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第三章
アメリア・ヴ・ル・レアルタ-06
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護衛の関係上?
と、クアンタもシドニアの言葉に首を傾げる。
「サーニスにはリンナさんへ、適当に言いくるめるように命じてあるが、簡単に言うと【災い】に対する護衛だ」
「アメリア様も災いについてご存じという事でよろしかったですか?」
「むしろ、ブリジステ諸島で一番災いによる被害が多発しているのは、我がアメリア領なのじゃ」
困っておる、と言わんばかりに深くため息をついたアメリアに、シドニアも頷いた。
「まず、先日君に説明していなかった災いの事をお話しよう。災いは『太古より存在する、災厄をもたらす存在』という説明はしたね」
「ああ。後は外観と、サーニスが戦っている所を目撃したが、ゴルタナを装着した人間と同程度の攻撃力を有している、という印象だ」
「単純な攻撃力だけで言えばそうだね。後は速度も戦闘時にはそれなりにあって、安全を期するのであれば、ゴルタナ無しで渡り合うのは避けた方が好ましいだろう。
君ももし相対する事があれば、遠慮なく【マホーショージョ】へ【ヘンシン】する事だ。
――と、そこが本題ではない。確かにその性能と言うのも面倒なのだが、災いはどうやら『女性を標的にして行動をしている』ようだ。
だからリンナさんの護衛はサーニスが、そして姉上の護衛ついでにクアンタの護衛を、皇国軍の一部隊長でもある私がする、といった様な感じだ。
まぁ君は自分の身を自分で守れるだろうが、姉上は戦闘能力が皆無だからね」
「それにお主らがおらんくとも、外には黒子共がおる。災い程度に後れを取る奴らではないのでな」
「女性を標的にしている、か。それにしては前回、お前とサーニスに向けて現れ……いや、違うのか。あれは」
「恐らく、君かリンナさんへ向けて行動をしていた所、たまたま私とサーニスが鍛冶場に訪れており、遭遇したという考え方で良いのだろう。
リンナ刀工鍛冶場付近は人通りも少ないし、災いにとっては絶好な狩場と言える。あれ以来、警兵隊にはあの周辺を警戒するように呼び掛けている」
なるほど、と相槌を打ちながらしかし妙だと首を振る。
「しかし、アメリア領での被害が多発しているというのは解せませんが」
「なに、簡単な話じゃ。我がアメリア領――というより、その首都であるファーフェは【技術実験保護地域】でな。ここは集計上の男女比が二対八になっておるのじゃ。故に被害に遭う女性が多くいるというだけの事よ」
「男女比が二対八。女性比率が八、という事で宜しかったでしょうか。それに【技術実験保護地域】とは」
「なぁクアンタ? お主は愚弟にはタメ口呼び捨てな癖して、吾輩にはタメ口呼び捨てにはせんのかえ?」
「シドニアの場合は、奴からそういう要望がありましたから」
「では吾輩も命じる。今後吾輩の事を【アメリアちゃんっ】と呼ぶがよい。ちなみに語尾を半音上げるのじゃぞ」
「……敬語は如何致しましょうか」
「無~し~じゃっ」
ハイ、呼んでみるがよい! と命じたアメリアに、クアンタは少々面倒に感じつつも、しかし向こうが呼べと命じているにも関わらず呼ばぬのは逆に失礼とし、頷いた。
「了解した、アメリアちゃんッ」
「律儀に半音上げたのぉ……」
「ダメか? アメリアちゃんッ」
「冗談が通じん奴じゃのぉ。アメリア、でよいぞ。毎回アメリアちゃんっ、て半音上げられるのは何か、呼ばれてる方が気恥ずかしくなるわ」
「すまないねクアンタ。姉上は昔からこう言うヒトなんだ」
頭を抱えるようにしているシドニアに「お前も苦労しているな」と同情だけしつつ、会話を戻す。
「ではアメリア、話を戻すが」
「うむ。技術実験保護地域について、じゃろ?」
「その前に少しだけ歴史の話をしよう」
二人の会話に、シドニアが口を挟む。恐らくアメリアが説明したのでは、時間がそれなりにかかると踏んだからだろう。
「前アメリア領主である『先代のアメリア』時代は、とある病が流行したんだ。女性に発症する風土病で、この病に掛かってしまうと『自我を失ってしまう』という、特殊な病だった。生きてはいるが『生きているだけの屍』……と言った表現が適切かな」
