57 / 67
鍵と記憶と受付嬢
第2話
しおりを挟む「坊やは今日は休みなんだったか?」
「はい。昨晩から北の大陸に出向いていると」
「入れ違いだったかぁ…」
シュウはタバコの煙を吹かしながら、王都の中心街を練り歩いた。何かシルヴィアの記憶に引っかかる物を探したが、今のところ特に彼女が反応を示した物はない。
どうしたものかとシルヴィアに視線を向けた所で、シュウの目にある物が映った。
「嬢ちゃん、そいつは何の鍵だ?」
尋ねられたシルヴィアは、首からぶら下がる鍵を手に取って少しの間考え込んだ。つい先日、ロザリオがこの鍵に変わっていたのだ。
「…わかりません。気づいたらありました」
「家の鍵が何かかもな。そういや、前の家は覚えてるか?」
「前の家とは?」
「お嬢と…グレイが育った家だ。王都から南に行った村の外れにあるんだが、まだそこには行ってなさそうだな」
「マスターは、昔から私と一緒にいたのですか?」
「確か5歳くらいの時からって聞いてる。とりあえず家に行ってみるか」
「わかりました」
シルヴィアは鍵を一瞥し、シュウの後をついて行った。
「嬢ちゃんの両親とは、若い頃にパーティーを組んでたんだ」
家に向かう途中の馬車で、シュウは不意に思い出したかのように口を開いた。それに少し興味を示したシルヴィアに、シュウは小さく笑って話を続ける。
「随分やんちゃしたもんだ。でもまぁ2人が結婚して嬢ちゃんが産まれてからは、あまり冒険者としても活動してなかったらしい」
「そうだったのですか。私の両親は、今どちらに?」
「…2年前に消息を絶ったとグレイからは聞いてる。多分あの魔物の大氾濫が原因だろうな」
「そうですか」
自分の両親の事など何も覚えていないシルヴィアは、それ以上何も言わずにそっと目を閉じた。
小さな森の前で馬車は停まり、2人は森の中を進んでいく。鳥の鳴き声や水の流れる音を耳にして、シルヴィアは目に映る光景に何処か既視感があるような気がしていた。
しばらく森の中を歩けば、木のない拓けた場所に辿り着いた。少し先には小さな家があるが、長年手入れがされていないのか草が生茂り、家も随分古びているようだった。
「懐かしいなぁ…よく嬢ちゃんの父さんに誘われて一緒にここで酒を飲んだもんだ。嬢ちゃんと坊やは庭でよく走り回ってたぜ」
シュウの昔話を聴きながら、シルヴィアは家の周りをゆっくり歩いた。庭には小さなベンチや椅子が置かれ、裏手の倉庫には農具などがしまわれていた。どれも錆びているものばかりで、使えそうにはなかった。
「どうだい?何か思い出せそうか?」
「…すみません、特にピンとくるものはないようです」
「そうか。とりあえず、家の掃除ついでに入ってみるか」
シルヴィアは試しに例の鍵を玄関扉に差してみたが、鍵が違うのか刺さらなかった。諦めて戸を引けば鍵はかかっておらず、シルヴィアはそっと中に足を踏み入れた。
(ここが…私の家)
ギシリと音を立てながら床を進み、シルヴィアはその場の空気を肌で感じていた。初めて見るはずの景色なのに、自然と体に馴染んでいくような心安らぐ空気。
リビングの造りや家具、並べられた小物が何か頭に訴えかけているような錯覚を感じた。それが何かわからず足を進めると、壁一面に本がビッシリ並べられた部屋に着いた。きっと誰かの書斎だろうと思い部屋を散策すると、部屋の奥にある机に目が留まった。
(位置が変ですね)
変に斜めに置かれた机が気になり、直そうとした所で、机の引き出しに鍵穴がある事に気がついた。まさかと思い首にかけられた鍵を差し込むと、カチリという音がして引き出しが開いた。
0
お気に入りに追加
2,048
あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる