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逸れ者と受付嬢
第5話
しおりを挟む森に入ってから1時間が経った所で、シルヴィアは突然その足を止めた。何かと思いクロカが視線を向ければ、彼女はボーッと隣の木を眺めている。
「どうした?」
「…やはり、先程からずっと同じ場所を歩いています。この木はもう何回か見ました」
「……は?」
言われてクロカは近くの木を眺めたが、どれも同じ模様に見えて区別がつかない。
「全然わからないんだけど」
「間違いありません。おそらく、私達はこの森の魔力に呑まれてしまったのかと」
「魔力?」
クロカはそっと撫でるように手を宙に伸ばしたが、魔力が漂っているようには思えない。だがここから離れた何処かに、不思議な魔力が集まっているのは何となくわかっていた。
「手分けして巫女の方を探しましょう。私は東から行くので、クロカ様は西からお願いします」
「…わかった」
宣言通りシルヴィアは東側へと歩いて行き、クロカはそれを見届けると反対側へと歩いて行った。
森を歩きながら、クロカは願い事について考えていた。始めから願い事は決まっているのだが、いざそれが叶うとなると少しばかり複雑で、緊張してしまう。
頭によぎるのは、自分とは違う雪のように透き通る白い肌の美しい女性。その人はいつも、自分には勿体ないくらいの笑顔を向けてくれていたー。
『おはよう、クロカ』
「はぁ……怒られそうだな」
会いたい人を思い浮かべて、クロカは重たい溜息を漏らした。
一方東側では、シルヴィアが手をハンマー状に変え、樹々をなぎ倒しながら歩いていた。無表情で樹をなぎ倒していく様は少し不気味だが、倒れた木は蜃気楼のように消えていき、すぐにまた別の場所に新しい樹が生えていく。
(面倒ですね…)
もう何本倒したかわからず、シルヴィアは鞄を下ろして右手を元に戻した。そして再び魔力を流し、今度は右手を巨大な剣へと変えていく。剣は並大抵の長さに留まらず、3m程まで伸びていった。
「…いきます」
『チュウ!』
足に力を入れて体の軸を意識し、そのまま剣を振り回そうとした。だが腕を振る直前、足元からネズミのような鳴き声がしてシルヴィアはピタリと止まり視線を下に向けた。見れば、小さな狐が慌てた様子で足にしがみ付いている。
「私に何か用ですか?」
『チュウ』
シルヴィアは手を元に戻してしゃがみ、狐をそっと腕の中に抱えた。狐は安心したような表情を浮かべたが、すぐにハッとなって森の奥を指さした。
「向こうに行けと…?」
狐は首を縦に振り、シルヴィアはカバンを持って狐の指示する方へと歩いていった。
狐と歩き始めてから数十分ほどで、シルヴィアは少し拓けた場所に出た。そこだけ樹がなく、代わりに何種類もの花たちが綺麗に咲き誇っている。
そし中心には木の幹があり、その上で1人の女性が木漏れ日を浴びながら気持ちよさそうに眠っていた。腕の中にいたはずの狐もいつの間にか消えており、シルヴィアは花の道を進んで女性の側に近づいく。
「………ん、誰ずら?」
「シルヴィアです」
女性はシルヴィアの気配に気がつくと、ゆっくり起き上がってトロンとした瞳を向けた。女性の頭には狐のような獣の耳があり、腰の下にはフワフワの尻尾まで付いている。その顔には、どこか見覚えがあった。
「あ…この前ギルドにいた受付嬢さん…?」
「はい。お久しぶりです、ネムリ様」
小さくお辞儀をするシルヴィアを見て、森の泉の巫女兼、夢の聖ネムリ・ドリーミアは大きな欠伸を漏らした。
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