「まぁ結論だけを言うと、それによって出生率が大幅に下落し、アメリア領だけで言えば今後、少子高齢化社会となり得る可能性があったのじゃ。だいたいそれが、二十年ほど前じゃな」
「『自我を失う病』か。しかしそれが出生率の低下に繋がるのか? 例えば自我を失った女性にも、子を産ませる機能は残っているのでは」
「機能、とはあまり気持ちの良い表現では無いのぉクアンタ。お主、ホントに女か? 女は子を産む機械では無いぞ?」
「自我を失い、正常な性交判断が出来ぬ女性へ無理矢理、男性をあてがい、子を産ませるという選択肢は確かにある。だが先代アメリアは少なくともそれを良しとしなかった」
その為、先代アメリア領主は、首都であるファーフェを【技術実験保護地域】とし、出生率改善における様々な研究を行ったという。
「コレも簡単に言えば【母体を介さぬ出産研究】じゃ。それもただの試験管ベイビーというわけではなく、男性の精子だけでの外部出産技術、女性の卵子だけでの外部出産技術等々……言ってしまえば『出産に関わる研究全て』を行う地域に定めたのじゃ」
「結果、その技術実験保護地域では男女比が二対八になった、と?」
「うむ。先ほどは『等々』と色々技術を持ち得ているように表現したが、実際に成功している実験としては『女性の卵子を用いた外部出産技術』だけなのじゃ。これの実験にも多くの卵子を無駄にしたがの」
「ここまで話して、クアンタならば卵子の出所がどこかは、見当が付くだろう」
「風土病で自我を失った女性の、子宮内卵子だろう? 私の事を『本当に女か』と問う程には倫理観があるかと思ったが、実際に前アメリア領主はそれを許していたのではないか」
「次の世代へ負担を残さぬため、必要な実験だ……というのが当時よく言っていた大義名分だね。まぁ本音としては『もう役に立たない女の卵子を使う事の何が悪い』という考えはあったのだろうが」
「気分の悪い話じゃの」
アメリアは、見てわかる程に表情を歪めた。
彼女は尊大な女性には見えるが、しかしクアンタには「シドニアよりも人間らしい人間」に思えた。
と、クアンタもシドニアの言葉に首を傾げる。
「サーニスにはリンナさんへ、適当に言いくるめるように命じてあるが、簡単に言うと【災い】に対する護衛だ」
「アメリア様も災いについてご存じという事でよろしかったですか?」
「むしろ、ブリジステ諸島で一番災いによる被害が多発しているのは、我がアメリア領なのじゃ」
困っておる、と言わんばかりに深くため息をついたアメリアに、シドニアも頷いた。
「まず、先日君に説明していなかった災いの事をお話しよう。災いは『太古より存在する、災厄をもたらす存在』という説明はしたね」
「ああ。後は外観と、サーニスが戦っている所を目撃したが、ゴルタナを装着した人間と同程度の攻撃力を有している、という印象だ」
「単純な攻撃力だけで言えばそうだね。後は速度も戦闘時にはそれなりにあって、安全を期するのであれば、ゴルタナ無しで渡り合うのは避けた方が好ましいだろう。
君ももし相対する事があれば、遠慮なく【マホーショージョ】へ【ヘンシン】する事だ。
――と、そこが本題ではない。確かにその性能と言うのも面倒なのだが、災いはどうやら『女性を標的にして行動をしている』ようだ。
だからリンナさんの護衛はサーニスが、そして姉上の護衛ついでにクアンタの護衛を、皇国軍の一部隊長でもある私がする、といった様な感じだ。
まぁ君は自分の身を自分で守れるだろうが、姉上は戦闘能力が皆無だからね」
「それにお主らがおらんくとも、外には黒子共がおる。災い程度に後れを取る奴らではないのでな」
「女性を標的にしている、か。それにしては前回、お前とサーニスに向けて現れ……いや、違うのか。あれは」
「恐らく、君かリンナさんへ向けて行動をしていた所、たまたま私とサーニスが鍛冶場に訪れており、遭遇したという考え方で良いのだろう。
リンナ刀工鍛冶場付近は人通りも少ないし、災いにとっては絶好な狩場と言える。あれ以来、警兵隊にはあの周辺を警戒するように呼び掛けている」
なるほど、と相槌を打ちながらしかし妙だと首を振る。
