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第一章

22 諦観 ト 命拾 ~或る神使の転生~

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神の奇跡。
大爆発。

奇跡って爆発するんだ。

俺を中心とした一定区域が抉れている。
倉庫も半壊状態だし、比較的重量の軽い子供や小さい木箱に入った小動物系は爆風に飛ばされたようだが、そうじゃない奴や倉庫内の『在庫』たちには被害が出たかもしれない。

大爆発って文字にしてしまえばたかだか3文字だけど自分の目で見てしまうとシャレにならない。
にも関わらず、不思議と罪悪感のようなものは感じなかった。

覚悟を決めたからだろうか、自身の身に感じた恐怖がそれを上回ったからだろうか。
どちらにしろ、「今なら逃げられる」という思いの方が強かった。

俺は一目散に逃げた。
目的も方向も関係なくただ走った。

俺の連れてこられた倉庫は長大な外壁で囲まれた大都市の郊外の目立たない一角にあったらしい。
さすが獣とでも言うのか、全力で走り続けると子犬の足でもすぐに街道を見つけた。

さすが、大都市近郊の街道はたくさんの人が行き交い、活気に溢れている。
道行く人は皆、忙しく歩を進め誰一人足元の俺には気付かない。

これ幸いとばかりに人波をすり抜け、門扉では検問している門番らしき人を素通りして都市の中て入っていく。

人間は危険だとは思ったが、だからといってサバイバルで生き抜く自信はない。
人が大勢住んでいる場所なら寝る場所や食べ物も何とかなるだろうと考えた。

甘かった。

いやいやいや、ヤバいヤバいヤバい。
少しでも残飯が残っているだろうと当たりをつけて貧民街の方に向かったのが運の尽き。
貧民街はその名に恥じぬ貧民っぷりで、そこでは完全に食われる側だった。
物音を立てるものならネズミだって捕食される空間で残飯漁るなんてとんでもない。

貴婦人の襟巻きに~とか言われて値が付きそうになった俺は食料兼収入源でしかない。
いくら緩やかに収束しつつある世界っつってもなんでこんな殺伐としてんだよ!!

この毛並みは危険だと判断した俺は捕まえようと追ってくるヤツらから逃げながら泥にまみれて身を隠す。
転んだりぶつかったりしながら逃げたからあちこち痛い。
一昼夜逃げ回ってもうヘトヘトだ。

ムリだ。貧民街で犬っころ1匹はムリ。

とにかく貧民街を抜け出して裏道を歩いていく。
空腹と疲労で何も考えられない。
ただ足を止めることに対する恐怖だけで歩き続ける。

いつの間にか見た事のない景色が広がっていた。
足下には石畳が敷かれ、街中には馬車が走り、歩く人々の姿も洗練されている。

ここに住む人はどうだろう。
余裕のある暮らしをしているならば、無闇に追いかけ回したりはしないのではないだろうか。

結論。
確かに追い回されはしなかった。
だが、どこへ行っても薄汚れた犬っころは邪険にされる。
やれドレスが汚れると追い払われ、やれ卑しい犬がと追い払われ·····。
こちとら魔王なんだぞ、と睨む気力もない。

人目を避けて草木の中を隠れるように歩き続け、ついに力尽きた。

ああ、近くに人の気配がする。

どうせ一度終わった命だ。
2度目が終わっても不思議はないだろう。
もう好きにしてくれ。


そうして俺は、とある貴族幼女に拾われた。
俺の魔王としての活躍は遥か先になりそうだ。
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