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第七章

島根のどか VS 天城幸恵 にて-01

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 島根のどか対天城幸恵の対決は、観客の数こそ先ほどの対決より少なくなったが、しかし「防衛省のお偉い方」までが顔を出す、一大イベントとなった。


  陸空戦兵器としての役割を持ち得、汎用性に優れた高機動パック装備の秋風。


  陸戦兵器としての側面を前面にし、敵を迎撃する事に優れた高速戦パック装備の秋風。


  しかも操縦するパイロットは、全く正反対の性質を持つ女性だ。


  獣のような荒々しい操縦技術を有す天才・島音のどか。


  基本を度し難いまでに愛した操縦を成す天才・天城幸恵。



 二人の天才が駆る秋風が顔を合わせ、坂本千鶴が『し、試合開始!』と叫んだ――が。


  二者は、しばしの間動く事は無かった。


  千鶴の『え、え?』と困ったような声が聞こえるも、二機は動く気配すら見受けられない。

  三十秒ほどの時間が経過した時、のどか機が僅かに右脚部を動かした事が、本当の開戦合図であった。


  幸恵機は、脚部キャタピラを稼働させ、後ろ向きに走り始める。しかし六十ミリの銃弾を装填したアサルトライフルを構え、グラウンドを滑走していた。

 幸恵機の動きを見据えた上で、のどかはニィと笑みを浮かべ、地面を力強く蹴る。

  飛び跳ね、両手を掲げながら幸恵機に襲い掛かるのどか機。しかし幸恵機は冷静に頭部を狙った銃撃を行い、のどか機が姿勢制御を空中で行って、避け切る。

  その間にも、距離は幸恵機によって離される。一瞬足を止めても、銃弾を僅かに放つのみで、決して敵を倒そうとする動きでは無い。


『う――ザイな!』


 のどかの激昂。彼女は機体のフットペダルを強く踏み込むと、グラウンド地面スレスレを這い飛ぶ低空飛行で駆け抜けようとするも、銃弾がそれを邪魔してくる。

  二発ほど被弾。威力自体は大した程ではないが、しかし着弾は確かな衝撃となり、パイロットへ襲い掛かる。


『それはこっちのセリフだよ。可愛い顔して、なんてはしたない動きなの?』

『へへーんっ、アタシADから降りればモテまくりの美少女だもんっ』

『女の子はいつでも可愛く在れ。ADに乗ってても、可愛さは忘れちゃダメ』

『ADは兵器だよ。可愛いも糞も無いモン』

『これは、教育が必要かな』


 幸恵機は、アサルトライフルの弾倉を引っこ抜き、新たな弾倉を装填する。しかし、その隙を見逃すのどかでは無いし――その隙を突こうとするのどかの事を、幸恵も理解していた。


『来なさい、貴女に指導をしてあげる』

『上、等ォオ!』


 低空飛行を続けていたのどか機が、暴風を吹かせた高高度飛行へと移る。トリプルDと呼ばれる難易度の高い操縦方法である。

  高く舞い上がった秋風が、しかし再び背部スラスターを吹かして、一瞬で幸恵機へと接近する。力強く右脚部を突き付けた蹴りが、寸での所で回避した幸恵機の眼前に叩きつけられ、地面が抉れるようだった。


『ソォリァッ!!』


 しかし着地した右脚部を軸にして、のどか機は左脚部を振り込んで、幸恵機の右腹部を強く蹴り付けた。

 僅かに動きが鈍る幸恵機だが、しかし接近と蹴りは予め予測していたのか、既にアサルトライフルを機体頭部に突き付け、引き金を引いていた。

  発砲。放たれた銃弾はのどか機の頭部に叩きつけられ、カメラを破損させる。

 これで動きを封じたと考えていた幸恵は――しかし、続いて見えた光景を、唖然とした表情で見据えていた。


「メインカメラヤッた位で――調子に乗ンなッ!」


 何と機体のコックピットハッチを開き、目視で敵を見据えているのだ。


『アホなの――!?』


 模擬戦で使用される銃弾は、全て殺傷能力の無いゴム製の物ではあるが、しかしAD兵器用の模擬弾頭として、大きさはそれに倣っている。

 つまり、人間に着弾すれば、例え模擬弾頭だとしても、物理的に相手を死に至らしめる事は可能なのだ。


「アホで――結構ッ!!」


 一瞬後ろへ跳んだと思った時には、既に着地を終え、そして再び蹴り付けて、幸恵機に接近するのどか機。

 右脚部で幸恵機の左肩部を叩きつけ、動きを鈍らせた所で、左脚部による回し蹴りが、同じく幸恵機の頭部を蹴り飛ばした。


『――っ!』


 負けじと、幸恵もコックピットハッチを解放。目視でのどか機を見据える。


「ハッ、そっちもアホじゃんっ! アタシと同じことやってる!」

「そうだね。でも、貴女と違って、私は自分の勝利を確信しているんだよ」

「アタシだってそうだよ! 勝てない何て思ってない。むしろ、この勝負は勝てるんだって、今まさにそう思ってる!」

「じゃあ喚いてないで来なさい――青いケツのルーキー」

「言ったな……!」


 両腕のスリットに搭載されたレーザーサーベルの柄を手に取るのどか機。

 本来発現されるレーザーの代用は赤外線センサー技術を流用した眩い光であり、直接人間が浴びれば問題だが、AD兵器を焼き切る程の高出力では無い。模擬戦で使用する分には問題ないのだ。

  一振り、二振りと、のどか機が幸恵機へ振り込むと、しかし有効判定にならぬギリギリを避けていく幸恵。

 紙一重で避け切るその実力に、周りの観客は驚きを隠せずにいた。

  そして幸恵は、のどか機が右手に持つ光刃の一を、大きく振り切った瞬間を見計らい――

 アサルトライフルを放棄し、機体の両手を重ね合わせ、そのままのどか機の腹部へ押し付けた。


  ゴウン、と音を鳴らしながら、後方へ吹き飛ぶのどか機。一瞬の事で何が起こったか理解できずにいる観客へ、幸恵が説明する。


「今のは、電磁誘導装置の応用ですよ、観客席の皆さん」

「、はぁ!? どういう事だってのっ!」


 懲りず、再び接近するのどか機。しかし幸恵機は右腕部の関節部を突き付けた。

  再び、吹き飛ぶのどか機。その動きを見据え、防衛省の関係者らしき何人かは「なるほど」と言った様子で頷いていた。


「そして応用を重ねれば、このように――」


 キャタピラによる滑走で、吹き飛ばされたのどか機へ接近する幸恵機。

  それは、機体の右手でのどか機の左腕部関節を、機体の左手でのどか機の右腕部関節を掴むと、そのまま機体を固定させ、のどか機の股間部を、強く蹴り付けた。
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