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第一章

10 侍女 ト 平民

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仔犬は小さい。
でも私も小さい。

大人ならば両の手で包み込めるような大きさでも幼女の掌からは簡単に零れ落ちてしまう。

うん、ここは大人しく腕の中に抱え込もう。
多少ドレスが汚れるが仕方ない。それこそ汚れてるなら洗えばいいだけの話だ。

「お嬢様、よろしければこちらに」

スっと侍女さんがエプロンドレスの前掛けを広げてくれる。
やだー、この人いい子ー

お言葉に甘えて苦しげに息をするワンコをそっと広げてくれた前掛けに乗せてあげる。

とりあえずお茶会の会場に戻ろう。
何か疲れたなー。
振り返ればただ散歩して犬を拾っただけなんだけどね。


お茶会は相変わらず華やかな空気だ。
挨拶しまくってた当初の盛り上がりはないが、だいたいの参加者が自分の定位置を決めて優雅に談笑している。

私はと言えば弱った小動物を脇に置いて紅茶を楽しむ気にはなれないので、早めに退散させてもらおう。

そうと決まれば主催者であるお母様に一言断りを入れないとね!

くるりと見渡すとお母様は簡単に見つかった。
中央付近の一際華やかな団体の中に鎮座し、扇で口元を隠しながら楽しげに微笑んでいる。

幼女の体格を有効利用して、人々の間をするりと滑りながらお母様の元へたどり着く。

「おかあしゃまー、おさきにおへやにさがってもいーですか?」

言外に「疲れたよー。退屈だよー。」という空気を滲ませてお母様の足元から上目遣いで話しかける。

「あらセレスティア。
そうね、外の風は体に悪いわ。お部屋でお勉強してなさいな」

「はい。
それではみなさま、わたくしは、ここでしちゅれーしましゅ。このあとも、ごゆっくりおくちゅろぎくだしゃい」

軽く腰を下げ、カーテシーで場を辞する。
周囲からは概ね好意的な視線が送られる。
幼女効果すげーな!


しれっと先程ついてきてくれた侍女を伴って邸内へ向かう。
侍女さんは仔犬をエプロンに抱えたまま、そっと後ろからついてきていた。

「あなた、おなまえは?」

「えと、リナ...エリナリーゼと申します。」

侍女さんはエリナリーゼさんと言うらしい。
きっと普段はリナと呼ばれているのだろう。

家名かめーは?」

「その、申し訳ございません。·····実は平民でございます。」

平民かい!
どおりで失言が多いわけだ。

当家は王族との繋がりが非常に強いためか、使用人にも王族に対するルールが適用される。
ざっくり説明すると『貴族家出身の使用人のみ家人に侍る事が許される』というルール。
下働きは平民や奴隷でもいいけど、当主とその家族と言葉を交わす侍女や家令は貴族じゃなきゃダメよって話。

当たり前だけど私自身はメイドさんの出自とか気にしないよ。

「どうしてへーみんのあなたがじじょのふりしてたの?」

「本当に申し訳ございません!!」

「きいただけ。おこってないよ?」

「実はこれが初めてという訳でもなく...
お茶会開催の際に侍女が多いと見栄えがよろしいとの事で、下働きの中でそれらしい器量の者を置いて数を増やしているのです。」

あー、まあよくある事なんだろうね。
ある程度の立場にあると見栄って大事だし。

そう考えると、たまたま私に散策についてくるよう指名されたのがよりによって平民の彼女だったのは不運と言えたかもしれない。
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