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第一章
変身、斬心の魔法少女・クアンタ-09
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彼女は、ボロボロと流れる涙を、拭う事なく「渡そう」とクアンタの持つ刀をヴァルブへ渡すように指示する。
「これで、アタシらの安全は保障してくれるんだね?」
「ああ。二束三文だが、金も一応払おう。私は契約事に関してはプロだぞ?」
小さな封筒を取り出したヴァルブが、地面へ乱雑に投げる。
「さぁ、拾いたまえよ」
落ちた時の音と元よりない厚みから、それこそ二束三文ほどの小銭と数枚の札が入っただけのように思えるそれを、リンナは拾おうと前へ出る。
――だが、クアンタはそれを、手で制し、止めた。
「私には、感情が無い筈だった」
「……クアンタ?」
「貴様、何を言っている?」
「私にもわからん。
私は本来フォーリナーの全より分離した、ただの一でしか無い筈だった。
故に感情などなく、思考はあくまでフォーリナー全土の繁栄を鑑みて行われる。
だがこの世界に来てから、私はリンナの刀に、ある筈の無い心を奪われた。
リンナが刀を打つ姿に、ある筈の無い心を奪われた。
リンナが父親を語る時の表情に、ある筈の無い心を奪われた。
――そして今なにより、苦悩に耐えるリンナの表情に、私の中にある筈の無い心が、激しい怒りを感じている」
声は、それまでのクアンタと同じトーンで、同じ熱量のように感じるけれど。
確かに彼女の表情は、鉄さえ歪む熱の中でさえ涼し気な表情を浮かべていそうな彼女のものではなく、眉間にしわを寄せ、目を細め、口を結ぶ、怒りに満ち満ちた表情である。
「この不利な状況を見る事も出来ん阿呆か! 勇ましくはあるが、それはただ愚かなだけと知れよ娘!」
「愚かは貴様だ、ヴァルブ・フォン・リエルティック。
――私のお師匠に手を出した罪、貴様の投獄により償え、下郎」
ジャージのファスナーを下し、胸元を見せつけるように広げたクアンタ。
彼女の豊満な胸元に一瞬目をやった四人の男たちとリンナは、いきなり痴態を見せて何事かと身構えたが――しかし、次の瞬間、皆の視線は胸元から外れる。
彼女の胸元から、何か一つの板にも似た、小さな物体が姿を現した。
リンナの父が遺した遺作の刀を庭に突き刺し、空中で浮いている板を右手で掴んだクアンタは、板の頂部に存在する小さなボタンに似た突起を、押した。
板の面が発光し、何か文字の様なものを映しだす。
〈Magicaring Device MODE〉と表示されているが、しかしそれは現地語ではなく、誰もが意味を図る事が出来ぬ間に――板より声が発せられた。
〈Devicer・ON〉
喋った! とリンナが驚き、飛び跳ねると、クアンタは板を前面へ押し出し、綺麗な声色で、唱える。
「変身」
〈HENSHIN〉
今一度、空へ向けて放り投げたクアンタは、重力の法則にしたがい落下しようとした板へ向け、左手の人差し指を伸ばし、触れた。
瞬間、板より発せられる眩い光が、彼女の体を包む。
先ほどまでのジャージではなく、肌に張り付くような赤い布地が胸元から腰までを覆う。下腹部はその布地からミニスカート状に展開され、レースとフリルが所々に散見された。
髪は肩まで伸びるショートヘアをただ下していただけの筈が、前髪を左右で分けてピン止めし、後ろ髪は小さく結い上げたポニーテールとなる。
――光が散ると、一同が一瞬の内に身形を変え、艶やかな衣装を着込んだクアンタに、唖然とする。
唯一、口を開く事が出来たのは、ヴァルブだった。
「な、何が……それは、ゴルタナ? ……否、違う。……お前は、その姿は、なんだッ!?」
「私は――斬心の魔法少女・クアンタ」
庭に突き刺した刀を抜き、鞘に納め、彼女――斬心の魔法少女・クアンタは、腰に刀を備えた上で、右足を一歩前に出す。
瞬間、クアンタの姿が消えたかのように、その場で立ち尽くす五人は見えたが、消えたという表現は正しくない。
一瞬の内に、地面を強く蹴りつけたクアンタは、地上から三十メートル程高く跳び上がり、刀を抜き放ちながら地面に向け高速で落下し、その一閃を浴びせた。
男の一人が、ゴルタナの上から強く殴打された衝撃によって意識を失い、倒れる。
「な――ッ!!」
何時の間にか姿を消した謎の女が、いきなり現れた瞬間に一人の男を気絶させたよう見えた残る二人の男、ヴァルブ、リンナは、ブルリと震え、しかし声を満足に発する事も、動く事も出来なかった。
