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第十六章

リェータ-04

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 リントヴルムは、新たに訪れた地がどこか説明される事もないまま、輸送機を降りた。

  前回のUIGと同じく違法建造された形でのX-UIGであろう事は分かったが、樺太UIGがかなり複雑な構造をしていた事と対照的に、今回のUIGは輸送機とAD六機程が収容できる格納庫と、そこから繋がる宿舎エリアがあるだけで、随分と質素なUIGだと感じた。

  彼がそのUIGに降りた後に通された会議室に揃うは、レイスの構成員だが、メンバーの数は少ない。

  城坂修一、霜山睦、オースィニ、ヴィスナー、そしてリェータ。

  本来この場所にいるべきズィマーがいない理由を、誰もが理解している。


「座ってくれ」

「おう」


 修一の言葉に短く返しながら、以前の屋敷と違って質素なパイプ椅子に腰かける。


「これから皆に、僕の計画を話す。既にオースィニとヴィスナーは知っているがね」

「条件が揃ったってのか?」

「ああ。条件は哨ちゃんと梢ちゃんの二人をこちらに引き入れる事が出来た段階で整っていた。しかしテストが不十分で、正直この点だけを言えば、テスト進行度は五十パーセントにも満たっていない」

「ダメじゃん?」

「いや、問題ないよ。そのデータは今後の実戦で採っていけばいいだけだ」


 修一から語られる計画は、最初こそリントヴルムは流すように聞いていたが、やがて聞くに堪えない雑音であるかのように、苛立ちを隠す事無く舌打ちしたり、貧乏揺すりをして苛立ちを緩和させていた。


「――以上だ。何か質問は?」


 全員が押し黙る。リントヴルムはそれ以上何も言う事なく立ち上がり、部屋から退室しようとする。


「待て。まだ話は終わっていないぞ」

「いいや終わったね」

「何か不満でもあるのかい? それを質問として聞く事の出来る時間を設けているのだが」

「不満か。どこから言えばいいかわからねェけど、一つだけ言っちまえば、多分お前の息子と同じ不満をぶつけんじゃねェかなぁ?

 ……お前、救世主名乗るの辞めろ。お前は戦争を止めるとか幸せに暮らせる世界を、とか綺麗事だけ並べて、そこに至るまでの犠牲を見ねぇタイプだ。戦争で一番タチのワリィ、クズだ」

「君にクズと言われたくないんだがね」

「オレァ面白い事が起きりゃいいなとは思ってっけどよ、平和でいようとする奴の事を笑うなんざしねぇよ。けどお前さんは今の世にある平和な部分すら赤く染めて、最終的に平和に至る為の犠牲と割り切るだろ?」

「それが必要ならばするさ」

「救いようのねぇクズだ」


 退室する前に、パイプ椅子に座り込んでぐったりとしているリェータの手を握る。

 彼女の体を引き、退室するリントヴルムの事を、修一は見逃す。


「話は終わってないんじゃなかったの?」


 修一の怒りを表す顔を見て、ニヤニヤとしているヴィスナー。


「黙れ。……話は終わったよ。質問が無いのならね」


 続けて退室したのはオースィニだった。彼女も最初から表情は暗く、修一のやる事を理解はしていても納得はしていないのだろうと分かる。


「アンタの計画、だいぶボロボロね」

「……君と睦ちゃんさえいれば、僕の計画はどうにでもなる。戦力としてリントヴルムを呼んだが、彼を招いたのは失敗だったか」

「殺す?」

「いや。彼は自分から死にに行くタイプだ。その内織姫と楠が殺してくれるだろう」

「アンタ、人を見る眼、無いって言われない?」

「高田重工に入社して四、五年位して、部内編成が変わった時に彰から言われた事がある。どうしてだい?」

「別に」


 手を振りながら去っていくヴィスナーを見送った後、修一はパイプ椅子に腰かけて、修一と目を合わせない様にしている睦と向き合う様に、一つのパイプ椅子を掴んで、彼女の前に座る。


「……こうして二人っきりで話すのは久しぶりだね、睦ちゃん」

「ええ。随分とお変わりなさったようで」

「君も、随分と大人っぽくなった」

「先ほど仰っていた計画は、本気なのですか?」

「意外性あったかな?」

「いいえ。考えてはいました。しかしだからこそ、この手は取るまいと思っていたのです」

「そうか。僕にとっては何とか捻りだした妙案だったのだけれどね」

「私、リントヴルムさんに、説教されたんです」

「気にする必要は無い。彼は戦場という存在が生んだモンスターだ。彼の言う言葉をイチイチ真に受けていれば、それこそまともな精神ではいられない」

「でも、彼の言葉を否定する事が出来なかった。彼はモンスターに見えて、時々至極真っ当な事を言うんです。

 ……まるで、私こそが普段モンスターであり、適当な倫理や論理を振りかざして、自分がまともに見えるように、自分自身でも気付かず、仕組んでいたんじゃないかと思える位に」

「疲れているんだよ。君には、ずっと風神に乗せていたし、無理をさせていると分かってはいる」

「修一様……私達は、本当に、正しいんでしょうか……子供を傷つける道を選び、子供たちの未来を、本当に憂う事が出来ているんでしょうか……?」

「出来ているさ。……出来ている、ハズさ」


 言い切る事が出来なかった。

  修一は、睦を彼女の自室として宛がった部屋まで案内し、自身も眠ろうとして部屋へ向かってベッドへ寝転がった瞬間、苦笑した。


「……僕はそういえば、立ちながらもスリープ出来るんだったな」
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