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第八章

アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-02

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 数は二十三本で、皇国軍に行き渡らせるには数が足りない。オマケに――


「実際に名有りと相対し、本当にリンナの刀が有効であるかの証明をしなければならないのですが、そうも言っていられないのが現状ですね」


 シドニアは一本一本丁寧に、鞘から刃を抜き、その刃や棟、鍔や柄、頭等を見据え、内一本の打刀を手に取った。打刀には『キヨス』と名が彫られており、長さはクアンタの使用する『カネツグ』とそう変わらない七十センチ程の物。


「そうですね。もし自分が次に斬鬼や他の名有りと遭遇する事があれば、是非自分の手でその実証を得たい所ではあります」


 サーニスもシドニアと同じく一本一本を見定めていき、最終的には彼と同じく打刀を手に取る。『キソ』と彫られた刀は、シドニアの『キヨス』より僅かに長い、七十三センチ程はあったが、何より彼が気に入ったのは、その刃が非常に綺麗な波紋を描いていたからである。


「ほいよ、コイツでいいや」


 反してイルメールは、特にこれと言って物を見定める事無く、適当に取った脇差を抜き、その場で軽く振るう。ヒュン、と風を切りながら振り込まれた刃の一閃を見据えて、それで納得した様子である。『ゴウカ』と名の彫られた脇差を机に置いたまま、ドスンと着席する彼女へ、皆が視線をやる。


「随分と適当ですが、大丈夫ですか?」

「トドメだけコイツですりゃいいんだろ? なら何でもいいさ。オレの筋肉で敵を抵抗出来ねェようにして、その上でコイツを使えばいいって事よ」


 残る十九本。これらの運用に関してを思考するシドニアに、アルハットが発言を。


「では兄さま、まずはリンナへ玉鋼の搬入を急ぎたいのですが、何分公的に記録を残さねばならないので、霊子移動を用いての物流、というワケにもいきません」

「そうだな……指定文化保護機関としての決定は時間がかかるし、これまでと同様の扱いがしばらく必要となってくる。透明性の維持を考えれば、素直に税関を通した物流網に頼るしかない、という事か」


 リンナ刀工鍛冶場を指定文化保護機関に定めるという決定は、今後公式に定めた五領主議会によって賛成多数を得てからの決定となるが、それまでにリンナ刀工鍛冶場との癒着があったと領民に気付かれると、これはこれで都合が悪い。

  現段階では災いの対処をしているという事を領民に知られてはいけない立場である皇族たちは、そうしたリンナ刀工鍛冶場を優遇する理由を捻出するのにも一苦労だ。


「なんつーかメンドクセェなぁ」

「仕方あるまい、そうした手続きを正しく行う事が透明性ある政治に繋がる故な。まぁ吾輩であれば『リンナの事好きじゃから優遇しちゃうぞっ!』で済ますが!」

「それで何とかなるのアメちゃんとイル姉さまだけよぉ~」


 アメリアやイルメールは独裁者として領民に知れ渡っているし、そうした情報が領民に届く事も無い。故にそうした政策を採用したとしても特に問題はないが、シドニアやカルファス、アルハット領は紛いなりにも民主主義を掲げた領土運営を行っている為、ある程度活動内容というのは広報によって公開されてしまう。


「ここに来て、民衆の知識水準が低い事による弊害が、僅かだが出て来たな」

「弊害、と言いますと?」


 シドニアの溢した言葉に、アルハットが首を傾げる。


「確かに民衆の知識水準が低ければ低い程、ある程度の情報操作や印象操作は簡単になる。我々は現状そうした利点を活かす為に教育水準の統制を行っている。

 だがそうした知識水準の低さと日々の生活に対する不足感が合わさった結果、行き場の無い不満を自分が関わる事の出来ない政治にぶつけやすい。

 そして結果、お上のやり方に少しでも不正の疑惑があれば、目ざとく見つけ出し、その証拠も無しに糾弾する者が一定数現れるものだ。だから私は極めて透明性の高い政治を志している、というわけだ。今後必要な知識として覚えておくといいぞ、アルハット」

「……なるほど、確かにそうした一定知識の確保という意味合いでは、義務教育というニッポンの政策は間違いじゃない、という事なのかしら」


 ブツブツと呟きつつも、しかし本題はそこじゃないと頭を振ったアルハットが、そこでシドニアへ思いついた事を述べてみる。


「あの、私自身刀が好きなんです」

「ほう? それは初耳だ。そうだったのか」

「ええ。フォルムもそうですし、刀の美術的価値というのは今後も残していかなければならないものと考えています。

 ……ですから、リンナ刀工鍛冶場を指定文化保護機関にしようと、私が呼びかけた事にすればどうでしょう?」

「ふむん……」


 アルハットの考えとしてはこうだ。

  元々刀が好きで、その美術的な価値を後世に残していくべきだと考えたアルハットが、リンナを呼び出して会談を行い、今後の定期的な玉鋼搬入の優遇を約束、それと同時に指定文化保護機関に指名しようとしていると広報に出す。

  こうする事で『美術的価値ある刀を生み出すリンナ刀工鍛冶場は指定文化保護機関に相応しく、レアルタ皇国の第四皇女として後押ししている』と民衆に周知させ、今後の搬入を行いやすくするという手筈だ。


「現状は数か月おきに玉鋼を輸出しておりますが、この体裁が整えば一ヶ月に一度、いえ。もっと早いペースで玉鋼の輸出に動けますし、費用を負担する理由付けにもなります」

「後は、現状のアルハット領がスラム街の政策に関して大々的に動かねばならない事が面倒、と言った所だな」

「ええ、そこなんです」


 先日アルハット領で発生した、スラム街での火災事件は、多くの領民に周知されてしまっている。これに対しての政策を打ち出さずにリンナ刀工鍛冶場についてばかり動いていれば、領民の不満が爆発する可能性がある。


「何にせよリンナとクアンタを連れて、私がアルハット領に向かおう。そこでスラム街の現状を確認し、政策を押し出す。同時進行で進めれば民衆の不満も軽減できるだろう」

「では動きますか?」


 シドニアの言葉に、サーニスが準備をするかと動く前に、シドニアが「いや」と彼を止める。


「サーニス、申し訳ないが君には、アメリアの護衛をお願いしたい」

「は――自分が、アメリア様の護衛、でありますか!?」

「え、ヤじゃ! 吾輩、サーニスに護衛なんぞされたくないぞ!?」

「安全の為です、諦めて下さい。そして残る十九本の刀に関する扱いですが、アメリア領に七本、イルメール領に四本、残る八本をカルファス領に搬入し、皇国軍の実績優秀者に配備を」

「数がそれなりにバラけてんのは何でだ?」


 両手を使ってそれぞれの本数を確認するイルメールだったが、しかしそうした計算が途中で出来なくなったか、首を傾げた。


「名有りの災いが出現した際に対処できるように、現状最低限の処置ですよ。姉上がいればひとまずイルメール領の守りは固いでしょうし、少なめの四本。カルファス領にはある程度先鋭の皇国軍人がまだいますが、それでも守りが欲しいので八本。アメリア領は姉上の私兵が配置されている関係上、皇国軍人を皇居に配備できませんので、サーニスを配置、その上で皇国軍に七本流す、という事です」

「シドニア領は如何なされるのですか?」

「シドニア領はリンナから直接刀を買う事が出来る立地だろう。サーニスは一度、私と共にリンナ刀工鍛冶場へと向かい、売ってもらえる刀を何本か見繕って、それを皇国軍へ流せ。その後アメリア領へ向かい、姉上の護衛を」

「は……ハッ!」

「では以上だ、解散」
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