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第十六章

リェータ-02

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 オレと楠がダディ率いるアーミー隊の突入部隊に救助されるのに必要とした時間は、十分と経過していない。

  旧式の機材で溢れる部屋に訪れたダディや、アーミー隊の皆は、このUIGに残る情報取得を行っていく。


「クスノキ、先に帰投なさい」

「い、いえ……私も、残って、情報を吟味します」


 口元を押さえて吐き気を我慢する楠の言葉を、ひとまず受け取ったオレとダディは、そのまま何があったかを知らせ合う。


「まず四六の皆は?」

「リョージが負傷、だがそほど深い傷ではない。他は機体に損傷はあれど皆無事だ」

「……島根は?」

「何かあったのか?」

「……いや、別に」

「ライジンの突入開始から二分もしない内に一機の輸送機が宙域から離脱。セイナの話ではミハリとコズエの二人はこの機内に収容されていた
らしい」


「城坂修一の事だし、あの二人の扱いは保証するとは思う。先に離脱させたんだな」

「その後こちらが突入準備を整えている間に二機の輸送機も離脱。その両機にお前とクスノキが捕らえられている可能性もあった為、攻撃は控えた形だな」

「ありがとう、助かる」

「それで――アレは何だと?」


 ダディが指す『アレ』は二つ。

  一つは頭を撃たれて死んでいる、オレや楠とそう変わらなさそうな少女の死体。

  一つは部屋の窓から見る事が出来、今突入部隊が入室した格納庫にある、数十機近いアルトアリス試作二号機の量産型。


「どこから話したらいいモンかな……」


 ため息を溢しつつ、オレは城坂修一から聞いた内容をダディに話していく。

  ダディも机の上にあった、城坂修一の残した資料を読み、オレの話している内容に合わせて補完する形で納得し、頷いた。


「バカげた夢物語だが、雷神プロジェクトよりも現実的である事は間違いないな」

「あの、ガントレット大佐は、お父さんの身体や計画に、そう驚いていないように見えるんですけど」

「理由は二つだ。一つはシューイチならば考えつきそうな事だと思った事、もう一つは以前シューイチたちが根城にしていた屋敷に、ヒューマン・ユニットの資料が残っていたからだ」


 と、そんな会話の最中に、ダディの腹心として仕えるカウレスが、何やらダディへと耳打つ。


「解析に時間がかかるそうだが、このUIG内は既にもぬけの殻、しかも爆発物などによって証拠隠滅される危険性もない、との事だ。我々も一旦帰投し、情報をまとめよう」

「雷神はどうする?」

「後で輸送機に乗せる。満足に動かせない機体で飛ばれて事故でも起こされる方が迷惑だ」

「了解」


 ダディが乗って来た輸送機まで同行し、そのまま四六の【ひとひら】まで帰投する。

  その間、会話はない。

  ダディも何か聞きたそうにはしていたが、しかしオレの事を見ると顔を逸らすので、聞きづらい事でもあるのだろう。


 ひとひらへと帰投し、執務室へと通されたオレ達。

  そこには、久世先輩を除いた今回の作戦参加者が集っている。


「姫ちゃん、楠ちゃん、無事だったのね」


 姉ちゃんがオレと楠の元へ駆け寄り、無事を喜んでくれる。

  けれど、今はそんな場合ではない。


「一旦着席してくれ。今回の作戦で知り得た内容を整理したい」


 ダディの言葉に、姉ちゃんが着席。

  オレは島根の隣に座って、話が始まる前に聞かなければならない事だけ尋ねる事にした。


「大丈夫だったか?」

「……うん、さっきは、ゴメンね、姫ちゃん」

「気にしてない。オレも悪かった」


 短い会話になってしまったけど、今はそれでいい。

  オレ達がダディへと視線を向けると、彼も頷き話始める。


「では情報を整理する。

 オリヒメ、クスノキの聞いた内容と、セイナとアキヒサが聞いた内容に差異はない。

  どちらの内容に矛盾はなく、シューイチとオースィニと呼ばれる敵の認識は共通しているという事が分かったな」


 ダディが話始める内容は、大まかに言うと以下の三つだ。


  一つ、城坂修一は統合政府設立を野望としている事。

  二つ、雷神や風神の戦闘はその為に必要な戦闘データを収集する事が目的であり、最終的にはこれらのデータをまとめた風神の量産を目論んでいるという事。

  三つ、そして量産型風神のパイロットは、ヒューマン・ユニットと呼ばれる機械の体を有した、ヴィスナーというパイロットが大量生産され、このパイロットが搭乗する事でパイロットの枯渇問題を解決している、という事。


「あ、だからあのオースィニってお姉さんが、パイロットをその分作るって話をした時、苦い声出してたんですね」

「そうね。お父さんの野望を認めてはいても、やっぱり受け入れ辛いと考えていたのがあの女ってわけね」


 二人の話を聞く限り、オースィニと呼ばれる試作一号機に搭乗していたパイロットは、親父の計画を知り得ていたって事か。


「で、量産型の風神は出来上がってたんですか?」

「いや、けど代わりにアルトアリス試作二号機の量産が行われていた。現場に全機残していったとは考え辛いから、多分他の基地でも大量建造を進めているんだろうな」


 村上の問いに、オレが答えると、ダディも頷いて写真を全員へと見せた。


「機体数は計三十一機。全ての機体が稼働可能状態で保管されていた。

 パイロットは不在で、機体の起動を試みたが、ライジンと同様のセキュリティシステムによって起動エラーが発生した」

「あのヴィスナーってパイロットが搭乗しないと起動できないって事か」

「ヒューマン・ユニットとやらが生体認証を登録出来るのか否かは興味深いが、そう言う事だな」

「質問。正直、そんな敵が企ててる計画より、アイツらがどこに逃げたかの方が重要じゃん?」


 島根がそう尋ねたので、ダディは頷きつつも首を横に振った。


「現状では不明としか言いようがない。今後も樺太UIGの調査と並行し、奴の残していたデータから潜伏先の検証を行うが、奴のやる事だ、恐らく空振りに終わるだろう」

「なら、せめて次にどう行動するとか、わかんないの?」

「……オリヒメ、クスノキ、お前たちは分かるか?」


 流石に、ダディにはこれ以上考えが及ばぬとして、問いはオレ達へ回って来た。

 だがオレも奴の思考なんかよくわからないし、首を傾げるしかない。


「……多分、でもいいですか?」
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