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第二章

48 弁明 ト 苦悩

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「失礼いたします。
恐れながら本日、殿下はお忙しいとの事でお会い出来かねると仰せです」

「左様ですか。
·····もう何度目かしらね?」

「はあ、その·····。以前より重ねて誠に申し訳ございません!!」

伝令はガバッと頭を下げて謝罪するが、本気で謝って済むと思っているのだろうか。

「いつもいつも、殿下はわざわざお忙しい日に面会を指定されているのかしら?
それとも私と会う日に限って、どうしても今日でなければならない急用ができてしまうのかしら?」

「いえ、それはその·····
自分に問われましても·····」

歯切れの悪い返答と共に、ついには手巾を取り出し汗を拭いだした伝令に私は質問をやめない。

「あら、ではどなたに聞けばよろしいの?」

「それはその、殿下ご本人にお伺いしない事には·····」

「ではそのようにしてくださる?」

「いえ、しかし殿下はお忙しく、お会い出来かねると·····」

「ええ、聞きましたわ。
私、無理に会わせろと言うつもりはありませんの。ただ、会えない理由を·····もしくは会えない日に招待されている理由を問うているだけですわ。
そんなに難しい事を言ってるつもりはないのだけど?」

「···············仰る通りでございます。」

結局のところ、私は舐められてるのだ。
殿下本人にはもちろん、伝令を伝えに来ただけの召使いにすらもだ。

公爵令嬢と言えど所詮7歳の子供だと。
王族の嫡子に「会えない」と言われればすごすごと帰るしか能がない。それを何度繰り返そうとも何も出来ない、何も問題ない娘だと。

今回も「忙しい」と伝令して頭を下げれば引き下がると思っていたのだろう。

だから何一つとして対応策を考えない。
それどころか、まともな言い訳一つ用意しない。

申し訳ない、という言葉と態度は本心なのだろう。しかし気持ちだけでは意味がない。
肚の底でどれだけ人を殺したいと思っても実際に行動しない限り何の罪にもならないように、どれほどの謝意を抱いても実際に状況が改善しなければ何の救いにもならないのだ。

「まあ、構いませんわ。
私もそろそろ我慢の限界。いい加減、お父様に相談させていただきますがよろしいですわね?」

「どうか寛大なご処置をご検討いただけませんでしょうか·····」

何を言ってるんだ?

「寛大なご処置?··········とは、このまま泣き寝入りしていろと?」

「あ·····いえ、そういう訳では·····」

この件が陛下に伝われば、正式な約束を交わした面会をセッティング出来ていない彼らも立派に処罰の対象だ。

今更になって家令もメイドも顔を青くさせる。

「お嬢様!どうか私からもお願いします!
どうか今一度、考え直しては頂けませんでしょうか!!」

紅茶を用意してくれたメイドも必死に頭を下げるけれども、どうしようもない。

「はぁ·····」

私は一つ、大きなため息を吐いた。

私だって可能なら助けてあげたい。
できる事なら誰も不利益を被る事無く状況を改善させたい。
きっと彼らも私が来る度に胃の痛い想いをして迎えてくれていたのだろう。どこかでそれが長くは続かない事を感じながら。

貴族としてはとんでもなく甘い考えなのだろう。それでも何とかするためにはどうしたらいいだろう。
しかし、いくら思考を巡らせても何ら解決策は浮かんで来ない。

この場で殿下が出てくれば早いんだけどなー。
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