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第十三章

災滅の魔法少女-09

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 言いたい事をようやく言えた、と言わんばかりにスッキリとした表情を浮かべたアメリアが、イルメールへと視線をやる。


「この辺の意見は、やはりイルメールめが一番専門的に発言できると思うが?」

「ま、ひとまず敵はリンナを直接狙う訳じゃなくてよ、オレ等皇族を先にぶっ殺そうと考えてるワケなんだろ? どっちかってーと、オレ等と災いの連中が戦ってるせいで領民が巻き込まれる事を気にしなきゃならねェ。

 ならやっぱ、オレにゃ護衛はいらねェよ。実力って意味でもそうだけどよぉ、オレはそもそも、そうした筋肉を象徴として見せてっからな。護衛を付けりゃ、余計民に変な誤解を与えかねぇ」


 各皇族は、それぞれ特化した技能を以て領民から指示されている部分が大きい。

  武人としてのイルメール。

  魔術師としてのカルファス。

  政治家としてのアメリア。

  同じく政治家や武人としてのシドニア。

  錬金術師としてのアルハット。


「だから戦闘能力のねェアメリアの護衛にサーニスを付けるっつーシドニアの案はオレも賛成だ。今現状、オレを除けば奴の技能に敵う奴はいねぇ。世界で二番目に強いサーニスが護衛してんだ、それ以上の安全はねェよ」

「吾輩の黒子共もそこらの武人には負けんぞ?」

「卓越した技能を持つ奴らにゃ敵わねぇよ」


 んで、と言葉を挟んで、イルメールが見据えたのは、アルハットとカルファスである。


「カルファスとアルハットは、それぞれ戦闘技能にも長けてるし、どんな状況にでも対応しやすいだろうよ。さっきカルファス自身も言ってたケド、カルファスの『死んでも子機がいる』っつー状況は、正直オレより優位性がある。オメェ等二人は、常に交代制で皇国軍人でも配備してりゃ、護衛として問題ねぇだろ」

「えー、私付きまとわれるのヤダなぁ」

「……正直、私も一人でいる時間が欲しいのですが」

「我慢するのじゃ」

「で、一番面倒なのがシドニアだ」


 面倒、と言われる理由が分からず、シドニアが首を傾げながら「何が面倒と?」と問う。


「まず一つ。オメェより弱い奴を護衛に付けても邪魔にしかならねェからな。ケド、オメェはオレと違って最強というワケでもねェし、爪もあめぇ。だから護衛を置いとくのは良いとして誰にすっかって事だよ。まぁその点で言えば、サーニス以外だとクアンタが護衛になるのが一番好ましかったんだが」

「クアンタがあの通りじゃしのぉ」

「そもそも彼女は、本来守るべき領民です。リンナを守る為に彼女が戦う事は良しとしても、積極的に彼女を戦わせる必要はありません」


 虚力を失い、戦闘能力としては低下してしまって、今現状は魔法少女に変身が出来ぬ状況だと言うクアンタ。

  それに加え、元々彼女は皇国軍人でもなければ、協力者という体でしかない。であるのに、彼女がシドニアを護衛する理由もない。


「二つ目。オレほどじゃねェにしても、シドニアもある程度武人として認められちまってる現状がある。そんなシドニアの周囲に、付き人であるサーニス以外の護衛がチラホラ見えたら、領民の不安を駆り立てる事になるゼ」

「……意外とよく考えとるのぉイルメール。主、実は頭に脳みそがあるのかえ?」

「アメリア、お前オレの事なんだと思ってんの!?」

「脳筋」

「よし! 間違いじゃねェな!」

「イル姉さま、バカにされてるよぉ?」


 となると、と言いながら、シドニアとアメリアの目線が合い、同じ事を考えたのか、ハァとため息をつく。


「私の護衛には、彼女を付ける他ないか」

「そうじゃのぉ……出来ればあの娘っ子は、シドニア皇居に閉じ込めておきたかったのじゃが……」

「彼女……ま、まさか」


 彼女、という言葉を聞いて一瞬思考を止めたカルファスが少しだけ青白い表情を浮かべた後、イルメールによって人物の名が呟かれる。


「……ワネット・ブリティッシュ。サーニス・ブリティッシュの義姉で、オメェの好敵手だよ、カルファス」


 **
  
  
  レアルタ皇国シドニア領ミルガスに存在するシドニア皇居は、その正門に二人の門番として皇国軍人が配備されている筈である。

  しかし、その皇国軍人二人は、ゴルタナを装着していない状態で胸に大穴を開けて、絶命していた。

  穴は高熱によって開けられた故か溶接のように固まり、血などは噴き出す事なく、遠目からは警備が倒れているようにしか見えなかった。

  そんな二人の皇国軍人を素通りし、一人の男がシドニア皇居へと、堂々と押し入った。

 男は黒色の貫頭衣と鋭い三白眼、白銀の髪の毛が印象強い青年に見える。

  正門を開き、園庭を抜け、その扉を開け放った男は――皇居の広々としたエントランスで一人、ペコリと頭を下げた後にニッコリと微笑みを見せた一人の女性従者に、声をかけた。


