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第二章

45 調整 ト 夕食

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魔法!
たーのしーい!!

指先に火が灯るのよ。
どういう原理なのかしら?

普通、火が燃えるためには熱、燃料、酸素の3つが必要なのだけど少なくともココに燃料に相応するものは存在しない。
それを魔力とやらで補っているのかしら?

だとしたら、さっき失敗した大きな炎が一瞬で消えた理由は私のステータス上の魔力が少ないからと仮定できるわ。
今は小さな炎だから魔力が小さくても燃焼時間を継続できているのかもね。

1度もダンジョンに行ったことがない、魔物を倒した事がない私のステータスはレベル1のまま変わっていない。
魔力の項目も5のままだ。

とか考えてる間に指先の火が消えてしまった。

時間にして30秒くらいだろうか。
火種としては十分じゃないかな。

しかし、実際に使ってみて思った。

「これ、楽しい以外に使い道ないわね」

『でしょうね』

「でしょうね」

本当に貴族の令嬢って何もしなくていいんだなー。

いや、何もしなくていいと言うと語弊があるけど、真面目に必要なスキルが世渡りや対人に特化しすぎてる。

火魔法?
そこに暖炉があるじゃない、って状況だ。
貴族ってなんて面倒で退屈なんだろう。


コンコン

そうこうしていると扉がノックされる。

「どうぞ」

「失礼いたします。
お嬢様、お夕食の準備が整い·····」

もうそんな時間か。
気が付けば王宮から戻ってからいい時間になっていたらしい。

マリーが用意を整えて予備に来てくれたようだ。

「どうしたの?」

「逆にお嬢様がどうしたんですか。
前髪焦げてますよ?」

あ、忘れてた。

「とにかく、鏡の前にお座りください。
すぐに毛先を整えます。」

言うが早いかドレッサーへ誘導すると布類や小さなナイフを用意する。

鏡の前に座ると、するりと首周りに布を纏わせ虫系モンスターの鋭い羽を加工した薄いナイフを使い、前髪を削るように毛先を落としていく。

ハサミとか見たことないのよ。
触れれば切れるような鋭さの刃が存在するから、わざわざ刃物を重ねて切断力を上げる必要がないのかもしれない。
いや、見たことないだけで市井には存在してるのかな?

ものの数分で焦げた髪は綺麗になった。
さすがマリー。優秀。

「さあ、出来ました。
急いで食堂に行きましょう、せっかくのお食事が冷めてしまいます。
本日のデザートは獰猛なワイルド・コッコの卵をたっぷり使った焼き菓子です。残してください。」

「優秀なんだけどなぁ·····」

「お嬢様に拾って貰えて本当に良かったです」

『あ、俺にもデザート!』

「お嬢様!私の分もお願いします!」

「はいはい」

およそ貴族らしくないやり取りではあるが、私はこの気心の知れた関係性を気に入っている。
特に咎めたことはないが、対外的にはキチンとした対応をしてくれるので問題はない。

この調子で外面をしっかり保ってくれるなら、是非とも婚姻後も付いて欲しいものだ。
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