の呟きに誘われて視線を上げると、タウカは呆れたような顔をしていた。

(ほほう。トールはブチ切れてたけど、タウカは呆れはしてもスルト兄に怒ってるわけではないのかー)

 もしかしたら二の村で全寮制男子高校生的村人生活をしていた時に、タウカとスルト兄は仲が良かったのかもしれない。

(でも私は関係ないもんね)

 スルト兄がタウカの友人であったとしても、彼は私の友人ではなく、テスこそが私の友人なのだ。
 許してやる気も敵討ちを手加減してやる気も更々ない。

(友達を泣かせた分、泣かし返してやるから!)

 通常、人の喧嘩に出しゃばるのは褒められたことではないが、テスはまだ3歳児だ。大人が子供を虐めるなら、私だって他人事だと見逃しはしない。
 顔も知らない人間に敵意をモリモリ募らせていると、テスが身動ぎした。
 そして右腕で涙を拭いてから顔を上げる。

「テス!」


 息が止まった。



 むちむちな友人の腕を引っ掴む。

「これ、これ! これ何!!」





 許されない事だ。
 許してはいけない事だ。
 子どものこんな事、いや人として許されざる事だ。





「テス!」

 私はパニックに陥ろうとしていた。
 まだ幼い友人のツヤツヤした小麦色の腕、つるんとした小さな肘の近くに、大人の人間のものだろう歯型を見つけてしまったから。



 

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