上 下
85 / 191
第十章

過去の遺産-02

しおりを挟む
「私は雷神プロジェクトの成熟期間に対して問題提起を行った。即時性が無い、すぐに現場へ提供できる新たなプロジェクトが欲しい、と。

 シュウイチも、私の言葉に頷いてくれた。そして苦肉の策として私が提出した風神プロジェクトを進めてくれたが……結果は先ほど彼女が語った通りだ」


 九十九人に及ぶ、風神プロジェクトにおけるパイロットテスターが死亡したという事実。


「そして皮肉な事に、そうこうしている内に紛争が落ち着いた。現在と同じく微々たるものは行われていたが、少なくとも数多の命が散る様な、大きな戦場は無くなっていた」

「特定条件における兵器の有用性を発案し、開発途中にその特定条件が無くなってしまう、何ていうのは、兵器開発にはよくある話だ」


 そういうのは、清水先輩だ。ダディは苦笑と共に「その通りだ」と口にした。


「私はその時に知った。個々の感情などと言うものに惑わされる心その物こそ、兵器システムに必要のないモノだと。

 結果を求めすぎるあまり、過程でどれほどの人命が奪われる事になっているか、心では無く思考によって、冷静に見極める事が出来ていたら、九十九人の人命を失う事は無かったのかもしれない」


 後悔を吐き出す様に、ダディは言葉を放つ。

 そんなダディの姿を見て、オレは口を塞いだ。


「……そんな風神が、なぜ秘密裏に存在していたアメリカのUIGで?」


 姉ちゃんが問う。そう、秘密裏に存在していたUIGというのも、今考えればおかしな話だ。


「そのUIGは高田重工や国防省のお偉方すら知らん、秘密裏に建造された物だ。我々もその存在を知らなかった」

「私たち四六も情報を掴んでいなかったという事は、レイスが米国防総省の一部と繋がっていて、そこでUIGを建設、その上で風神を製造していたのでしょうか?」

「おそらくそれしかあるまい。しかし奴――シュウイチは何を考えている。奴が生きていた事もそうだが、今の奴には謎が多すぎる」


 生きていた事、今の彼が事を起こす理由、何もわからぬままだ。


「風神を奪取した事に、目的が隠されているって、さっきダディは言ったよな? あれは」

「あくまで主観でしかないが、奴が求める世界は何だろうな」


 求める世界と来た。これは大きな話だ。


「そこまで仰々しい事か? 親父が例えば金の為にレイスを動かしてる、ってのも、考える事は出来る」

「流石にそこまで卑下た理由では無かろうが、その通り。奴の目的はあくまで不明瞭だ。だからあくまで主観とした。

 だが――我々の知る城坂修一という男は、そもそも自分の幸せなんかを求めてはいなかった。セイナやお前、クスノキを生んだ母・カナでさえも、奴の事を『ADの事しか考えないアホ』とまで言い切ったのだぞ」

『母』


 そこで、思わずオレと楠が声に出してしまう。


「母ちゃん……?」

「そうか、セイナはカナの事を、二人には」

「ええ、まだ話していません」


 姉ちゃんが僅かに表情を曇らせながらも、オレと楠の手を取って話してくれる。


「ねえ、姫ちゃん、楠ちゃん。貴方達はお母さんについても、聞きたい?」

「聞きたくないって言ったら、嘘になるけど」

「今、聞く事なのかな?」

「なら、話す。でも、思春期の貴方には、ちょっと辛い話になるかも」


 それだけを先に忠告した後、姉ちゃんは優し気な表情で、言う。


「もう知っていると思うけど、私たちのお母さん、城坂加奈は、既に死んでいるの」


 確か、病気で亡くなったって聞いた。それはダディから教えられていた事だ。


「病気はそうなんだけど……お母さんは、元々病気だったの。私を生む時から。ううん、何だったらお父さんと出会った時からそうなんだって。

 私も、今の話を聞いてて分かった。――きっとお母さんは、風神プロジェクトのテスターだった。違いますか?」

「気付いたか。流石だな、セイナ」


 ダディが苦笑し、頭を掻いた。


「ああ、そうだ。カナは元々、パイロット適性が非常に高い女性で、風神プロジェクトのテスターに選ばれた。

 彼女は薬物投与の結果、その高い操縦技術を更に高めていたが、薬物投与の副作用によって、心身ともに犯された。

 シュウイチとカナが出会ったのは、その時だ。彼はカナを抱き、カナも彼に愛されていると分かった時だけは、薬による精神錯乱を抑える事が出来ていた。

  そんな二人の間に生まれた子供が聖奈で、そんな彼女が持つ卵子を用いて生まれたのが――お前たち二人だ。

  最初は母体で成長させる案もあったが、母体の健康維持を鑑みて、試験管ベイビーとして成長させた方が良いと判断し、お前たちの卵子が彼女の母体へ戻されることは、なかった」

「オレ達は」

「お母さんのお腹で育ったわけじゃ、ないんですね」


 確かに、思春期のガキに聞かせる話ではないかもしれない。

  けれど、雷神プロジェクトの為に生み出されたコックピットパーツって聞かされるよりは、全然マシな事実だ。


「お母さんは、二人が一歳になるより前に死んじゃった。前に映像を見たよね? 私とお父さんが、二人の受精卵を見ている映像。

 あの映像を撮影していたのは、お母さんだった。


 ……見せてあげたかったなぁ……こんなにも、立派に育った二人を……っ」


 姉ちゃんが、ボロボロと泣きながら、オレ達の事を抱きしめる。

  けれど、オレ達は――今は亡き母の顔も、知らない。

  姉ちゃんの涙を、一割もわかってやる事の出来ない自分たちの若さを、少しだけ、疎んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地球から追放されたけど、お土産付きで帰ってきます。