クアンタは立ち上がり、今一度刃を確認すると斬り込む側を棟に向け直すと、残る二人の男に切りかかる。
辛うじて、反応する事が出来た一人は「ひ」と怯えを声に漏らしながら、反射神経だけで剣の刃で受けるが、しかし彼女が有する圧倒的な力の前に、反射神経だけで防ぐ事は出来ず、振り切られた刀の棟に圧し負け、一歩後ずさった瞬間にクアンタが刀を逆手に持ち替え、柄の頭で顎を殴打。
「ああ、顔面はゴルタナで覆っていなかったな。失敬、手加減はした。気絶で済むだろう」
刀を鞘に納めつつ、残る一人の男を倒せば終わると、クアンタはそのまま獲物を構える事も無く、突撃する。
獲物が無いのであれば勝機はある! 残る一人はそう希望を抱いた上で、やたらめったらに刀を振るっていく。
ゴルタナによって、刀を振るうスピードも、その力も強く、速くはなっている。
一秒の間に振られる回数は、十数回に及ぶ。
だが、クアンタは拙い剣筋を、全て見極め、全て寸での所で避け、その上で一瞬出来た隙を、見逃さなかった。
上段から振り切られた刃を、その両掌を合わせる事により、白刃取りで受け止めた彼女に、全員がギョッとする。
取った彼女はそのまま刃の存在を気にすることなく男の腕をとり、足を引っかけ、背負い投げで地面へと叩きつける。
さらには背負い投げをした衝撃を利用して宙を舞った彼女が腰を捻りながら腹部に向けて右拳を叩き込むと、展開されたゴルタナが砕けるように、ガギンと音を鳴らしながら――男の腹部を殴打する事によって、彼は口から胃液を吐き出しながら意識を落とし、気絶。
大の男を三人倒すまでに――クアンタが有した時間は、一分以上の時間を有さなかった。
あまりの早業に息をする事も忘れたリンナが、しかし状況がひっくり返り、今まさに勝利となったのだと理解した瞬間、クアンタに向けて涙を流しながら、飛びつこうとする。
だがクアンタは、彼女の体を突き飛ばした。
尻餅をつくリンナ。
彼女がそんな事をするとは露とも思っていなかったリンナは思わず「何すんのさ」と声をあげようとするも――しかし声は、轟音と共に、掻き消える。
――それは、銃声だった。
聞く者全ての体を震わす程の音と共に、数匹の鳥が森から飛び立っていくが、しかし気にする者は誰もいない。
リンナを突き飛ばしたクアンタの後頭部に銃弾が撃ち込まれ、貫通して額の部分にも穴が開いている。
前のめりに倒れるクアンタを抱き留めたリンナは、視線をヴァルブに向けると。
彼はその手に、一丁のフリントロック式の銃を持っていた。
「これで、アタシらの安全は保障してくれるんだね?」
「ああ。二束三文だが、金も一応払おう。私は契約事に関してはプロだぞ?」
小さな封筒を取り出したヴァルブが、地面へ乱雑に投げる。
「さぁ、拾いたまえよ」
落ちた時の音と元よりない厚みから、それこそ二束三文ほどの小銭と数枚の札が入っただけのように思えるそれを、リンナは拾おうと前へ出る。
――だが、クアンタはそれを、手で制し、止めた。
「私には、感情が無い筈だった」
「……クアンタ?」
「貴様、何を言っている?」
「私にもわからん。
私は本来フォーリナーの全より分離した、ただの一でしか無い筈だった。
故に感情などなく、思考はあくまでフォーリナー全土の繁栄を鑑みて行われる。
だがこの世界に来てから、私はリンナの刀に、ある筈の無い心を奪われた。
リンナが刀を打つ姿に、ある筈の無い心を奪われた。
リンナが父親を語る時の表情に、ある筈の無い心を奪われた。
――そして今なにより、苦悩に耐えるリンナの表情に、私の中にある筈の無い心が、激しい怒りを感じている」
声は、それまでのクアンタと同じトーンで、同じ熱量のように感じるけれど。
確かに彼女の表情は、鉄さえ歪む熱の中でさえ涼し気な表情を浮かべていそうな彼女のものではなく、眉間にしわを寄せ、目を細め、口を結ぶ、怒りに満ち満ちた表情である。
「この不利な状況を見る事も出来ん阿呆か! 勇ましくはあるが、それはただ愚かなだけと知れよ娘!」
「愚かは貴様だ、ヴァルブ・フォン・リエルティック。
――私のお師匠に手を出した罪、貴様の投獄により償え、下郎」
ジャージのファスナーを下し、胸元を見せつけるように広げたクアンタ。
彼女の豊満な胸元に一瞬目をやった四人の男たちとリンナは、いきなり痴態を見せて何事かと身構えたが――しかし、次の瞬間、皆の視線は胸元から外れる。
彼女の胸元から、何か一つの板にも似た、小さな物体が姿を現した。
リンナの父が遺した遺作の刀を庭に突き刺し、空中で浮いている板を右手で掴んだクアンタは、板の頂部に存在する小さなボタンに似た突起を、押した。
板の面が発光し、何か文字の様なものを映しだす。
