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第十七章
戦いの前に-07
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「作戦は以上です。何か質問は」
楠が放った言葉を聞いて、その場にいる全員が手元の資料と先ほどまで楠が語った作戦、そして自分でメモした内容などを鑑みて、思考している。
現在、作戦会議は三年生のOMS科教室――つまり、生徒会室で行われている。
参加メンバーは、秋沢楠・神崎紗彩子・天城幸恵・坂本千鶴・城坂聖奈・久世良司・島根のどか・村上明久・城坂織姫……つまりオレの九人だ。
久世先輩は思いの外軽症だし、神崎も痛みは引いて、もう操縦になんら支障はない……と言っていたが、彼女は無茶する女だから、どこまで本気かは分からない。
「作戦はすぐに開始するのか?」
そう尋ねると、楠が頷き、姉ちゃんが立ち上がる。
「既に居住区画の住民へ指示は開始。夏休みで生徒や商業区画にいる人が少なかったのも合わせて、かなり素早く動けたのが良かったわ。
もし仮に避難が遅れた人がいたとしても、シェルターへ直接攻撃を仕掛ける様な真似はしないでしょうし、近隣シェルターへ早々に逃げる事は容易な筈よ」
「了解」
「では次に千鶴が」
神崎が手を上げ、彼女の部下である坂本千鶴が立ち上がる。
「えっと、そのレイスが襲撃を仕掛けてくるとしたら、本当に今日明日の事なんでしょうか。例えば、日数をズラすとか、考えられないでしょうか?」
「勿論可能性としては無くありませんが、もしそうであればAD学園が戦場になる可能性を可能な限り減らせます。
現状、米軍の特殊コマンド部隊であるアーミー隊が、敵基地への攻撃準備に移っています。この作戦は今日から明日に掛けて行われる予定ですので、この作戦が上手くいけば、敵はこちらへ攻撃行動を仕掛ける事が出来なくなります。
そうなればそうで、もっと別の作戦を立案します」
「哨さんや梢さんが敵UIGから逃げて来たからこそ、今日明日にでも襲撃に来るという事ですね」
坂本の質問に対する返答をまとめた神崎が、フムンと顎に手を当ててそれで良しとした。
「厳重警戒は、この会議終了後からです。実弾装備の準備は完了している、という事で構わないですね。神崎さん、天城さん」
「うん。既に実弾を装填した装備を何時でも使用できるように完熟訓練も行ってるけど、現状の装備は模擬弾頭装備でよかったの?」
反対に楠が問うと、それに対しての返答は天城先輩が。
「構いません。危険度は上がりますが、向こうがテロを仕掛けてくるにしたって、こっちもテロで応じるわけにはいきません。既存のルールに従い、その上で最大の安全策を取るべきです」
「分かった。……楠ちゃん、ちょっと変わった?」
「作戦会議中です。私語は慎んでください」
「はーい」
「じゃあ次アタシが質問していい?」
今度は島根が手を上げる。楠も頷いて「どうぞ」と言うと、彼女は電卓を叩くフリをして、外に見える秋風を指さした。
「秋風はパイロットの無い機体も合わせて全機投入、って事でいいんだよね?」
「ええ。ですがセキュリティの問題もありますので、駆動を停止した秋風には自動的に認証ロックが掛かるようになっています。
指定コードを入力しないと起動しませんので、万が一駆動停止した秋風を動かしたい場合はコードの入力をお願いします。コードは記載の通りです」
「何時の間にそんな準備してたの?」
「あ、それは私の提案よのどかちゃん。で、私の提案を楠ちゃんから康彦君にお願いしてて、さっきそのソフトを導入して貰ったの」
ふふん、と笑う天城先輩に、島根が「あーそういう事思いつきそうだもんね先輩」と笑う。
「質問は以上でしょうか」
楠が問うと、全員が黙る。異論も、質問ももう無いという事だ。
「結構。では各員、所定の位置に付き、作戦準備に取り掛かって下さい。恐らく、その最中に襲撃があります。解散」
彼女の言葉に、オレを含めた全員が動き出す。
楠だけは部屋に残ったが、彼女はコレからやる事がある。
「織姫さん」
並んで歩く神崎が、オレに声をかけてくる。
「これでまた同じ場所で戦えますね」
「無茶すんなよ神崎。怪我人の大丈夫ほど面倒な大丈夫はねぇからな」
「その言葉はそっくりそのままお返ししたいのですが。……貴方は大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫。――今は頭スッキリしてる」
「そう。――二秒、お時間をください」
オレの手を引き、彼女は壁にオレの体を押し付けると、短くオレの唇と自身の唇を重ね、正確に二秒で、唇を離した。
「ん――コレで補給は完了です。生きて帰れたら、続きをしましょう」
「続きって何だよ」
「それを淑女に言わせないで下さい」
「いやマジでわからないんだけど」
「それでも大丈夫――貴方も私も、生きて帰らないといけない、という事だけを、覚えておいてくれれば」
失礼、と残して神崎が小走りで駆けていく光景を見届け、オレは唇に手をやった。
キスの意味は、よく知らない。
オレにとってのマウストゥマウスは、人工呼吸をする行為ってイメージだし、そうでなくとも頬にキスする事はアーミー隊に居た部下や元上司とよくやった。けど、唇はそういえば彼女とが初めてだった。
