20 / 20
世直し聖女誕生編
第20話 聖女任命式
しおりを挟む
――マギアス様に案内されたのは、女官たちの居住区の手前にある一室だった。調度品などはない簡素だけど家具は一流の物が置かれている部屋だ。
マギアス様は私達に待つように言うと部屋には聖女候補三人だけになった。椅子とテーブルがあるので取り敢えず腰掛けて暫く沈黙。私はシリエルリカに話し掛けてみる。
「先程から顔色が優れませんが、どうされました?」
「い、いえ、大丈夫です……」
シリエルリカは俯いて座っている。元々大人しそうな娘という印象だけど、かなり不安そうだ。そこはかとなく気不味い空気の中、扉がノックされて返事をするとマギアス様が再び入ってきた。
「早速ですが、任命式は三日後と決まりました。お三方には今日よりこの大聖堂奥の院の聖女の間で過ごして頂きます」
「本当に早速ですね」
別に実家に居るのは好きじゃないので私としては願ったりだけど、着替えも何も持ってきて無いなと思い出す。
「はい、御準備はなされていないとお見受けしますので、それぞれの御家にはお伝えしています。本日中には皆様のお荷物が届くでしょう」
「お気遣い、有難うございます。マギアス神官長様」
ミーナセインはマギアス様を神官長と呼んだ。この前まで副神官長だったと思ったけど。
「マギアス様、神官長になられたのですか?」
私は単刀直入に聞いた。
「……はい。前任の方が退任されましたので私が拝命しました。聖女の皆様は何かありましたら私に遠慮なく仰って下さい」
(マギアス様まだ二〇そこそこで神官長か……前任の人はこの前の件で何かあったのかしら?)
まあ、大聖堂の内部人事とか別に興味無いから別にいいけれど。
「お三方にはそれぞれ個室を用意させていますので、もう暫くここでお待ち下さい。何かありましたら扉の外に女官が控えております」
そういうとマギアス様は退室していった。
「ふう、まあ実家に帰らなくていいのは良いけど、いつまでも正装は肩が凝りません? 早く着替えが届くといいけれど」
私はこれから共に暮す事になる二人と打ち解けようと少し砕けた態度を取ってみた。私は椅子に腰掛けて肘をついて溜息をついた。その様子にミーナセインもシリエルリカも面を食らった様に目を丸くしている。
「……ヴェルメリアさん?」
ミーナセインは怪訝そうに私を見つめる。
「あ、ごめんね。生まれは帝都だけど、田舎育ちで普段はこんな口調なのよね」
「そ、そう……なのですね」
ミーナセインは顔を引きつらせて苦笑いしている。シリエルリカは口を開けて驚きながら私をじっと見つめていた。
「え……っと、シリエルリカさん?」
「ヴェルメリアさん、凄いです!」
「は?」
「私そんな風に平民の様に砕けた口調のご令嬢初めてお会いしました、格好いいです!」
下品だと引かれる事はよくあるけれど、こういう反応は初めてだったので私の方が驚いてしまった。
「そ、そう?」
「はい、私にはとてもではありませんが出来ませんので……尊敬します!」
(それって貴族流の遠回し嫌味じゃないよね?)
この娘はそういう事はしなさそうな印象だけど、まあ取り敢えずは様子見しようと思った。
――その後はそれぞれ別々の個室に案内され、翌日には取り敢えずの荷物も届いて任命式までの三日間が過ぎた。
任命式は大聖堂の二階中央にある大講堂で執り行われた。聖女三人はそれぞれに生成り色を基調とした古風でシンプルなデザインの長衣を纏っている。始祖皇帝と共にあった聖女の着ていた物を模しているらしい。
総神官長を中心に大神官が並び、大勢の神官や女官達が祝福の神聖魔法を歌うように節をつけて唱えている。そんな感じで、儀式は執り行われた。
私達にはそれぞれ色の違う肩掛けが与えられた。シリエルリカには青、ミーナセインには白、そして私には赤の肩掛けだ。
これは古い書物に書かれていた、かつて存在した二つ名を持つ聖女に由来する……らしい。
(……ま、よく知らないけどね)
「今より……シリエルリカ殿は”青の聖女”、ミーナセイン殿は”白の聖女“、ヴェルメリア殿は”赤の聖女”となり……帝国の普く臣民に慈愛の女神の慈悲と祈りを届けてくれる事を願います」
総神官長の言葉に私達は打ち合わせ通りに「承りました」と答えた。そして、脇に控えておられた皇太子殿下が歩み出られ、私達は向き直る。
「帝国は其方達を聖女と認める。聖女として帝国に尽くしてくれる事を切に願う」
「微力を尽くします」
三人とも打ち合わせ通り皇太子殿下の前に跪き、両掌を組み合わせて深々と頭を下げた。
――とまあ、こんなことがあって……私は聖女として正式に認められ、現在に至るってわけね。この裏には色んな事があったらしいけど、それはまた別の話。
