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第二十二章
力の有無-10
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ガルラとマリルリンデ、そして愚母の三人は、リュート山脈全体を襲った衝撃によって揺れ動いた地下室の中で、戦いの気配を感じ取った。
「コイツぁ……」
「豪鬼だな。イルメールと戦ってやがる」
マリルリンデが何事だと考えたその時には、ガルラが答えを出していた。
愚母はただ静かに押し黙りながら、左手の薬指に差し込んでいた指輪を撫でる。
「……ダメですわね。豪鬼がパスを遮断しておりますから、状況がわかりませんわ」
「気にすンな愚母。オレとガルラで出る。ンで、豪鬼と斬鬼はどッちも、何だかんだ皇族と戦ッてくれらァな」
「こんな時……せめて餓鬼がいれば」
「失って初めて気づくッてか」
舌打ちをする愚母へからかいながらも、手を伸ばしたマリルリンデ。
「前頼んでおいた奴、出来てッか?」
「指輪でしょうか?」
「アァ。虚力詰めといてくれッて頼ンだヤツ」
以前、マリルリンデが指輪を愚母へ渡し、一つは愚母へプレゼントし、もう一つは虚力を込めておいてくれと頼まれていたモノ。
プレゼントされた指輪は愚母の指にあるが、もう一つは取り込んで虚力を少しずつ込めていた。
膨らむお腹に手を入れこんで、取り込んでいた指輪を取り出した愚母は、それをマリルリンデへと渡す。
「それは一体何なのです? 貴方への虚力供給は別途で行っておりますが」
「なァに、大したモンじャねェよ」
指輪を受け取ったマリルリンデは、右手の中指にそれを装着しながら、地下室への出入口へと向かっていく。
「オメェはここを動くな。リンナはガルラが抑えて、オレがシドニアを抑える。オメェはアジトの中が一番動きやすいダロ?」
「……かしこまりました」
マリルリンデとガルラは隣り合いながら地下室を出た。
地下室を抜けた廃墟、その扉を乱雑に開けると、随分と強い突風が二者を襲った。
「豪鬼の奴、気合入ってンな。虚力がピリピリとしてやがるゼ」
イルメールと豪鬼による激闘、それによる衝撃はリュート山脈全体を揺らしている。
そして豪鬼の虚力も全範囲に向けて拡散されてしまい、もう彼がどこにいるか、彼と共に居るのかいないのか、斬鬼がいるかどうかの気配を読むことも難しい。
「ガルラ。オレはシドニアを殺るゼ。オメェはどうする?」
「マリルリンデは随分と、シドニア様の事を気にかけてるみてェだな」
「ま――ちッと、な」
苦笑交じりにそう誤魔化したマリルリンデだったが、ガルラも彼の考えには気付いている。
故にそう言葉を多く交わす事なく、森の中を進んでいく。
「オレはバカ娘と決着を付けに行く」
「ガルラ」
「どうしたマリルリンデ」
「その、なんだ。……今まで、ありがとう。元気でな」
急に畏まって、そう礼を彼が言うものだから。
ガルラは振り返り、彼の柔らかな笑顔を見据えて――そして頷いた。
「アァ。オレも、今まで散々、マリルリンデには、世話になった」
「オレァ、大した事してねェよ」
「そうでもねェ。オメェは大した奴だよ。……この星の生まれでもなんでもねェ癖に、オメェはこの星で、誰よりも優しく、人の悪性に怒る存在だったんだからよ」
「優しくなんかねェ……オレはフォーリナーとしての在り方も、人としての生き方も、どっちも間違えただけだ」
後悔を嘆くように、空を見上げて放つマリルリンデの言葉。
朝焼けが目に染みるようだったが、しかしマリルリンデは気にする事無く、ただ言葉を連ねていく。
「オメェの隣に、オレはずっと居続けてやるべきだった。一人で突っ走って、一人で暴れて……そんな事じゃなくて、オメェの死ねない孤独を、死なないように生きられるオレが、隣にいて癒してやるべきだったンだ。それを考え付きもしなかったオレァ、ホントに愚かモンだ」