火曜日の風
SF
何となく出かけた飛行機旅行、それは偶然の重なり、仕組まれた偶然。 同じく搭乗している、女子高校生3人組、彼女達も偶然だろう。 目を開けたら、そこは宇宙空間でした。 大丈夫だ、テレポートができる。 そこで気づいてしまった、地球に戻れないという事実を。 地球から追放したは、どこの誰だ? 多少の犠牲を払いながら、地球に戻ってきたら、今度は地球がピンチでした。 ~~~~ カテゴリーはSFになってます。が、現代ファンタジーかもしれません。 しかし、お話の展開はインドアの人間ドラマが8割ほどです。 バトルはラスボス戦まで、一切ありません! 超能力の使用もほぼありません・・・ ーーーー ※男女の営みの描写はありません、空白になって情事後から始まります。 なろう、ツギクル、カクヨム転記してます。 続きの第2部をなろうにて始めました。

世界樹の下でぼくらは戰う理由を知る

長崎ポテチ
SF
4章開始しました  この宇宙はユグドラシルという樹木に支えられた13の惑星で成り立つ世界。  ユグドラシルはあらゆる産業や医療、そして戦争の道具に至るまで加工次第でなんでも出来るしなんにでもなれる特徴を持つ。  約200年前、汎用人型兵器『クライドン』を製作した「解放軍」と名付けられた惑星の軍により、この宇宙は上位等星連合と解放軍の2つの勢力にわかれてしまう。  そして今、秘密裏にお互いの軍が人型兵器クライドンの新型を製作し、この戦争の終結へと向け歩みだそうとしていた。 物体に干渉する才能を持つ少年サンド 干渉を遮断する才能を持つ軍人ユリウス 万物を生成する才能を持つ少女クリス かれらは偶然か必然か、お互いの新型兵器を奪取することとなる、そして、この無益な戦争を終わらせるため、戦うことを決意する お気に入り、感想よろしければお願いいたします。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】異世界召喚されたらロボットの電池でした

ちありや
SF
夢でリクルートされた俺は巨大ロボットのパイロットになる事になった。 ところがいざ召喚されてみれば、パイロットでは無くて燃料電池扱いらしい。 こんな胡散臭い世界に居られるか! 俺は帰る!! え? 帰れない? え? この美少女が俺のパイロット? う~ん、どうしようかな…? スチャラカロボとマジメ少女の大冒険(?) バンカラアネゴや頭のおかしいハカセ、メンタルの弱いAIなんかも入り混じって、何ともカオスなロボットSF! コメディタッチで送ります。 終盤の戦闘でやや残酷な描写があります。

SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。 数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。 『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。 次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。 夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。 ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない! 生き残るためにシンの手にある選択肢とは....? 異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

一分でオチまで。星新一風味ショートショートです。

comsick
SF
星新一先生風味の、ちゃんとしたオチのあるショートショートです。無駄なお時間とらせません。

筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人
SF
元気いっぱい恋する乙女の小学5年生 安部まりあ。 ある日突然彼女の前に現れたのは、願いを叶える魔獣『かがみん』だった。 まりあは、幼馴染である秋月灯夜との恋の成就を願い、魔力を授かり魔法少女となる決意を固める。 しかし、その願いは聞き届けられなかった。 彼への恋心は偽りのものだと看破され、失意の底に沈んだまりあは、ふとある日のことを思い出す。 夏休み初日、プールで溺れたまりあを助けてくれた、灯夜の優しさと逞しい筋肉。 そして気付いた。 抱いた気持ちは恋慕ではなく、筋肉への純粋な憧れであることに。 己の願いに気付いたまりあは覚醒し、魔法少女へと変身を遂げる。 いつの日か雄々しく美しい肉体を手に入れるため、日夜筋トレに励む少女の魔法に満ち溢れた日常が、今幕を開ける―――。 *小説家になろうでも投稿しています。 https://ncode.syosetu.com/n0925ff/

第一次世界大戦はウィルスが終わらせた・しかし第三次世界大戦はウィルスを終らせる為に始められた・bai/AI

パラレル・タイム
SF
この作品は創造論を元に30年前に『あすかあきお』さんの コミック本とジョンタイターを初めとするタイムトラベラーや シュタインズゲートとGATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて・斯く戦えり アングロ・サクソン計画に影響されています 当時発行されたあすかあきおさんの作品を引っ張り出して再読すると『中国』が経済大国・ 強大な軍事力を持つ超大国化や中東で 核戦争が始まる事は私の作品に大きな影響を与えましたが・一つだけ忘れていたのが 全世界に伝染病が蔓延して多くの方が無くなる部分を忘れていました 本編は反物質宇宙でアベが艦長を務める古代文明の戦闘艦アルディーンが 戦うだけでなく反物質人類の未来を切り開く話を再開しました この話では主人公のアベが22世紀から21世紀にタイムトラベルした時に 分岐したパラレルワールドの話を『小説家になろう』で 『青い空とひまわりの花が咲く大地に生まれて』のタイトルで発表する準備に入っています 2023年2月24日第三話が書き上がり順次発表する予定です 話は2019年にウィルス2019が発生した 今の我々の世界に非常に近い世界です 物語は第四次世界大戦前夜の2038年からスタートします

処理中です...