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第七章

島根のどか VS 天城幸恵 にて-02

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「秋風に搭載されている電磁誘導装置は、肩部の大型ユニット二つの他に、小型装置が両掌、両腕関節部、脚部関節部、そして両脚に搭載されています。

 通常この電磁誘導装置によって、AD兵器は空中での姿勢制御や陸での自立を可能とするのです。

 しかしAD同士の戦闘では、これを用いた戦術を組む事も可能です。同様の磁場と磁場をぶつければ、磁力は反発し合う事は必然。

  そして同調する磁場同士をぶつければ、結合する事もまた、必然」


 つまり――のどか機の各部に用いられている電磁誘導装置の磁場を解析し、同様の磁場や相反する磁場を発生させる事により、相手を反発させる事も、機体同士を密着させる事も可能とする戦術なのだ。

  しかし、それは非常に難しい技術である。

  敵が現在利用している磁場が、S極かN極か、それを見極めていると言ってもおかしくないのだ。戦闘中にそれを認識し、戦闘方法として採用する事は、どのようなエースパイロットでも難しい偉業であるだろう。

  実際、AD兵器で使用されている磁場はS極かN極か等の二択では無い。二十五種類にも渡る磁場を発しているのだ。


「残念だったね、のどかちゃん」


 未だに、機体の受けたダメージよって倒れ込んでいるのどか機。仰向けで倒れ、コックピットハッチより見えるのどかの表情が、苦痛に塗れている事が手に取る様に分かった。

  先ほど落としたアサルトライフルを拾い上げ、機体の腹部に突き付け、引き金に指をかける幸恵機。


「ここで、ジ・エンド」


 引き金を――引く。

  
  寸前、幸恵機が、強く吹き飛ばされた。


「な――ッ!」


 蹴られたわけでは無い。殴られたわけでは無い。しかし、反発する様に空中へ飛んだ幸恵機を見据え、のどかが「ニィ」と笑みを浮かべ、そして叫ぶ。


「勉強――ありがと、先輩!!」


 重たい機体を立ち上がらせたのどか機は、膝を曲げた後に強く地面を蹴り付け、そして空中へ飛んでいた幸恵機に向け、跳ぶ。

  レーザーサーベルを構え、今にもそれが腹部に突き付けられる――そう思った時には。


「まだ――!」


 肩部の大型電磁誘導装置、その右肩部に搭載される方のみを稼働させ、機体を空中で固定させると、右肩を起点とし、機体を空中で一回転させた。

  避けられるのどか機の光刃。そして背後より強く蹴りを叩き込んだ幸恵機。

  グラウンドへ機体を強く打ち付けた影響で、各部関節より火花が散る。安全装置が起動して、のどか機のエンジンが、急停止。


「はぁ……はぁ……っ」


 荒れた息を整えながら、ゆっくりと着地した幸恵機。

  そして叫ばれる、勝者の名。


『勝者、天城幸恵!』


 しかし、幸恵は決して勝利を、誇らなかった。否、誇れなかった。

  一つ違えば――幸恵の勝利は、あり得なかったのだから。

  
  **

  
「お兄ちゃん、島根が使ったのって、天城先輩が使ってた磁場反発――だよね?」

「ああ。反発の仕方からして、両肩部の電磁誘導装置から磁場を放出したな」

「どうして島根は、天城先輩の使用してた磁場を理解できたの?」

「……オレも、正直理解できてるわけじゃないけど、多分『感覚』だ」

「感覚!? 感覚で相手の使用してる磁場を理解したって言うの!?」

「そう難しい話じゃない。相手が今まで自分を反発させるために放っていた磁場、そして機体を自立させたり、姿勢制御を行う為の磁場は、常に放っているんだ。そしてそれは秋風のセンサーでも認識できる」

「でもおかしいよ。電磁誘導装置で使用する磁場は基本ランダムで切り替えを行ってて、いくらセンサーで常時認識してたとしても、それを戦闘中に特定する事は、事実上不可能でしょ?」

「ランダム? 違う、あれは用途によって二十五種類の磁場から最適な磁場を導き出し、使用される。ランダムだと感じているのは普段から電磁誘導装置を『ただの姿勢制御ユニット』と考えている奴だけだ」


 そして島根のどかやオレは、自身が機体を動かす時に使用される磁場の種類を、感覚として認識はしていたのだ。

  しかし、今までそれは役に立った事など無い。何せただ「感覚で」理解していただけの事。

  だが、今回の勝負で、天城先輩がのどかへ見せた磁場反発の技術は、その感覚を『力』として覚醒させたのだ。


  今回は、天城先輩が勝った。


  しかし次はどうだろう?


  そして――オレと楠は今日、この勝負を行った二人に、勝たねばならない。


「……私、勝てる気が、しなくなってきた」

「ああ。――けど、ワクワクしてきたよ」

「お兄ちゃん?」

「不謹慎だけどさ。オレは今回、負けちゃダメなのに……でも、アイツらと全力で、戦いたいって、そう思えたんだ」


 今日、電話してきた奴に、感謝しなくてはならない。


「アイツらに手加減されて勝っても、オレは何ら嬉しくねぇ。――全力のアイツらと戦って、オレは勝つ」
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