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第十九章

戦う訳-05

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 AD総合学園格納庫区画。

  既に無人・有人含めたAD全機が出撃している状況であるその場所は、格納庫の破壊等による不利を理外にする事が出来る関係上、本来ならば格納庫自体は放棄する必要があったが、しかし未だ格納庫の防衛を目的とした防衛戦を展開していた。

  理由は二つ。

  一つは、敵の数が圧倒的に少ない現在、操縦技量で勝る敵を相手取るのならば防衛戦に徹底した方が良いという、神崎紗彩子と天城幸恵の意見を採用した為だ。

  防衛戦は敵の動きに合わせて陣形や戦略を変える事が出来る側面があり、紗彩子はともかくとして幸恵はこちらの方が好みであるという理由でもある。

  もう一つは――格納庫区画で最後までADの整備を行い、避難に遅れる整備士がどうしても出る実状があるからだ。

 大多数は先ほど十機撃墜した段階で避難させる事が出来たが、現在Cランク格納庫は明宮哨を中心に十五名の整備士がおり、更には有人機パイロットだったが機体を落とされた結果、止む無く避難してきた者もいる。

  Aランク、Bランク、そして教師用や部兵隊用格納庫も既に出払い、現在はCランク格納庫へと皆集まって、敵の陣形が空き次第、近くのシェルターまで避難する予定となっている。

 無人秋風に装備されたライオットシールドで防がれる敵機からの弾丸。

  神崎紗彩子は破損状況などを鑑みた上で、全有人機へ指示を送る。


『これより残った非戦闘員及び負傷者の避難を行います。無人機部隊の二割を防衛に回した上で、当方部兵隊七番機から二十番機までも続いてください。残る部兵隊一番機から六番機、及び島根さんの機体は、このまま敵を引き付けて下さい』

『了解!』


 返事は天城幸恵一人からだった。

  紗彩子は現在の位置及び状況の整理を開始。

  現在はCランク格納庫の防衛を行っているが、ここから近くのシェルターは、シェルターと呼んでいいかは疑問であるが、試作UIGへと入るゲートが一番近い。

 古い格納庫から入れるのだが、この格納庫は以前ミィリスの襲撃があった際に破壊され、それまで修繕される事なく立ち入りを禁止する事で秘匿していた。

  だが問題は、ゲートのあった格納庫へ近い場所にはまだアルトアリスが存在し、現在は格納庫跡などを壁にして射撃戦による攻防を続けている事だ。このままでは避難に移る事が出来ない。


『島根さん、天城さん、千鶴。お願いがあります』

『何かな?』

『な、何でしょうか隊長!』

『何でも言って~』

『私と共に、少し無茶をお願いします』


 それだけを言うと、三人は紗彩子の心意を理解したように、機体での砲撃を止めた。


『行きます!』


 部兵隊・一番機、紗彩子の高火力パックが駆けると、それに続いて二番機の幸恵、三番機の千鶴が高速戦パックで前面を駆け、その60㎜機銃を構えながら、撃つ。

  突然の事に一瞬驚いたようにしていたアルトアリス群だったが、しかし速射砲をすぐに向けて撃つ所を見ると、攻撃の手を緩めるつもりはないようで――そして、全員がそれを期待しているわけではない。

  射線を読み、ジグザグに走行する事でそれを避けていく面々。

  特にのどか機は三人に続くわけではなく、地面を強く蹴りつけた飛翔によって敵の上方を取り、そのまま敵機の背後に回る。

  振り返る隙を与えずに、一機のアルトアリスへ殴りかかるのどか機。二機程がそんな彼女へ電磁砲の砲身を向けた為『おっと』と漏らしながら、冷静に地面を蹴って飛び跳ね、電磁砲を躱していく。

 そんな機体の背後を取るように、紗彩子が115㎜砲を放つ。

  本来味方機が近い状況で、しかも走りながら放つのは大変危険ではあるが、しかし紗彩子は自身の射撃能力に自信を持ち得、さらにもし狙いが逸れたとしても、のどかならば避けるという信頼もある。

  事実、弾頭はアルトアリスに直撃し、倒れる。

  レーザーサーベルを構えた幸恵機と千鶴機が続いて突撃し、二機のアルトアリスに切り掛かる。それらを躱して行くアルトアリス群だが、しかし立ち位置が僅かに変化した。

 今ならば、Cランク格納庫から試作UIGのゲートがある古い格納庫跡まで、防衛が可能だ。


『移動開始!』


 すぐにCランク格納庫を守っていた一部部隊が射撃を止め、移動準備をしていた非戦闘員の面々を護衛する為に行動を開始。

  非戦闘員達は皆走らず、列を形成して格納庫跡を目指す。

  それを知ってか知らずか、残るアルトアリス八機は固まりながら、避難民の誘導を行う秋風への攻撃を開始。

 ライオットシールドで防ぎ、無人機秋風は撃墜されても倒れぬように、そして飛び交う銃弾の壁となるようにしゃがみつつ、守っている。


『部兵隊一番機から六番機、そして島根さんは敵の目を引いてください!』


 叫びながら、115㎜滑腔砲を放つ紗彩子の言葉に従うよう、のどかが弾丸飛び交う戦場を駆け抜ける。

  敵陣のど真ん中に突撃した彼女が敵機の腕部、脚部を攻撃し、上空を舞い、敵の目を引きつつ、部兵隊の面々も順次攻撃を開始。

  狙い通り、敵はのどか機を筆頭に攻撃を仕掛ける七機に狙いを絞ったようで、避難民達は早足で格納庫跡へと向かっていく。
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