「なに言ってやがる。お前はこうしてオレと共に戦ってくれた。二百年前からそうだ。それだけで十分、お前はオレに色んな事をしてくれた。元・人間の神さまにゃ、それだけで十分救いだったのさ」
互いに互いの存在を認める様に、そうして言葉にする事。
それはこれまで、二百年以上の月日を共に過ごしてきた彼らにとっても初めての事で、マリルリンデもガルラも、少し気恥ずかしさを感じつつも、しかし言葉は止めない。
「ナァ、ガルラ」
「何だ」
「オメェは……ルワンを、抱きたかったか?」
「抱きたかった。ルワンはオレにとって、最高・最愛の女性だったが、抱くわけにはいかなかった」
「神と人の間に生まれた、神霊の因子を受け継いだ子供は、人間に比べてあまりに大きすぎる力を得ちまう……だッたか?」
「アァ。そうした子の末路は地球にも色々と記録がある。中にはそれが理由で狂っちまって、世界を滅ぼそうとした奴もいた。だから、オレがルワンを抱くわけにはいかなかった」
「アイツは、オメェを愛してた」
「知ってる。だから辛かった。……もう、行くぜ」
前を向いて歩き出すガルラの背に、マリルリンデは語り続ける。
「ルワンはオメェに抱かれたかッたンだ。愛したオメェに、愛を囁いて欲しがッてた。その末に生まれた子が、ミクニじゃなくてオメェの子であッて欲しかッたンだろ」
「アイツはとっくの昔にオレの子だ。誰が本当の父親だとか、ルワンが抱かれたかった男が誰だとか関係ねェ。オレがアイツを娘と認めた。それだけで十分だろ」
「その子供に殺されようッてのか?」
「……ハハ、何言ってんだか。オレァ神さまだぜ? あんな胸も成長しきってねェ小娘に殺されて堪るかってんだ」
その言葉を最後に、ガルラは見えなくなる。
マリルリンデはその背中を見届けた後、アジトの周囲に魔術式の探知結界を展開した。近付く者を全て感知し、マリルリンデの視界とリンクして居場所を伝える仕組みとなっており、すぐに反応をキャッチした。
「……見つけたぜ、シドニア」
森林上空から落ちる様に現れるシドニアを探知結界が捕捉し、マリルリンデへと視界情報を送信。彼以外の反応は無い。恐らくは別行動で敵のアジトを探る算段だったのだろうと仮定こそしたが、マリルリンデはその仮定すら無視して、シドニアの方へと向けて駆け出した。
**
日の光も完全に昇り切っていない、深夜と早朝の境。
幾つかの山々が連なり構成されているリュート山脈の中央部、イルメール領・カルファス領、アメリア領のそれぞれから丁度中心部近くにある場所へ、四人の面々が突如として姿を現した。
クアンタ、リンナ、サーニス、ワネットの四人である。
「ここがイルメールの発信機反応があった場所、という事だな」
周りを見渡し、木々の位置や目印となりそうな人工物などを探そうとするクアンタ。そんな彼女の背を守る様にして神殺短剣を両手の指に二本ずつ挟んで持つワネットが、クアンタの言葉を訂正するように言葉を発する。
「最後に発信機の反応が確認された位置と、突然発信機反応が戻った位置から計算した中間地点でございます。故にイルメール様は、もう少し離れた場所におられるかと」
リンナが目を閉じ、イルメールの虚力を探る様に心を静める。
木々の隙間を通る様に、イルメールの虚力、その残滓が感じられると、彼女は「あっちだと思う」と、アメリア領方面へと指を向けた。
「シドニアさんは先に突入してるんですよね?」
「シドニア様は幾つかあった反応とは反対方向に転移なされました。時間が惜しいと言う事で先に向かわれ、我々とは突入タイミングも行動も別になってしまった事が悔やまれます」
クアンタを守る様にしたワネットの対として、リンナの背を守るのはサーニスである。
彼らは各々が別の方向を見据え、名無しの災いが襲い掛かる等が無いかを確認していたが――
「それは愚策よ。貴殿らに名無し程度では役不足と知り得ておるでな」
真っ先に反応したのは、虚力を感じ取ったリンナだった。