「世直し聖女誕生編」終
マギアス様は私達に待つように言うと部屋には聖女候補三人だけになった。椅子とテーブルがあるので取り敢えず腰掛けて暫く沈黙。私はシリエルリカに話し掛けてみる。
「先程から顔色が優れませんが、どうされました?」
「い、いえ、大丈夫です……」
シリエルリカは俯いて座っている。元々大人しそうな娘という印象だけど、かなり不安そうだ。そこはかとなく気不味い空気の中、扉がノックされて返事をするとマギアス様が再び入ってきた。
「早速ですが、任命式は三日後と決まりました。お三方には今日よりこの大聖堂奥の院の聖女の間で過ごして頂きます」
「本当に早速ですね」
別に実家に居るのは好きじゃないので私としては願ったりだけど、着替えも何も持ってきて無いなと思い出す。
「はい、御準備はなされていないとお見受けしますので、それぞれの御家にはお伝えしています。本日中には皆様のお荷物が届くでしょう」
「お気遣い、有難うございます。マギアス神官長様」
ミーナセインはマギアス様を神官長と呼んだ。この前まで副神官長だったと思ったけど。
「マギアス様、神官長になられたのですか?」
私は単刀直入に聞いた。
「……はい。前任の方が退任されましたので私が拝命しました。聖女の皆様は何かありましたら私に遠慮なく仰って下さい」
(マギアス様まだ二〇そこそこで神官長か……前任の人はこの前の件で何かあったのかしら?)
まあ、大聖堂の内部人事とか別に興味無いから別にいいけれど。
「お三方にはそれぞれ個室を用意させていますので、もう暫くここでお待ち下さい。何かありましたら扉の外に女官が控えております」
そういうとマギアス様は退室していった。
「ふう、まあ実家に帰らなくていいのは良いけど、いつまでも正装は肩が凝りません? 早く着替えが届くといいけれど」
私はこれから共に暮す事になる二人と打ち解けようと少し砕けた態度を取ってみた。私は椅子に腰掛けて肘をついて溜息をついた。その様子にミーナセインもシリエルリカも面を食らった様に目を丸くしている。
「……ヴェルメリアさん?」
ミーナセインは怪訝そうに私を見つめる。
「あ、ごめんね。生まれは帝都だけど、田舎育ちで普段はこんな口調なのよね」
「そ、そう……なのですね」
ミーナセインは顔を引きつらせて苦笑いしている。シリエルリカは口を開けて驚きながら私をじっと見つめていた。
「え……っと、シリエルリカさん?」
「ヴェルメリアさん、凄いです!」
「は?」
「私そんな風に平民の様に砕けた口調のご令嬢初めてお会いしました、格好いいです!」
下品だと引かれる事はよくあるけれど、こういう反応は初めてだったので私の方が驚いてしまった。
「そ、そう?」
「はい、私にはとてもではありませんが出来ませんので……尊敬します!」
(それって貴族流の遠回し嫌味じゃないよね?)
この娘はそういう事はしなさそうな印象だけど、まあ取り敢えずは様子見しようと思った。
――その後はそれぞれ別々の個室に案内され、翌日には取り敢えずの荷物も届いて任命式までの三日間が過ぎた。
任命式は大聖堂の二階中央にある大講堂で執り行われた。聖女三人はそれぞれに生成り色を基調とした古風でシンプルなデザインの長衣を纏っている。始祖皇帝と共にあった聖女の着ていた物を模しているらしい。
総神官長を中心に大神官が並び、大勢の神官や女官達が祝福の神聖魔法を歌うように節をつけて唱えている。そんな感じで、儀式は執り行われた。
私達にはそれぞれ色の違う肩掛けが与えられた。シリエルリカには青、ミーナセインには白、そして私には赤の肩掛けだ。
これは古い書物に書かれていた、かつて存在した二つ名を持つ聖女に由来する……らしい。
(……ま、よく知らないけどね)
「今より……シリエルリカ殿は”青の聖女”、ミーナセイン殿は”白の聖女“、ヴェルメリア殿は”赤の聖女”となり……帝国の普く臣民に慈愛の女神の慈悲と祈りを届けてくれる事を願います」
総神官長の言葉に私達は打ち合わせ通りに「承りました」と答えた。そして、脇に控えておられた皇太子殿下が歩み出られ、私達は向き直る。
「帝国は其方達を聖女と認める。聖女として帝国に尽くしてくれる事を切に願う」
「微力を尽くします」
三人とも打ち合わせ通り皇太子殿下の前に跪き、両掌を組み合わせて深々と頭を下げた。
――とまあ、こんなことがあって……私は聖女として正式に認められ、現在に至るってわけね。この裏には色んな事があったらしいけど、それはまた別の話。
「世直し聖女誕生編」終
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる