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第一章

7 散策 ト 出会

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飽きたー!!

子供ですもの。
大人の噂話とかつまんない。

いや、内容によっては面白いんだけどね?
大体「どこぞの旦那が愛人に入れ込んでるらしい」とか「今シーズンの流行はどこぞの商会のドレス」だとか。

いやー、刺激的な前世を経験しちゃってる身としては社交界の噂程度の娯楽じゃ物足りないのよね。
あ、ウソウソ。前世レベルの刺激的な日常は求めてないから!不労所得ばんざーい!!


という訳で、折角の屋外だものお散歩しましょう。

「ねー、そこのあなた。バラ園をおしゃんぽしたいの。ついてきてちょーだい?」

「かしこまりました」

近くにいた適当な侍女に命じる。
16~17歳くらいかな?大人っぽい顔立ちだけど、20歳には届いてないだろうなーって体つきの子。

本当は1人でうろうろしたいけど4歳の自覚はあるからね。こういうのは保険と思ってついてきてもらおう。

歩き出す私の背後に指名した侍女が控え、それ以外の侍女が3人くらい丁寧に頭を下げて見送ってくれる。
恐らく、あの見送った侍女がお母様付きの侍女に私がお茶会を離れたことを伝達することだろう。マジ優秀。


てってこてってこ...
子供の足って短いし、頭が大きくて重心もふらつく。

かなりゆっくりしか進めないけど、周囲のバラを楽しみながらのんびり歩く。
後ろの侍女さんには子供の歩みに付き合わせて申し訳ない。

でも天気もいいし、色んな種類のバラが咲いてて楽しい。

そうしてしばらく歩いただろうか。
しばらくと言っても子供の足だからね、大した距離ではないんだろうけど。

不意に足元のバラの茂みがガサガサと音を立てる。

「っ!?」

怖っ!!
咄嗟に後ろの侍女さんが私を庇うように前に出てくれる。

身長が低いから足元と顔の距離が近くて本気でビビる。

しかし、ちょっと待っても何も出て来ない。
気のせいだったかな?って侍女さんをみたら彼女も同じような顔でこっちを見ている。

「いま、なにかうごいた?」

「はい、そのように思われますが...」

やっぱり気のせいじゃないよね?って確認して恐る恐るさっきの茂みに近づいてみる。

「お嬢様!危のうございます!!」

「でも、なにかいるならみてみないと」

一番有り得そうで、でも最悪なのは侵入者の可能性だ。
ただの幼女にどうにかできる訳ないし、かといって放置もできない。

「では、私が確認いたします!
お嬢様はお下がりください!!」

侍女さんが覚悟を決めた顔で叫ぶ。

「でも·····」

「お願いします。お嬢様に何かがあっては私も無事ではいられません!」

「あ」

そうだった。
私が怪我でもすれば侍女さんは簡単に謹慎や解雇になってしまう。

最悪、私が誘拐されたり命を落とそうものなら文字通り━━━なんなら一族郎党━━━『処分』されかねない。

でも、普通は嘘でも「お嬢様の安全が最優先です」くらい言うもんじゃない?
この人、結構ぶっちゃけるね。嫌いじゃないよ。

「わかった。おねがいでしゅ」

「感謝いたします」

侍女さんがそろそろと茂みに近づいて、そっと手で掻き分ける。

神様、お願いだから下働きがサボって隠れてただけとかにしてください!!

ギュッと指を組んで祈る。
呼吸も忘れて見ていると

「··········あの、お嬢様」

「··········なに?」

「ちょっと…こちらを…」

なんだろう?
とりあえず危ないものはないのかな?

そろりと掻き分けられた茂みを覗き込むとそこにいたのは小さな仔犬だった。

あー、動物パターンもあったかー。

「お嬢様、どうしましょう····」

だよね。
見たところだいぶ弱っているようで呼吸が浅い。
バラの茂みに入り込んだせいか、他に原因があるのか解らないが体中に細かい傷が無数にある。
パッと見た感じ、生まれたばかりと言われても納得しちゃうくらいに小さいのに骨が浮くほどに痩せている。

まあ、総合して言うと今にも死にそうだ。
やっぱりほっとけないよね。

「とりあえず、つれていきましゅ。
ほっといたら、しんじゃいそう」

「え、助けるんですか?ずいぶん汚れておりますよ?」

うん、まあ貴族のお嬢様は普通、薄汚れた犬は捨て置くよね。

しかし、この侍女さん本当にハッキリ言うね。

「よごれてるなら、あらえばいいじゃない」

これこれ!!一度は言ってみたい憧れのセリフ!
『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』みたいな王侯貴族様なセリフ。
まさかリアルに言える日が来るとは!
たーのしー!!

そんなこんなで私は1匹の弱った仔犬を拾った。
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