男しか存在しない世界に女として転生した私の幸福な毎日。

転生幼児は友達100人は作れない15

「他性を意識しすぎておかしな態度をとってしまう子供が多いことは理解しているんだ」

　トールは重い重い溜め息を吐いた。

「三の村に来た時はオメガ差別的言動もしないし、ニ村の知人に様子を聞いても、おかしなことは口走らないで立派に村の代表を務めていると言っていた。年齢だって落ち着いてもいい頃だ。それなのに……マールは俺にだけオメガ差別的な振る舞いをやめない………」

　トールとアルファの夫、子供達二人の四人家族団欒の時は黙り込み、トールが触れようとするとその手を振り払い、話しかけても無視をするのだと。それならばしばらく距離を置いて落ち着くのを待とうとしてみたが、今度は怒りに満ちた目で睨みつけてくる。気が付けば自分を見ているから何か言いたいことがあるのだろう、と近付けば逃げられる。
　そんなマールの最近の様子を語るトールは、心底困り果てているように見える。

「今も、どうして良いのかわからないんだ」

「……マールは兄弟には何か言っていないのか?」

「何も言っていないとは言っているが……上の子はアルファだから一の村に父親と居る。マールに会う頻度は俺と大して変わらないからな……話す時間が無いのかもしれない」

「まあなあ……今のニの村代表はマールだからなあ。忙しいんだろうな」

　そんなに忙しいわけでもないと思う。
　何せマールは肉っ子を育成していた。村を抜け出て友達とおちあい肉っ子の世話をするくらいには余裕はあるはずだ。
　それなのにマールはトールに会いに来る時間はないらしい。

　家族団欒の時間が定められてるらしいこの部族の詳しい決まりがまだ分からない。
　分かっているのは番とは頻繁には会えるわけでは無さそうで、出会いは三つの村合同の集会や祭りで、思いが通じたらオメガの元に通うことが許され、結婚したら団欒の場が用意される、ということだけだ。
　番同士のめんどくさい決まりは大体分かっていると思うが、親と子についてがさっぱりだった。

　私としては死ぬまでオメガ父タウカといっしょに居たいのだが、体が大人になったらニの村に一旦行かなくてはいけない。その後、アルファ、ベータ、オメガと言う性別ごとに分けられ、機会がなければ一緒にご飯も食べられなくなってしまうのだ。

　女の体は、一体どの村に振り分けられるのだろう？

　三の村以外に振り分けられたらタウカと毎日一緒にいられなくなってしまう。そう気付いてゾッとしたその時、扉が叩かれた。

　ペチン、ペチン!

　ドンドン、でもコンコンでもなく、掌が平らな板を叩く音だ。

「うう、ひっく……ティカ……ティカー!」

　そして幼い友人の泣き声も一緒に聞こえてきて、私は手からフォークを落としてしまった。