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第一章

5 婦人 ト 茶会

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4歳になって許されたことがある。

それがお茶会への参加だ。

「ウォルフレーネ公爵こぉしゃくがむすめ、セレスティアでしゅ。
みなしゃま、ほんじちゅは、ようこそおこしくださゃいました。おたのしみ、いただけたら、うれしーです。」

ちゃんと言えた!
つっこまないで!わかってるから!!
幼児語だけど4歳でこんな口上できたら及第点でしょ。

ちょこんと小首をかしげ笑顔を振りまき、空色のドレスをつまんで幼女カーテシーをキメる。
小さい子の頑張ってる感で全員イチコロだぜ!

 
今日はお茶会の日。

公爵家では定期的にお茶会が開かれる。

まあ、簡単に言ってしまえば男女混合の夜会がコネ作りの場なら噂好きな女性が集まるお茶会は情報収集の場となっている。

高位貴族の邸ではお茶会を開催するのが一般的だ。
開催者側はそれを定期的に催すことによって、参加者の出席率や装飾品や態度などで寄子貴族の忠誠心を測っているようだ。
そして参加者側は前述の通り、情報収集を目的として集まってくる。

もちろん、それだけじゃなくそれぞれに腹に抱え込んだものはあるのだろうがまだ子供だからわかんない。てへ。

今回のお茶会は公爵家の広大な庭園の一角にあるバラ園で行われた。

ガーデンテーブルを並べて、それぞれに小さいながらも座面に綿の入った高級な椅子が置かれている。
用意された紅茶も乾燥したバラの花弁をブレンドしたものでふんわりと上品な香気が漂う。

私はお母様と一緒に各テーブルを訪れ、お茶とお菓子を楽しんでいるご婦人に挨拶してまわる。

「ごきげんよう、フォルクス伯爵夫人。楽しんで頂けて?」

話しかけられた夫人はサッと立ち上がり丁寧なカーテシーで応じる。

「ごきげんよう、ウォルフレーネ公爵夫人。
素晴らしいお茶会にお誘いいただき身に余る光栄にございます。
お茶をごちそうになりましたが、美しいバラを見ながらバラの香りの紅茶をいただけるなんて本当に贅沢ですわ」

「まあ、喜んでいただけて何よりですわ」

フォルクス伯爵夫人、めっちゃ褒めるな。
お母様も満更でもない顔でコロコロ笑ってるし。

「ごきげんよう。公爵家こぉしゃくけのむしゅめの、セレスティアでしゅ。きょうは、おあいできて、うれしいでしゅ」

貴族社会では年齢より家柄が優先される。
たとえ子供と言えど伯爵家の夫人から公爵家の娘に話しかけることはできないため、多少強引でもこちらから挨拶をしないといけない。

「ごきげんよう、セレスティア様。
聞いていたお噂以上に聡明なお嬢様でいらっしゃいますのね。ワタクシもお会いできて嬉しいですわ」

私のことも褒めてくれる。
8割方ゴマすりみたいなものなんだろうけど、お母様はご機嫌だ。
口元が緩んでいるのを扇で隠して挨拶まわりを再開する。


だいたいのテーブルで似たようなやり取りを繰り返し、お母様はご満悦だけど私は疲れた。
そこそこ規模の大きい公爵家のお茶会で会う人みんなに挨拶するだけでも億劫なのにゴマすりを笑顔で受け止めなきゃなんないのホント疲れる。

デビュタントしたら参加する事になる夜会なんてこんなもんじゃないんだろうなーって、ニコニコ微笑みながら心はげんなりしてた。
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