〈Magicaring Device MODE〉と表示されているが、しかしそれは現地語ではなく、誰もが意味を図る事が出来ぬ間に――板より声が発せられた。
〈Devicer・ON〉
喋った! とリンナが驚き、飛び跳ねると、クアンタは板を前面へ押し出し、綺麗な声色で、唱える。
「変身」
〈HENSHIN〉
今一度、空へ向けて放り投げたクアンタは、重力の法則にしたがい落下しようとした板へ向け、左手の人差し指を伸ばし、触れた。
瞬間、板より発せられる眩い光が、彼女の体を包む。
先ほどまでのジャージではなく、肌に張り付くような赤い布地が胸元から腰までを覆う。下腹部はその布地からミニスカート状に展開され、レースとフリルが所々に散見された。
髪は肩まで伸びるショートヘアをただ下していただけの筈が、前髪を左右で分けてピン止めし、後ろ髪は小さく結い上げたポニーテールとなる。
――光が散ると、一同が一瞬の内に身形を変え、艶やかな衣装を着込んだクアンタに、唖然とする。
唯一、口を開く事が出来たのは、ヴァルブだった。
「な、何が……それは、ゴルタナ? ……否、違う。……お前は、その姿は、なんだッ!?」
「私は――斬心の魔法少女・クアンタ」
庭に突き刺した刀を抜き、鞘に納め、彼女――斬心の魔法少女・クアンタは、腰に刀を備えた上で、右足を一歩前に出す。
瞬間、クアンタの姿が消えたかのように、その場で立ち尽くす五人は見えたが、消えたという表現は正しくない。
一瞬の内に、地面を強く蹴りつけたクアンタは、地上から三十メートル程高く跳び上がり、刀を抜き放ちながら地面に向け高速で落下し、その一閃を浴びせた。
男の一人が、ゴルタナの上から強く殴打された衝撃によって意識を失い、倒れる。
「な――ッ!!」
何時の間にか姿を消した謎の女が、いきなり現れた瞬間に一人の男を気絶させたよう見えた残る二人の男、ヴァルブ、リンナは、ブルリと震え、しかし声を満足に発する事も、動く事も出来なかった。
クアンタは立ち上がり、今一度刃を確認すると斬り込む側を棟に向け直すと、残る二人の男に切りかかる。
辛うじて、反応する事が出来た一人は「ひ」と怯えを声に漏らしながら、反射神経だけで剣の刃で受けるが、しかし彼女が有する圧倒的な力の前に、反射神経だけで防ぐ事は出来ず、振り切られた刀の棟に圧し負け、一歩後ずさった瞬間にクアンタが刀を逆手に持ち替え、柄の頭で顎を殴打。
「ああ、顔面はゴルタナで覆っていなかったな。失敬、手加減はした。気絶で済むだろう」
刀を鞘に納めつつ、残る一人の男を倒せば終わると、クアンタはそのまま獲物を構える事も無く、突撃する。
獲物が無いのであれば勝機はある! 残る一人はそう希望を抱いた上で、やたらめったらに刀を振るっていく。
ゴルタナによって、刀を振るうスピードも、その力も強く、速くはなっている。
一秒の間に振られる回数は、十数回に及ぶ。
だが、クアンタは拙い剣筋を、全て見極め、全て寸での所で避け、その上で一瞬出来た隙を、見逃さなかった。
上段から振り切られた刃を、その両掌を合わせる事により、白刃取りで受け止めた彼女に、全員がギョッとする。
取った彼女はそのまま刃の存在を気にすることなく男の腕をとり、足を引っかけ、背負い投げで地面へと叩きつける。
さらには背負い投げをした衝撃を利用して宙を舞った彼女が腰を捻りながら腹部に向けて右拳を叩き込むと、展開されたゴルタナが砕けるように、ガギンと音を鳴らしながら――男の腹部を殴打する事によって、彼は口から胃液を吐き出しながら意識を落とし、気絶。
大の男を三人倒すまでに――クアンタが有した時間は、一分以上の時間を有さなかった。
あまりの早業に息をする事も忘れたリンナが、しかし状況がひっくり返り、今まさに勝利となったのだと理解した瞬間、クアンタに向けて涙を流しながら、飛びつこうとする。
だがクアンタは、彼女の体を突き飛ばした。
尻餅をつくリンナ。
彼女がそんな事をするとは露とも思っていなかったリンナは思わず「何すんのさ」と声をあげようとするも――しかし声は、轟音と共に、掻き消える。
――それは、銃声だった。
聞く者全ての体を震わす程の音と共に、数匹の鳥が森から飛び立っていくが、しかし気にする者は誰もいない。
リンナを突き飛ばしたクアンタの後頭部に銃弾が撃ち込まれ、貫通して額の部分にも穴が開いている。
前のめりに倒れるクアンタを抱き留めたリンナは、視線をヴァルブに向けると。
彼はその手に、一丁のフリントロック式の銃を持っていた。
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