不意打ちとして振りこまれた刃の軌道を見極め、サーニスの背中を乱雑に押し飛ばすと、寸での所で刃を交わす。
僅かに髪の毛が切れるような感覚があったが、しかし肉体は無事である事を確認する暇も無く、ワネットが動いた。
地面へと向けて振り下ろされた男の刃を踏み台に、リンナを優しく遠ざけると同時に男の顎へ向けて、神殺短剣の剣底を叩きつける。
しかし男は何とも影響は無いと言わんばかりに刃を持ち上げ、ワネットの軽い身体を上空へと投げた。
ワネットはそのまま空中で回転をしながら着地。クアンタとリンナは隣り合ってマジカリング・デバイスを構えたが、その前に襲撃を行った者を、しっかりと見据える。
「斬鬼」
「アンタ、後ろから襲い掛かるなんて卑怯じゃんよっ!」
「カカ。失礼をした。りんな殿の腕前を確認したかったものでな」
体格の良い大男、その目には一筋の傷が描かれている。
初老の男性、髪の毛の無い坊主頭と黒い髭、反する色合いの白いコートが全身を覆っている。
手には先ほど斬りかかる時に使用したと思われる斬馬刀が握られており、今は底を地面へと付けて構える事無く、四人の前に立つ。
五災刃の一刃・斬鬼だ。
「豪鬼は、いるめぇる殿との決闘を望んでおる。我が友人の果し合いを邪魔立てせんとする者は、この己が阻む」
向こうだ、と。
斬鬼はイルメールの気配がするとリンナが示した方向とは正反対の方へ指を向ける。
「くあんた殿とりんな殿はあちらに向かわれよ。あちらに愚母殿や、がるら殿がおられる五災刃の【あじと】が存在する」
僅かに、クアンタの視線がリンナへと向けられる。
ワネットとサーニスは二者よりも前へ位置し、何時でも斬鬼へと斬りかかる準備は出来ているが、しかしリンナは先ほどイルメールを感知した時と同じく目を閉じた。
「……斬鬼の言う通り、あっちから親父の気配がする。禍々しい虚力は、多分愚母だよ」
「りんな殿は随分と、虚力を察知する力が根付いたようであるな」
結構、と笑いながら口にする斬鬼だが、その視線はサーニスとワネットに向けられている。
クアンタとリンナは行かせるが、二者は行かせないと言わんばかりの殺気を、彼は放っていた。
「コイツぁ……」
「豪鬼だな。イルメールと戦ってやがる」
マリルリンデが何事だと考えたその時には、ガルラが答えを出していた。
愚母はただ静かに押し黙りながら、左手の薬指に差し込んでいた指輪を撫でる。
「……ダメですわね。豪鬼がパスを遮断しておりますから、状況がわかりませんわ」
「気にすンな愚母。オレとガルラで出る。ンで、豪鬼と斬鬼はどッちも、何だかんだ皇族と戦ッてくれらァな」
「こんな時……せめて餓鬼がいれば」
「失って初めて気づくッてか」
舌打ちをする愚母へからかいながらも、手を伸ばしたマリルリンデ。
「前頼んでおいた奴、出来てッか?」
「指輪でしょうか?」
「アァ。虚力詰めといてくれッて頼ンだヤツ」
以前、マリルリンデが指輪を愚母へ渡し、一つは愚母へプレゼントし、もう一つは虚力を込めておいてくれと頼まれていたモノ。
プレゼントされた指輪は愚母の指にあるが、もう一つは取り込んで虚力を少しずつ込めていた。
膨らむお腹に手を入れこんで、取り込んでいた指輪を取り出した愚母は、それをマリルリンデへと渡す。
「それは一体何なのです? 貴方への虚力供給は別途で行っておりますが」
「なァに、大したモンじャねェよ」
指輪を受け取ったマリルリンデは、右手の中指にそれを装着しながら、地下室への出入口へと向かっていく。
「オメェはここを動くな。リンナはガルラが抑えて、オレがシドニアを抑える。オメェはアジトの中が一番動きやすいダロ?」
「……かしこまりました」
マリルリンデとガルラは隣り合いながら地下室を出た。
地下室を抜けた廃墟、その扉を乱雑に開けると、随分と強い突風が二者を襲った。
「豪鬼の奴、気合入ってンな。虚力がピリピリとしてやがるゼ」
イルメールと豪鬼による激闘、それによる衝撃はリュート山脈全体を揺らしている。