「シドニアはいねェのか?」

「大変申し訳ございません。シドニア様は現在出払っております。そして、もしいらっしゃった場合でも、貴方様にお会いさせるわけには参りません」


 女性従者は、栗色の頭髪を後頭部で団子状にまとめて頭巾で覆った、幼げの少女と言っても相違ないだろう。

  その装飾が少なく、給仕服のスカートをスッと持ち上げながらお詫びをした彼女に、男はニヤリと笑みを浮かべて、尋ねる。


「オレが誰か、分かってるみてェな言い方だなァ」

「災いの頭目・マリルリンデ様かと」

「オォ、正解だァ。どうしてわかった?」

「得体も知れない存在、黒の貫頭衣、白銀の頭髪等の諸々、特徴をお伺いしております。……それにわたくし、人ならざる異端を鼻で嗅ぎ分けるのが、子供の頃から得意でして。

 マリルリンデ様からは、クアンタ様と同じ香りが……しかしヒトであろうとする彼女とは違い、血に塗れた獣の香りも混じって感じます」

「なるほどねェ」


 ケケケ、と笑いながら女性の事を観察する男――マリルリンデは、悠々とその場で頭を下げながらも、しかし一切の隙が見受けられないその者の、得体の知れぬ気配を感じ取り、ただ襲い掛かる事はしなかった。


「オレァ、シドニアにゃ用ねェンだよ。この皇居にある筈の、とある資料だけ拝見出来りゃぁと思ったンだが、お邪魔して構わねェか? そうすりゃ姉ちゃんは助けてやるよ」

「大変申し訳ございません。侵入者は、排除させて頂きます」

「オメェ、名前は?」

「ワネット――ワネット・ブリティッシュと申します。地獄でもこの名を思い出して頂ければ、この上ない喜びでございます」


 屈託のない笑顔と共に、彼女――ワネット・ブリティッシュは、その場でクルリとスカートを翻しながら、左足を軸にしたターンを行った。

  マリルリンデは一瞬の内に、どこからか取り出した、灰色の本を取り出して乱雑に開くと、本のページに二本指を付け、何かを取り出すような動作で、黒い人型の物を三体排出。

  それは名無しの災いであり、戦闘能力としては確かに人ひとりを排斥し得る能力を持ち得る。

  だが、ターンを終えたワネットは、マリルリンデと同じく、いつの間にか、一瞬の内に、その指と指の間に構えた四つずつ……計八本の短刀をチラリと見せつけると、捉える事の出来ぬスピードで、それを投擲。

  排出され、今まさに立ち上がってワネットへと襲い掛かろうとしていた筈の災い三体に、それぞれ三本、三本、二本ずつの刃が投げ放たれ、その額と思われる部分へと突き刺さると、消えていく災い。

  一瞬の事過ぎて、何が起こったか理解できずにいたマリルリンデは――しかし災いに突き刺さっていた短刀……その銀色に輝く刃と整われているものの装飾の殆どない柄部分などを見据え、目を見開く。


「テメェ……【対魔師】か……ッ!!」

「ご理解頂きありがとうございます。疾くお亡くなりを」


 ワネットが腰を落とすと、そのまま動きにくい筈のスカートなどを気にする事無く床を蹴りつけ、そのままマリルリンデへと愚直に飛び込んだ。

  マリルリンデが数歩分飛び退きながら、四撃の蹴り込みを全て受け流すも、しかしまたもいつの間にか、彼女の手に持たれていたフリントロック式の銃が二丁、マリルリンデの頭頂部へと押し付けられる。

 引き金が引かれ、撃鉄が落ちる音と共に発砲音が皇居エントランス中に響き渡るが、寸での所で持っていた本で銃口を殴り、逸らしていたマリルリンデが、表情を歪めた。


「対魔師が、なンでシドニアの従者に……ッ!」

「義弟がお世話になっております故。しかしそのお口、閉じられた方がよろしいかと」


 空中で身体を回転させていたワネットの右足がマリルリンデの顎を殴打、グラリと揺れる頭を制御しつつ指を鳴らし、彼女の下方から床がひび割れ、床よりも下にあった地面が隆起し、ワネットの腹部へと叩き込まれた――ようにも見えたが、その寸前に腕を回して腹部へのダメージを無くしていたワネットは、その隆起して天井へと延びる地面に触れる手を起点として飛び、空中で身体を回転させながら綺麗に着地を果たすと、またもやどこから取り出したか分からぬ、ワネットの身体程ある巨大な砲塔を構え、ニコリと笑った。


「オイオイオイ……、ソイツぁ穏やかじゃねェよ……ッ!」


 砲塔の先端には、計十二門にも及ぶ銃口が取り付けられていた。

  わき腹近くで構えられた砲塔の引き金を引いたワネットの身体が反動によって僅かにのけ反りながら、その十二門の銃口より連続で放たれていく銃弾。

  鼓膜を破らんかと言わんばかりの銃声と、その巨大な砲塔に見合った強烈な威力を有している銃弾が、身を低くしながら皇居エントランスの壁を沿って走るマリルリンデを追うように放たれる。

  マリルリンデが指を今一度鳴らすと、先ほどフリントロック式の銃を弾いた時に手から放してしまった本が、まるで意思を持っているかのように動き出し、今マリルリンデの手に収まった。

  転がりながら、支柱の影に隠れたマリルリンデ。彼は、適当に開いたページに二本指を立てて、名無しの黒い災いを四体排出、その災いが立ち上がり、ワネットへと襲い掛かっている間に、もう五体の災いを使役すると、銃声が止まっている事を確認して、支柱から飛び出そうとした。

  しかし、そんなマリルリンデの眼前へと、ワネットは滑り込むように現れた。


「目くらましにはいい手ですが――アレは雑魚過ぎますね」

「もう九体殺ったってのか……!?」
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