「しかし、アメリア領での被害が多発しているというのは解せませんが」
「なに、簡単な話じゃ。我がアメリア領――というより、その首都であるファーフェは【技術実験保護地域】でな。ここは集計上の男女比が二対八になっておるのじゃ。故に被害に遭う女性が多くいるというだけの事よ」
「男女比が二対八。女性比率が八、という事で宜しかったでしょうか。それに【技術実験保護地域】とは」
「なぁクアンタ? お主は愚弟にはタメ口呼び捨てな癖して、吾輩にはタメ口呼び捨てにはせんのかえ?」
「シドニアの場合は、奴からそういう要望がありましたから」
「では吾輩も命じる。今後吾輩の事を【アメリアちゃんっ】と呼ぶがよい。ちなみに語尾を半音上げるのじゃぞ」
「……敬語は如何致しましょうか」
「無~し~じゃっ」
ハイ、呼んでみるがよい! と命じたアメリアに、クアンタは少々面倒に感じつつも、しかし向こうが呼べと命じているにも関わらず呼ばぬのは逆に失礼とし、頷いた。
「了解した、アメリアちゃんッ」
「律儀に半音上げたのぉ……」
「ダメか? アメリアちゃんッ」
「冗談が通じん奴じゃのぉ。アメリア、でよいぞ。毎回アメリアちゃんっ、て半音上げられるのは何か、呼ばれてる方が気恥ずかしくなるわ」
「すまないねクアンタ。姉上は昔からこう言うヒトなんだ」
頭を抱えるようにしているシドニアに「お前も苦労しているな」と同情だけしつつ、会話を戻す。
「ではアメリア、話を戻すが」
「うむ。技術実験保護地域について、じゃろ?」
「その前に少しだけ歴史の話をしよう」
二人の会話に、シドニアが口を挟む。恐らくアメリアが説明したのでは、時間がそれなりにかかると踏んだからだろう。
「前アメリア領主である『先代のアメリア』時代は、とある病が流行したんだ。女性に発症する風土病で、この病に掛かってしまうと『自我を失ってしまう』という、特殊な病だった。生きてはいるが『生きているだけの屍』……と言った表現が適切かな」
「まぁ結論だけを言うと、それによって出生率が大幅に下落し、アメリア領だけで言えば今後、少子高齢化社会となり得る可能性があったのじゃ。だいたいそれが、二十年ほど前じゃな」
「『自我を失う病』か。しかしそれが出生率の低下に繋がるのか? 例えば自我を失った女性にも、子を産ませる機能は残っているのでは」
「機能、とはあまり気持ちの良い表現では無いのぉクアンタ。お主、ホントに女か? 女は子を産む機械では無いぞ?」
「自我を失い、正常な性交判断が出来ぬ女性へ無理矢理、男性をあてがい、子を産ませるという選択肢は確かにある。だが先代アメリアは少なくともそれを良しとしなかった」
その為、先代アメリア領主は、首都であるファーフェを【技術実験保護地域】とし、出生率改善における様々な研究を行ったという。
「コレも簡単に言えば【母体を介さぬ出産研究】じゃ。それもただの試験管ベイビーというわけではなく、男性の精子だけでの外部出産技術、女性の卵子だけでの外部出産技術等々……言ってしまえば『出産に関わる研究全て』を行う地域に定めたのじゃ」
「結果、その技術実験保護地域では男女比が二対八になった、と?」
「うむ。先ほどは『等々』と色々技術を持ち得ているように表現したが、実際に成功している実験としては『女性の卵子を用いた外部出産技術』だけなのじゃ。これの実験にも多くの卵子を無駄にしたがの」
「ここまで話して、クアンタならば卵子の出所がどこかは、見当が付くだろう」
「風土病で自我を失った女性の、子宮内卵子だろう? 私の事を『本当に女か』と問う程には倫理観があるかと思ったが、実際に前アメリア領主はそれを許していたのではないか」
「次の世代へ負担を残さぬため、必要な実験だ……というのが当時よく言っていた大義名分だね。まぁ本音としては『もう役に立たない女の卵子を使う事の何が悪い』という考えはあったのだろうが」
「気分の悪い話じゃの」
アメリアは、見てわかる程に表情を歪めた。
彼女は尊大な女性には見えるが、しかしクアンタには「シドニアよりも人間らしい人間」に思えた。
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