そして豪鬼の虚力も全範囲に向けて拡散されてしまい、もう彼がどこにいるか、彼と共に居るのかいないのか、斬鬼がいるかどうかの気配を読むことも難しい。
「ガルラ。オレはシドニアを殺るゼ。オメェはどうする?」
「マリルリンデは随分と、シドニア様の事を気にかけてるみてェだな」
「ま――ちッと、な」
苦笑交じりにそう誤魔化したマリルリンデだったが、ガルラも彼の考えには気付いている。
故にそう言葉を多く交わす事なく、森の中を進んでいく。
「オレはバカ娘と決着を付けに行く」
「ガルラ」
「どうしたマリルリンデ」
「その、なんだ。……今まで、ありがとう。元気でな」
急に畏まって、そう礼を彼が言うものだから。
ガルラは振り返り、彼の柔らかな笑顔を見据えて――そして頷いた。
「アァ。オレも、今まで散々、マリルリンデには、世話になった」
「オレァ、大した事してねェよ」
「そうでもねェ。オメェは大した奴だよ。……この星の生まれでもなんでもねェ癖に、オメェはこの星で、誰よりも優しく、人の悪性に怒る存在だったんだからよ」
「優しくなんかねェ……オレはフォーリナーとしての在り方も、人としての生き方も、どっちも間違えただけだ」
後悔を嘆くように、空を見上げて放つマリルリンデの言葉。
朝焼けが目に染みるようだったが、しかしマリルリンデは気にする事無く、ただ言葉を連ねていく。
「オメェの隣に、オレはずっと居続けてやるべきだった。一人で突っ走って、一人で暴れて……そんな事じゃなくて、オメェの死ねない孤独を、死なないように生きられるオレが、隣にいて癒してやるべきだったンだ。それを考え付きもしなかったオレァ、ホントに愚かモンだ」
「なに言ってやがる。お前はこうしてオレと共に戦ってくれた。二百年前からそうだ。それだけで十分、お前はオレに色んな事をしてくれた。元・人間の神さまにゃ、それだけで十分救いだったのさ」
互いに互いの存在を認める様に、そうして言葉にする事。
それはこれまで、二百年以上の月日を共に過ごしてきた彼らにとっても初めての事で、マリルリンデもガルラも、少し気恥ずかしさを感じつつも、しかし言葉は止めない。
「ナァ、ガルラ」
「何だ」
「オメェは……ルワンを、抱きたかったか?」
「抱きたかった。ルワンはオレにとって、最高・最愛の女性だったが、抱くわけにはいかなかった」
「神と人の間に生まれた、神霊の因子を受け継いだ子供は、人間に比べてあまりに大きすぎる力を得ちまう……だッたか?」
「アァ。そうした子の末路は地球にも色々と記録がある。中にはそれが理由で狂っちまって、世界を滅ぼそうとした奴もいた。だから、オレがルワンを抱くわけにはいかなかった」
「アイツは、オメェを愛してた」
「知ってる。だから辛かった。……もう、行くぜ」
前を向いて歩き出すガルラの背に、マリルリンデは語り続ける。
「ルワンはオメェに抱かれたかッたンだ。愛したオメェに、愛を囁いて欲しがッてた。その末に生まれた子が、ミクニじゃなくてオメェの子であッて欲しかッたンだろ」
「アイツはとっくの昔にオレの子だ。誰が本当の父親だとか、ルワンが抱かれたかった男が誰だとか関係ねェ。オレがアイツを娘と認めた。それだけで十分だろ」
「その子供に殺されようッてのか?」
「……ハハ、何言ってんだか。オレァ神さまだぜ? あんな胸も成長しきってねェ小娘に殺されて堪るかってんだ」
その言葉を最後に、ガルラは見えなくなる。
マリルリンデはその背中を見届けた後、アジトの周囲に魔術式の探知結界を展開した。近付く者を全て感知し、マリルリンデの視界とリンクして居場所を伝える仕組みとなっており、すぐに反応をキャッチした。
「……見つけたぜ、シドニア」
森林上空から落ちる様に現れるシドニアを探知結界が捕捉し、マリルリンデへと視界情報を送信。彼以外の反応は無い。恐らくは別行動で敵のアジトを探る算段だったのだろうと仮定こそしたが、マリルリンデはその仮定すら無視して、シドニアの方へと向けて駆け出した。