その後楠ともキスをしたし、あのオースィニって奴とも、何だったら島根ともした。女はキスしたい生き物なのだろうか。
楠が放った言葉を聞いて、その場にいる全員が手元の資料と先ほどまで楠が語った作戦、そして自分でメモした内容などを鑑みて、思考している。
現在、作戦会議は三年生のOMS科教室――つまり、生徒会室で行われている。
参加メンバーは、秋沢楠・神崎紗彩子・天城幸恵・坂本千鶴・城坂聖奈・久世良司・島根のどか・村上明久・城坂織姫……つまりオレの九人だ。
久世先輩は思いの外軽症だし、神崎も痛みは引いて、もう操縦になんら支障はない……と言っていたが、彼女は無茶する女だから、どこまで本気かは分からない。
「作戦はすぐに開始するのか?」
そう尋ねると、楠が頷き、姉ちゃんが立ち上がる。
「既に居住区画の住民へ指示は開始。夏休みで生徒や商業区画にいる人が少なかったのも合わせて、かなり素早く動けたのが良かったわ。
もし仮に避難が遅れた人がいたとしても、シェルターへ直接攻撃を仕掛ける様な真似はしないでしょうし、近隣シェルターへ早々に逃げる事は容易な筈よ」
「了解」
「では次に千鶴が」
神崎が手を上げ、彼女の部下である坂本千鶴が立ち上がる。
「えっと、そのレイスが襲撃を仕掛けてくるとしたら、本当に今日明日の事なんでしょうか。例えば、日数をズラすとか、考えられないでしょうか?」
「勿論可能性としては無くありませんが、もしそうであればAD学園が戦場になる可能性を可能な限り減らせます。
現状、米軍の特殊コマンド部隊であるアーミー隊が、敵基地への攻撃準備に移っています。この作戦は今日から明日に掛けて行われる予定ですので、この作戦が上手くいけば、敵はこちらへ攻撃行動を仕掛ける事が出来なくなります。
そうなればそうで、もっと別の作戦を立案します」
「哨さんや梢さんが敵UIGから逃げて来たからこそ、今日明日にでも襲撃に来るという事ですね」
坂本の質問に対する返答をまとめた神崎が、フムンと顎に手を当ててそれで良しとした。
「厳重警戒は、この会議終了後からです。実弾装備の準備は完了している、という事で構わないですね。神崎さん、天城さん」
「うん。既に実弾を装填した装備を何時でも使用できるように完熟訓練も行ってるけど、現状の装備は模擬弾頭装備でよかったの?」
反対に楠が問うと、それに対しての返答は天城先輩が。
「構いません。危険度は上がりますが、向こうがテロを仕掛けてくるにしたって、こっちもテロで応じるわけにはいきません。既存のルールに従い、その上で最大の安全策を取るべきです」
「分かった。……楠ちゃん、ちょっと変わった?」
「作戦会議中です。私語は慎んでください」
「はーい」
「じゃあ次アタシが質問していい?」
今度は島根が手を上げる。楠も頷いて「どうぞ」と言うと、彼女は電卓を叩くフリをして、外に見える秋風を指さした。
「秋風はパイロットの無い機体も合わせて全機投入、って事でいいんだよね?」
「ええ。ですがセキュリティの問題もありますので、駆動を停止した秋風には自動的に認証ロックが掛かるようになっています。
指定コードを入力しないと起動しませんので、万が一駆動停止した秋風を動かしたい場合はコードの入力をお願いします。コードは記載の通りです」
「何時の間にそんな準備してたの?」
「あ、それは私の提案よのどかちゃん。で、私の提案を楠ちゃんから康彦君にお願いしてて、さっきそのソフトを導入して貰ったの」
ふふん、と笑う天城先輩に、島根が「あーそういう事思いつきそうだもんね先輩」と笑う。
「質問は以上でしょうか」
楠が問うと、全員が黙る。異論も、質問ももう無いという事だ。
「結構。では各員、所定の位置に付き、作戦準備に取り掛かって下さい。恐らく、その最中に襲撃があります。解散」
彼女の言葉に、オレを含めた全員が動き出す。
楠だけは部屋に残ったが、彼女はコレからやる事がある。
「織姫さん」
並んで歩く神崎が、オレに声をかけてくる。
「これでまた同じ場所で戦えますね」
「無茶すんなよ神崎。怪我人の大丈夫ほど面倒な大丈夫はねぇからな」
「その言葉はそっくりそのままお返ししたいのですが。……貴方は大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫。――今は頭スッキリしてる」
「そう。――二秒、お時間をください」
オレの手を引き、彼女は壁にオレの体を押し付けると、短くオレの唇と自身の唇を重ね、正確に二秒で、唇を離した。
「ん――コレで補給は完了です。生きて帰れたら、続きをしましょう」
「続きって何だよ」
「それを淑女に言わせないで下さい」
「いやマジでわからないんだけど」
「それでも大丈夫――貴方も私も、生きて帰らないといけない、という事だけを、覚えておいてくれれば」
失礼、と残して神崎が小走りで駆けていく光景を見届け、オレは唇に手をやった。
キスの意味は、よく知らない。
オレにとってのマウストゥマウスは、人工呼吸をする行為ってイメージだし、そうでなくとも頬にキスする事はアーミー隊に居た部下や元上司とよくやった。けど、唇はそういえば彼女とが初めてだった。
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