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第十章

過去の遺産-03

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 城坂修一は、その機体を見上げた。

  GIX-P006【風神】――風神プロジェクトを体現する機体であり、機体自体は雷神のカラーチェンジモデルと言っても差し支えない。

  だが、その機体には武装が施されている。

  風神はあくまで兵器であり、その高い高機動性と高火力を以て敵を殲滅する事を目的に設計された。

  武装にシステムの処理を割く事から、僅かに雷神の方が格闘戦闘は高いが、武装を用いて戦術の幅が広い風神を選ぶパイロットの方が多いだろう。

  だが――問題は別に存在する。


「よぉシューイチ。よくもまぁオレらを出汁に使ったな」

「一言言わせなさいよ」

「リントヴルムとヴィスナーか。随分と仲良くなったな」


 二者が、格納庫で風神を見据える修一へ声をかけるが、彼は二者を見て等いない。


「仲良くなんかなってないわ。けどね、アタシらは囮に使われて黙ってるほど良い子ちゃんじゃないのよ」

「ま、オレァ別にその点を怒ってるわけじゃねぇけどな。んな楽しそうな事にオレを呼ばねぇのにイライラしてっけど」

「裏切者っ」

「面白そうかい? あんなAD一機を奪取するなんて、詰まらない作戦が。むしろ君は息子と戦いたかったと見て、そっちに回したのだが――それに、まだ面白い子はいただろう」

「アァ……シマネ・ノドカね、何わめいてたのかはわからなかったが、確かに面白い奴ではあった。オレと同じ位ぶっ飛んだ奴だったよ」


 島根のどかとリントヴルムは、今回の出撃で初めて相まみえた。

  以前AD学園襲撃の際に、秋風を奪取し、その機体パフォーマンスを以てしてフルフレームすら破ったリントヴルムでさえ、今回の襲撃が短い時間だったからという理由こそあるが、島根のどかを破る事が出来なかった。

  修一は、そこで初めてリントヴルムと視線を合わせた。


「僕は君をADパイロットとして最強の男だと踏んでいる。そこのヴィスナーも、ADパイロットとしては一流だが、君には及ばないだろう」

「なっ!」


 ヴィスナーが僅かに心外という様に声を挙げようとするも、しかし続けて放つリントヴルムの言葉が遮る。


「そこまで買ってくれるのは嬉しいねぇ。けど、アンタはそんなオレに何をさせようってんだ?」

「ふむ……確かにその辺りをしっかりと説明した方が好ましいだろうな。次のブリーフィングを行う時間だし、そろそろ会議室へ行こう」


 修一が格納庫から会議室へと移動をし始め、リントヴルムもついていこうとするが、そこでヴィスナーに足を蹴られる。


「なンだよ気持ちいいなぁ」

「怒りなさいよそこは!? ていうかアンタの話が挟まったせいでアタシが全然怒れなかったじゃないっ!」

「そんなツンケンすんな。確かに囮は面白くなかっただろうけど、これも作戦なんだろ? 次の作戦もあるみたいだし、そこで暴れさせて貰えよ」

「そうするつもりっ! ったく、どいつもこいつもムカつく……っ!」


 ズンズンと進んでいくヴィスナーの隣を歩き、彼女へと語り掛ける。


「……なぁ、あのシューイチは何を企んでると思う?」

「知らないわよ」

「真面目に考えんだよ、こういう時は。オメェもどうせ金貰って兵隊やってるクチだろ? こういう時にクライアントの心意を知らねぇんじゃ、生き残れねぇぞ」

「……そうね。それは確かに。でも、ホントにわかんないわよ。アタシだって【雷神プロジェクト】の話は知ってるわよ?

 武器を持たない防衛能力だけに優れた機体を大量に作って、敵を殺す事無く戦闘不能にさせる防衛戦力の強化。

 そうして他国をけん制する事でAD同士による戦争って奴を失くす。それがあのシューイチの考えた下らない夢物語」

「アァ、叶う筈ねぇ夢物語だ」

「もしそんな部隊を作ったとしても、ADってのはあくまで兵器システムの一つ。むしろなんでこんなにADって兵器が発達したかわからない位。ADの進化を突き詰めるより、絶対ミサイルの進化を進めた方がいいわ」

「おお、そりゃ核心に近いんじゃねぇか?」

「え?」


「オメェの言う通りってこったよ。

 オレぁ元々戦闘機パイロットだった。けど退役して、ミィリスに天下りして、ADに乗って……あのオリヒメと会って、ADって奴の楽しみを知った。

  確かに殺し合うにゃあ最適な兵器だ。人の形をした、人の搭乗する兵器だからな。殺し合いのゾクゾクとした感覚が、戦闘機より遥かにたまらなかったゼ。

  けど、そんな個人の愉しみとかを置いておいて、ADってモンによる戦争が仮に無くなったとしても、じゃあ戦闘機同士によるドッグファイトはどうなる? 果ては、ミサイル同士の撃ち合いはどうだ?

 そういうモン含めて、奴は雷神プロジェクトで無くせると考えてると思ってたのか、って事よ」


  ヴィスナーは、そこで足を止めた。

  リントヴルムも足を止め、俯きながら口を結ぶヴィスナーへ「どうした?」と声をかける。


「……そうか、そういう事」

「なンかわかったのか?」

「あのシューイチがどういう方法を使うかはわかんないけど、目的は何となくね。けど、確信ではないから言わない」


 フンと鼻を鳴らしながら、ヴィスナーは足を止めたリントヴルムを振り切るように早足で進んでいってしまう。そんな彼女に追いつこうともせず、リントヴルムは息を吐きつつ、会議室へ。


「揃ったな」


 先ほど入室したヴィスナーに続いて入室したリントヴルムで、全員が揃ったようだ。

  既にオースィニ、リェータ、ズィマーの三人も掛けており、リントヴルムが着席したことで、修一は大型スクリーンに、数十人のデータを記載してある資料を表示した。
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