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第一章

35 王宮 ト 傾国 ~或る王子の矜恃~

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なぜだ、なぜだ、なぜだ·····

頭の中がぐるぐる回る。
自分の立っている場所がガラガラと崩れ落ちていく感覚に陥る。

「なぜだ!!」

私は優れているのに。私は頂点なのに。
なぜ誰も私を認めない?


貴族は腹黒い。
今さら何を、と思うか?私も思う。
つまり、心で思っている事を表面に出さないのだ。どいつもこいつも!

私のステータスを報告した際の反応は様々だった。

国王「···············はぁ」
ため息。

王妃「大丈夫。あなたはきっと大丈夫よ」
悲しげな笑みを浮かべ、その後5日ほど後宮に篭った。

教師「とにかくがんばりましょう!」
何か励まされた。

宰相「精進なさってくだされ·····。」
何をだよ。

乳母「あー·····。」
まずこっち向け。

本当に何なのだ?!
あの日から出会う人間が皆一様に残念な者を見る目で見てくる!!
やはり、王家に生まれながら称号が一つしかないのは失望の対象になるのか?!

ならば、どうにかして栄誉ある称号を得なくてはならない。

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·····無論、数の問題ではない。
《傾国の親王》という称号自体に問題があるのだが、そんな事は知る由もない。
「こんな称号なら無い方がどれほど良いか·····」と頭を抱える国王の胸中などは夢に見ることもない。

現状、この国に王太子はヴィンセント以外に存在しない。
側室が少ないことが理由の一端ではあるのだが、いつまでもこのままではいられない。

いずれは辺境や力ある貴族の娘を後宮に囲い、周辺の土地の繋がりを深めたり権力を分散しなくてはならないだろう。
そうなれば他にも王位継承権を持つものは生まれてくるだろうし、そうでなくとも王も王妃も若い。これから子を成す事も可能だ。

だが、それでは解決しない。
国を傾ける可能性のある奴じゃなく、後に生まれる子に玉座を空け渡せばいいじゃない。なんて、簡単な問題ではないのだ。

問題の一つが、例えば先程の後宮になる。
後宮とはある意味戦場だ。
女同士のドロドロした争いはそのまま、後ろ盾となる家同士のドロドロした利権争いなのだ。

その際、後宮の主となり頂点に君臨する事で茨の花園を治めるのが王妃である。
舐められる訳にはいかない。
後宮の花は他の養分を奪い、咲き誇るために必死なのだ。決して王妃と言えど例外ではない。

そんな中で《傾国》の称号を持った王子を産んだという事実は1つの弱みになる。

本来であれば第一子に男子を産んだ正室というだけで、圧倒的な立場が確立されるべきなのにそれが称号一つで弱点に早変わりだ。


そういった諸々の事情から、王宮ではどうにか王太子の称号をカバーする事が急務となった。
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