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第十一章

作戦開始-06

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 それは、ケモノの鳴き声にも似ているが、しかし聖奈には分かった。


「貴方まさか、自我が」

『うう――うああああああああっ!!』


 地面に両腕を落とし、両腕で地面を抉るようにしたそれが、ケモノのように動いた。

  右腕を振り込まれる間、銃弾を遮二無二放っていくが、しかし装甲はそれを弾き、左肩へ叩き込まれる。

 強い衝撃がコックピット内を襲うが、しかしこのままではパイルバンカーで貫かれる事を恐れた聖奈が、突撃機銃を放棄し拳で腹部を強く殴り、距離を離す。

  だが、それは尚真正面から向かってくる。


  知能もない、理性もない、本当のケモノにしか思えず――聖奈は思わずブルリと震えた。

  
  その隙を見つけたか、それとも襲い掛かる上での偶然かは分からないが。

  今まさに――アルトアリスの左掌が、聖奈機のコックピット目掛け、突き付けられた。

  パイルバンカーが稼働する。このままではコックピットを貫かれる。

  ほんの一秒にも満たない僅かな時間で、聖奈はそれを理解しつつも、しかし機体はそほど高速には動かず、嫌な汗がブワリと全身の毛穴から噴き出した。

  
  そんな時だった。

  不意にアルトアリスの背後を取った一機のポンプ付きが、その背中を蹴りつけたのだ。

  逸れる左掌。アルトアリスに圧される形で地へ倒れる聖奈機。

  何が起こったか理解していない聖奈とアルトアリスのパイロットを無視し、そのポンプ付きが、右脚部を思い切り振り込み、アルトアリスの腹部を蹴りつけた。

  二、三回ほど回転しながら、路面を転がるアルトアリス。


  それを蹴りつけたのは――山岳地帯から下ってきた、村上明久のポンプ付きだった。


『えっと、理事長っすか!?』

「む、村上君!?」

『マジ大変なんすよ! いきなり敵が現れて』

「それより前に集中してッ!」


 聖奈の怒号で、明久が先ほど蹴り飛ばしたアルトアリスを見据えると、僅かに機体を鈍重にさせた機体が起き上がり、沈黙した。


『お、襲って、来ない……!?』

「相当パイロットに強い衝撃がいったみたいね」


 無理もない、と聖奈は考えていた。

  元々雷神に近い駆動をしていた機体が、パイロットへの負担を考えぬ無茶な動きで戦い、その上で二、三回地面に転がされ、コックピット内でシェイクされたのだ。普通の人間なら嘔吐でもして、正常な判断など出来まい。

  そんなアルトアリスを迎えに来たかのように。

  もう一機のアルトアリスが、その背に狙撃銃のような物を背負いながら接近し、腕を取った。


「新手?」

『城坂聖奈ね。お姉ちゃんを殺さないでくれたお礼に、見逃してあげる』


 今訪れたアルトアリスから通信がそれだけ入り、すぐに切れた。

  地を蹴り、空を駆けていくアルトアリス二機を見届けた聖奈は、落ち着いてばかりもいられないと明久機へ通信を取る。


「所で村上君、三人は?」

『あ、そう! 今さっきの機体と同型機に襲われて』


 やはり、と聖奈は弾倉を確認しつつ、再び山岳地帯へと向かっていく。


「村上君は帰投して状況報告を! ここも通信妨害で指令室と連絡は取れないわ!」

『わ、わか……した、気を……て!』


 僅かに離れただけで、通信妨害の影響でほとんど声が届かなくなる。

  聖奈は汗を拭いつつも、しかし急いで現場へ急行する。

  ――愛する生徒が、殺されるかもしれないという恐怖におびえながら。
  

  **

  
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! しっかりしてっ」

『うっ、ううううっ!!』


 今、山岳地帯の木々に機体を隠したアルトアリス試作三号機に乗り込むリェータが、試作四号機に搭乗するズィマーのいるコックピットハッチを、緊急開放レバーを用いて開いた。

  ブシュッ、と水蒸気を吹かしながら開かれた四号機のハッチ。三号機のハッチを開いて四号機のハッチへ飛び移ったリェータが、ズィマーの様子を見据える。

  ズィマーは、ガクガクと体を震わせながら、ヘルメットを外して乱れた髪の毛を――というよりも、頭皮を爪でガリガリと抉るように掻きむしりながら、呻いていた。

  鼻息は荒く、酷く興奮している様子だったので、ポケットに備えていた鎮静剤を取り出し、彼女の首筋に当て、注入する。

  まるで糸の切れた人形のように、静まって意識を閉ざしたズィマーの身体を抱き寄せ、涙を流すリェータ。


「辛かったね、怖かったね……ごめんね、お姉ちゃん。遅くなって、本当にごめんね」


 寝息を立てるズィマーの事を見据えながら、リェータは彼女を抱き寄せ、自身のコックピットへと戻る。

 ハッチを閉鎖して三号機を再度起動、四号機の腕を取ったまま、山岳地帯を超えた先の海へと渡る。

  そこには小さな輸送機があり、計三機の帰りを待っている。

  本来ならばオースィニも一緒に搭乗する予定だったが――しかし、彼女の事を気にも留めず、リェータは三号機と四号機を輸送機とドッキングさせた。
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