**
日の光も完全に昇り切っていない、深夜と早朝の境。
幾つかの山々が連なり構成されているリュート山脈の中央部、イルメール領・カルファス領、アメリア領のそれぞれから丁度中心部近くにある場所へ、四人の面々が突如として姿を現した。
クアンタ、リンナ、サーニス、ワネットの四人である。
「ここがイルメールの発信機反応があった場所、という事だな」
周りを見渡し、木々の位置や目印となりそうな人工物などを探そうとするクアンタ。そんな彼女の背を守る様にして神殺短剣を両手の指に二本ずつ挟んで持つワネットが、クアンタの言葉を訂正するように言葉を発する。
「最後に発信機の反応が確認された位置と、突然発信機反応が戻った位置から計算した中間地点でございます。故にイルメール様は、もう少し離れた場所におられるかと」
リンナが目を閉じ、イルメールの虚力を探る様に心を静める。
木々の隙間を通る様に、イルメールの虚力、その残滓が感じられると、彼女は「あっちだと思う」と、アメリア領方面へと指を向けた。
「シドニアさんは先に突入してるんですよね?」
「シドニア様は幾つかあった反応とは反対方向に転移なされました。時間が惜しいと言う事で先に向かわれ、我々とは突入タイミングも行動も別になってしまった事が悔やまれます」
クアンタを守る様にしたワネットの対として、リンナの背を守るのはサーニスである。
彼らは各々が別の方向を見据え、名無しの災いが襲い掛かる等が無いかを確認していたが――
「それは愚策よ。貴殿らに名無し程度では役不足と知り得ておるでな」
真っ先に反応したのは、虚力を感じ取ったリンナだった。
不意打ちとして振りこまれた刃の軌道を見極め、サーニスの背中を乱雑に押し飛ばすと、寸での所で刃を交わす。
僅かに髪の毛が切れるような感覚があったが、しかし肉体は無事である事を確認する暇も無く、ワネットが動いた。
地面へと向けて振り下ろされた男の刃を踏み台に、リンナを優しく遠ざけると同時に男の顎へ向けて、神殺短剣の剣底を叩きつける。
しかし男は何とも影響は無いと言わんばかりに刃を持ち上げ、ワネットの軽い身体を上空へと投げた。
ワネットはそのまま空中で回転をしながら着地。クアンタとリンナは隣り合ってマジカリング・デバイスを構えたが、その前に襲撃を行った者を、しっかりと見据える。
「斬鬼」
「アンタ、後ろから襲い掛かるなんて卑怯じゃんよっ!」
「カカ。失礼をした。りんな殿の腕前を確認したかったものでな」
体格の良い大男、その目には一筋の傷が描かれている。
初老の男性、髪の毛の無い坊主頭と黒い髭、反する色合いの白いコートが全身を覆っている。
手には先ほど斬りかかる時に使用したと思われる斬馬刀が握られており、今は底を地面へと付けて構える事無く、四人の前に立つ。
五災刃の一刃・斬鬼だ。
「豪鬼は、いるめぇる殿との決闘を望んでおる。我が友人の果し合いを邪魔立てせんとする者は、この己が阻む」
向こうだ、と。
斬鬼はイルメールの気配がするとリンナが示した方向とは正反対の方へ指を向ける。
「くあんた殿とりんな殿はあちらに向かわれよ。あちらに愚母殿や、がるら殿がおられる五災刃の【あじと】が存在する」
僅かに、クアンタの視線がリンナへと向けられる。
ワネットとサーニスは二者よりも前へ位置し、何時でも斬鬼へと斬りかかる準備は出来ているが、しかしリンナは先ほどイルメールを感知した時と同じく目を閉じた。
「……斬鬼の言う通り、あっちから親父の気配がする。禍々しい虚力は、多分愚母だよ」
「りんな殿は随分と、虚力を察知する力が根付いたようであるな」
結構、と笑いながら口にする斬鬼だが、その視線はサーニスとワネットに向けられている。
クアンタとリンナは行かせるが、二者は行かせないと言わんばかりの殺気を、彼は放っていた。
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