男しか存在しない世界に女として転生した私の幸福な毎日。

ココナツ信玄

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赤子転生4

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 前世、日本で成人女性として生きていた時、私は血縁に縁がない代わりにBL運はあった。
 女の身でBL運とはどういうことかと人は思うだろう。何を言っているのか分からないと思うが、確かなのだ。
 私が手に取る本、手に取るBL本は全て自分の好みにぴったりフィットするものばかりだった。思うに、血族に愛されることが無かった代わりにBL本の神のような存在に愛されていたのだと思う。
 そのBLの神が今世、極楽浄土へと私を誘ってくださったのだ。
 男と男が番うのが常識で、異端ではない世界。
 360度衆道の世界とは、私にメリットしかない世界だ。
 神様、ありがとうございます。この世界で私は幸せになります、そうBL神に祈りを捧げるべく、歓喜に震えながら両手を合わせて目を閉じる。

「どうした? ティカ、寒いのか? 一人にしてごめんな! 父ちゃんがあっためてやるからな!」

 産み落とす方も父さんなのか、と気になりつつ、タウカの胸に納まっておく。

「村長、タウカの子供には暖が必要です」

「……いいだろう」

 緑髪に言われて、白髪老人・村長は渋い顔で頷いた。

「それなら俺の子も!」
「そうです、オレの子も暖めてやりたいです」
「オレの子も!」

 一人が許されたら他の人も我も我もと続くもので、赤ん坊の保護者3人は村長の返事を待たずに自分の子供を拾い上げ、小走りに火の側に戻った。
 今まで深刻な空気に満たされていた男達の集団が、ほにゃほにゃ声を出す赤ん坊が混じったことで和やかな空気に塗り替えられてしまった。
 ムキムキの無精髭顔の強面男子も、隣に座った人の腕の中の赤ん坊が「ぷうぅ」と涎を出しながら見上げた途端にデレデレした顔になってしまった。
 この村の男達は子供に優しい人ばかりのようで、安心した。
 せっかく極楽に転生出来たのに、子供を虐待するような環境だったらのんびりBL鑑賞も出来ない。

「……それで、タウカ。お前の伴侶は誰だ」

 えへん、と咳ばらいをしてから村長が再び尋ねた。

「……」

 タウカは答えない。
 拾いました、と言えばいいのに何故そうしないのか。もしや捨て子を拾うのはこの世界で禁忌なのか? と訝しんだ時、私を抱き締める腕に力が入った。

「伴侶はいません……」

「いない? 一人で子供が作れるわけがないだろう。言えないような相手なのか?」

「誰でもありません」

「……発情期に村の外に出たのか? 強要されたのか?」

「……」

 タウカと村長の会話が何だか不穏な流れになってきた。
 単に拾いました、と言えば、こんな風に大勢の前で詰問されることもないのに。
 タウカ、拾ったって言って。それがどんな禁忌でも、自分のことだから受け入れます。そう言いたかったのけれど、

「あだー」

 言いたいことも言えないなんて、乳児とは儘ならないものだ。
 意味不明な音を出した赤ん坊に、タウカは目を潤ませて更に強く抱きしめてきた。

「ティカは俺の子だ! 伴侶なんかいない、俺だけの子だ!」

 火を囲んでいる男達が視線を交わし合っている。悲痛そうだったり、疑わしそうだったり、怒っていそうだったり、様々な表情で無言のうちに意見を交わし合っている。緑髪の人が村長に頷いて見せ、村長も大きく頷き返した。意見がまとまったらしい。

「……そうか。では、その子供はタウカの息子、ティカとして三の村の子供と受け入れよう。皆もそのように。いいな」

 否を唱える声はなく、無事私はタウカの子供として村に受け入れてもらえた。
 良かった、と安堵しつつも疑問が小さな胸にまだくすぶっている。
 タウカは何故頑なに私が捨て子だということを隠したのだろう。時々私を憐れむように見るのも気になる。

「ティカ、俺がずっと守ってやるからな」

 半泣きのタウカの茶色の瞳を見上げていると、集会所の外からガサガサと草を踏む音が聞こえてきた。

「っ!」
「!」

 床に座っていた男達が全員膝立ちになって手に持っていた武器を構えた。
 タウカも私を左腕に抱えなおし、右手でマチェットを眼前に掲げる。
 熊が来たのかと私も息を止める。しかし三人の赤ん坊達がふにゅふにゅ声を上げた。
 自然と、赤ん坊を抱えた男四人を中心に庇うよう、村の男達が広がる。
 獣に相対した時、この村では子供と保護者を守るのがルールのようだ。年若いだろうアシュターすらも自分より年上そうな赤ん坊の保護者の前に立っている。
 不意に、集会所の外から聞こえていた音が消えた。
 部屋の中の空気が肌を切り裂きそうなほどに張り詰めたその時、

「一の村のガガルとマーテルローの息子マレルと、サキトとダールの息子ダシュトだ!」

 外から聞こえてきたのは確かに人の声だったので、集会所の中の空気が目に見えて緩んだ。しかし村長の顔は険しいままだった。手に持った剣を下げないまま、扉に向かって尋ねる。

「魔獣が出た今、なぜわざわざ一の村の人間が三の村へ来たのだ」

 アシュターが偵察に二の村の方へ行っていたのだし、一の村の人たちが三の村に来てもおかしくはないと思ったのだが、タウカも含めて男達の眉は顰められている。

「それは……」

「今、村には生まれたばかりの子供がいる。不審な人間を迎えるわけにはいかないのだ」

「だからこそ! だからこそ俺たちは三の村に来たんです! どうか中へ入れてください!」

「……」

「俺たちを助けてください!」

 村長も外の人たちの縋る様な声に感じるものがあったのだろう。武器を下におろし、扉に一番近いところに座っていた黒髪のマッチョに視線を投げた。黒髪は武器を持ったまま扉へと歩み寄り、警戒心も露わにそっと木の扉を引き開けた。途端、肩を組んだ二人がなだれ込むように中に駆け込んできた。

「助けてください!」
「うぅ……」

 青い髪の少年が金の髪の少年を支えるようにしながら、集会所にいる人間全員に向かって叫んだ。

「産まれそうなんです!」

 
 
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