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第二章
50 反省 ト 半生 ~或る庶子の悔恨~
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「貴方は今『面会の約束は殿下のご意向によって果たされない』と言いました?」
あれ?
言った·····かな?
確かに言った。
「それが殿下のご意向なのです」と。
自分は間違った事は言っていない。
事実を、正論を、主人の言葉を
何一つ違えることはしていない。
では何を間違えた?
何も間違えてはいない。
しかし、結果はどうだ?
これは自分の、主人の望む結果なのか?
待て待て待て待て。
最初から思い返してみよう。
自分は一体、どこで間違えてしまったのか。
·····最初から。
自分はアーガスタイン伯爵家の庶子だ。
名をカイルと言う。
庶子。·····つまり、平民の子だ。
アーガスタイン伯爵である父が手を付けた平民の女が自分を身篭り、流れる事無く無事に自分は生まれ、順調に育った。
両親は愛情をくれた。
母は自分を「愛してる」と言った。
そして、同様に父のことも愛していると。
身分違いの恋だった。
にも関わらず、平民の自分が伯爵の愛を賜れたのは身に余る奇跡だと母は語った。
一夜の愛ですら奇跡なのに、子を授かった。
なんという幸福か。
人生を3度繰り返そうとも、これ程の奇跡に巡り会うことはないだろう。
愛しい、愛しいと、そう言って笑う母の顔が好きだった。
父はどうかと言えば、意外にも平民の母と自分を邪険にしなかった。
それどころか母を娶る算段すらあったようだ。
アーガスタイン家は騎士の一族だ。
代々、優秀な騎士を輩出し、王家の覚えも良い。
魔物や亜人などの外敵はあっても、人間国家は他に存在しない。
この世界に戦争と言う概念は存在しない。
争う国がないのだ。
剣や魔法を用いて戦うのは、せいぜいダンジョンから溢れた魔物か犯罪者くらいのものだ。
にも関わらず王家に名を知られる程の騎士の一族と言われるのは、単に戦闘に優れるからだけではない。
何より『騎士道』と呼ばれる高潔さが評価されているからだ。
今も揶揄と共に語られる『アーガスタインは騙せず、墮魔さず』とは誰が言い出したのか不明だがアーガスタイン家の者は他者を貶める真似はせず、自らも魔の誘いに堕ちる事はないという意味の貴族会では有名な一節だった。
そんな一族の当主が平民の女を孕ませた。
それは聞く者によっては顔を歪める醜聞だったのかも知れない。
しかし、一族の大半は気にしなかった。
その中には当主である父も含まれた。
何故なら「だったら妻にすればいいじゃない」と簡単に解決できる問題だったからだ。
貴族は通常、複数の妻を娶る。
それは権力と財力の象徴でもあるし、肉と快の欲を満たす手段でもある。
しかし、もう一つの一面として女を多数囲うことで後ろ盾のない女性を養うという意味も持つ。
故に、平民の女性を━━━一番目ではないにしても━━━妻に迎える事は珍しい事ではない。
しかしそれに異を唱えたのは一番目の妻だった。
曰く、身重の女を妻とするのは褒められない、と。
言われれば然り。
女の方には父親の確証はあろうとも、男の方には本当に自分の子供なのかという疑問は残る。
そうでなくとも、妻となってから子を授かるなら受け入れられようとも孕んだ身で嫁いでくるとは分別に欠ける。
そう言われれば筋は通るし、元より平民の母には立場も発言力もない。
父は正妻の言に難色を示したが何より母自身が辞退した。
自分には過ぎたる幸福だと、そう言ってアーガスタイン家の一員となる事を拒絶した。
そうして平民であり続けた母はそれでも自分を産み、父への愛と忠誠を失う事はなかった。
あれ?
言った·····かな?
確かに言った。
「それが殿下のご意向なのです」と。
自分は間違った事は言っていない。
事実を、正論を、主人の言葉を
何一つ違えることはしていない。
では何を間違えた?
何も間違えてはいない。
しかし、結果はどうだ?
これは自分の、主人の望む結果なのか?
待て待て待て待て。
最初から思い返してみよう。
自分は一体、どこで間違えてしまったのか。
·····最初から。
自分はアーガスタイン伯爵家の庶子だ。
名をカイルと言う。
庶子。·····つまり、平民の子だ。
アーガスタイン伯爵である父が手を付けた平民の女が自分を身篭り、流れる事無く無事に自分は生まれ、順調に育った。
両親は愛情をくれた。
母は自分を「愛してる」と言った。
そして、同様に父のことも愛していると。
身分違いの恋だった。
にも関わらず、平民の自分が伯爵の愛を賜れたのは身に余る奇跡だと母は語った。
一夜の愛ですら奇跡なのに、子を授かった。
なんという幸福か。
人生を3度繰り返そうとも、これ程の奇跡に巡り会うことはないだろう。
愛しい、愛しいと、そう言って笑う母の顔が好きだった。
父はどうかと言えば、意外にも平民の母と自分を邪険にしなかった。
それどころか母を娶る算段すらあったようだ。
アーガスタイン家は騎士の一族だ。
代々、優秀な騎士を輩出し、王家の覚えも良い。
魔物や亜人などの外敵はあっても、人間国家は他に存在しない。
この世界に戦争と言う概念は存在しない。
争う国がないのだ。
剣や魔法を用いて戦うのは、せいぜいダンジョンから溢れた魔物か犯罪者くらいのものだ。
にも関わらず王家に名を知られる程の騎士の一族と言われるのは、単に戦闘に優れるからだけではない。
何より『騎士道』と呼ばれる高潔さが評価されているからだ。
今も揶揄と共に語られる『アーガスタインは騙せず、墮魔さず』とは誰が言い出したのか不明だがアーガスタイン家の者は他者を貶める真似はせず、自らも魔の誘いに堕ちる事はないという意味の貴族会では有名な一節だった。
そんな一族の当主が平民の女を孕ませた。
それは聞く者によっては顔を歪める醜聞だったのかも知れない。
しかし、一族の大半は気にしなかった。
その中には当主である父も含まれた。
何故なら「だったら妻にすればいいじゃない」と簡単に解決できる問題だったからだ。
貴族は通常、複数の妻を娶る。
それは権力と財力の象徴でもあるし、肉と快の欲を満たす手段でもある。
しかし、もう一つの一面として女を多数囲うことで後ろ盾のない女性を養うという意味も持つ。
故に、平民の女性を━━━一番目ではないにしても━━━妻に迎える事は珍しい事ではない。
しかしそれに異を唱えたのは一番目の妻だった。
曰く、身重の女を妻とするのは褒められない、と。
言われれば然り。
女の方には父親の確証はあろうとも、男の方には本当に自分の子供なのかという疑問は残る。
そうでなくとも、妻となってから子を授かるなら受け入れられようとも孕んだ身で嫁いでくるとは分別に欠ける。
そう言われれば筋は通るし、元より平民の母には立場も発言力もない。
父は正妻の言に難色を示したが何より母自身が辞退した。
自分には過ぎたる幸福だと、そう言ってアーガスタイン家の一員となる事を拒絶した。
そうして平民であり続けた母はそれでも自分を産み、父への愛と忠誠を失う事はなかった。
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