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第二章

生徒会-05

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「お兄ちゃん、本当にごめんなさいっ」


 帰宅したオレへ向けて、楠が素早い土下座を玄関口で行った。へぇ、これがこの国で有名なスライディングDOGEZAって奴だな。一瞬、何の事かを理解するのに時間を有したが、何となく分かった。


「やっぱお前、あの生徒会長なんだな」

「本当にごめんなさいっ。諸事情があって、お兄ちゃんやお姉ちゃんの妹である事を隠さないといけないの。だから親戚の苗字を使ってるし、あの時もお兄ちゃんと初対面を演じなきゃいけなくて」

「そうする理由も、何でオレが生徒会に入らなきゃいけないのか、ちゃんと理由を説明してくれよ。そうすりゃオレだって怒る理由は無いんだぞ」

「ごめんなさい、今は言えないの。ごめんなさい……っ」


 涙を流しながら謝り倒す妹の姿を、見て居られなくなった。靴を脱いで彼女の手を取り、玄関口からリビングへと向かった。リビングには既に夕食が用意されており、オレは彼女と共に、椅子へと腰かける。


「今言えない理由も、オレが生徒会に入らなきゃならない理由も、ちゃんとあるんだな?」


 一言一言、聞こえやすいように発音をした上で、楠へと問いかける。楠は、未だに涙を流しつつも、確かにコクンと頷いた上で「そうなの」と小さく呟いた。


「いつかちゃんと説明する。その時もきちんと謝る。模擬戦を受けてくれて、本当にありがとう」

「けど模擬戦の結果次第だぞ。オレと神崎が勝てば、生徒会に入る理由は無いんだ。お前の望み通りにはならない」

「今のお兄ちゃんと神崎さんじゃ、久世先輩と島根には、勝てない」

「お前、兄を信用して無いな? オレも神崎も、パイロットとしては一流だぞ」

「信用してる。二人が強い事も知ってる。……でも勝てない。今のお兄ちゃんじゃ、二人には」


 顔を上げる事無く、そう言い放った妹の言葉、真意を確かめたかったが――しかし、何だか面白くなってきた。


「そんなに強いのか、あの先輩と、もう一人」


 今回は特別な事情で模擬戦を受ける事となったが、そうでなくても戦ってみたくなってきた。


  ――オレや神崎より強いとなれば、あの久瀬先輩も、もう一人のパイロットである島根と言う人も、立派なエースパイロットの筈だ。ならば、背中を預けられる人員を見つけられた、という事になる。今回の模擬戦は、オレにあるデメリットよりも、大きなメリットとなりそうだ。


「俄然やる気が出てきた。見てろよ楠、オレは絶対勝ってやるからな」

「……うん。頑張って、お兄ちゃん」


 そこでようやく、微笑みを魅せた楠の姿に満足しながら。オレは既に用意されていた、本日の夕食を食べる事とした。

 
  **

  
  一日という時間は、あっという間に過ぎるものだ。オレは哨が整備した秋風に高機動パックを装備させた上で動作確認を行いつつ、生徒会が指定した多目的ホールへと向かった。

  初めて目の当たりにした多目的ホールには、一つだけ特殊な機能がある。いわゆる模擬戦を行うために開発されたホールは、グラウンドに障害物を設ける事が出来るのだ。

  今回の障害物は、ミサイル攻撃により荒廃した市街地戦を想定され、倒壊した建築物が多い。AD兵器が身を隠すことも容易いし、視界も悪いので、相手をいかに早く見つけ、そしていかに撃つ事が出来るかが重要となる。

  オレは以前神崎と戦った時と同じく、武装も何も持たない状態で多目的ホールへと辿り付く。神崎の秋風が既にスタンバイを終えており、プラスデータも以前と同じく高火力パックだった。


「今日はよろしく、神崎」

『宜しくお願いします。――相変わらず、武装は何もないのですね』

「あー。武装で余計な処理能力使うと、かえって弱くなるからな。砲撃戦は任せた」


 神崎が高火力パックで戦うだろうと想定しての事でもある。115㎜滑腔砲を持つ味方がいるのならば、こちらは相手をかく乱させる事に特化した方がいいだろう。


 ――と、そんな会話を繰り広げていた所で、機体のスピーカーに、声が届けられた。


『城坂織姫君、神崎紗彩子、準備はいいかい?』


 久瀬先輩の声だ。オレも神崎も短く『ハイ』とだけ返すと、彼は『よし』と応じた。


『出来ればご挨拶ぐらいはしたい所だが、互いに互いの装備は見ないように開戦しよう。そうすればフェアだろう』

「御託はいいんで、さっさと始めましょう」

『せっかちだな。女性に嫌われるよ』

「女性の扱いには慣れて無いもんで」

『ふふ。あい分かった。では三十秒後に開始としよう。タイマーセット』

『セット、完了です』

「こっちも」

『では、互いに頑張ろうではないか』


 久瀬先輩の言葉はそこで終わり、オレも神崎も、建築物に機体を寄せつつ、開戦の時間を待つ。


  ――三十秒等早い。すぐに開戦のブザーが鳴り響くと、オレは神崎に向けて通信を執る。


「久瀬先輩たちの機影、見えるか?」

『いいえ。少なくともカメラとセンサーには反応ありません』


 ホールの広さは、半径約一キロにも及ぶ広域だ。少しばかり進軍を開始する必要があるだろうな――と、そう考えた時だった。

  不意に、機体センサーが動体反応をキャッチした。その速度は速く、少なくとも市街地の陸上を走っているスピードでは無い。


「高機動パック?」

『である可能性が高』


 と、神崎が発言をしている最中に。

  国際救難チャンネル――付近に通信機能を持つ機体に向けて一斉送信される通信規格――にて声を放つ、女の声が聞こえた。


『みぃつけた、獲物二人♪』
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