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逸れ者と受付嬢
第3話
しおりを挟むシルヴィアは王都北門付近で馬車に乗り、クロカは何も言わずに後に続いた。終始黙っているシルヴィアに少し不信感を覚えるが、一応ギルドの職員でもあるのでまだ口は挟まないでおく。
シルヴィアは荷台に後付けされたベンチに座り、クロカは向かいに座った。会った時から無表情すぎて、目の前の人間が生きた人形の様に思えてしまう。決して口には出さないが。
「…なぁ」
「何でしょうか」
声をかけても向けられるのは愛想の良い笑みではなく、光のない虹彩が左右非対称の瞳だけだ。
「その、なんで急に依頼を受けたんだ?」
クロカがずっと気になっていた事を聞けば、シルヴィアは少し考え込む様なそぶりを見せて口を開いた。
「私の同りょ…友人が、仕事中に冒険者を待つあなたが視界に入って、集中出来ないとの事でしたので」
「わ、悪かったな!」
「いえ。悪くはありません」
少し頬を染めて声を張るクロカに、シルヴィアは小さくかぶりを振った。
「それで、どこに向かってるんだよ。泉の検討はついてるのか?」
「今日はこの先にある、ロストの森に行きます。そこが違う様でしたら、また別の森に行きます。期日は今日から1週間なので、最終日までに見つけられるよう努めます」
クロカの依頼した生命の泉とは、ここ数年で噂になっている場所だった。泉を訪れた者曰く、ある森の中心に綺麗な泉があり、その側には森の遣いのような巫女がいるとか。そして巫女に会えた者は、どんな願いでも1つ叶えてくれるそうだ。
そこから少し沈黙が続いたが、それを破るようにシルヴィアが口を開いた。
「…1つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「なに」
「何をお願いするのですか?」
クロカは真顔のシルヴィアを見て躊躇ったが、少し顔を伏せて膝の上に置いた手をギュッと握った。
「…笑わない?」
「私は笑った事がありません」
「何だよそれ…まぁいいや。願いは、人を探して欲しいんだ」
「どなたですか?」
「私の…多分、友達」
「そうですか」
すぐに興味を失ったのか、会話は途切れ2人は馬車に揺られながら森へと向かった。
森の入り口付近の草原で、シルヴィアは右手の手袋を鞄にしまった。その歪な腕にクロカは少し驚くが、すぐに視線を外して視界に映らないようにした。人の過去に何があっても、別段おかしいわけではない。
「…それ、何するつもりなの?」
森を眺めながら問われ、シルヴィアは右手を地面に突き刺した。
「水源を探ります。もし泉の様なものがあれば、今度はその近くにいる巫女の魔力を探ります」
「…そうか」
数分後、シルヴィアは腕を戻し手袋を再び付けた。そして何も言うことなく森を離れて行き、クロカは『ハズレだったのか』と判断しその後をついて行った。
シルヴィアが依頼を受けてから4日後、まだ冒険者や受付嬢の姿がない早朝のギルドで、グレイは頬を引きつらせて目の前の女性を眺めていた。
「あのー…シルヴィアさん?」
「………………」
「シルヴィア」
「あ…マスター。どうなさいました?」
少し大きめの声で呼び掛ければ、ようやくその手を止めて顔を上げた。彼女の手にはティースプーンが握られている。
「それ、塩なんだけど」
「…え」
シルヴィアはスプーンに乗った白い粉を見つめて固まり、少しだけ舐めて小さく目を瞑った。どうやら予想以上に辛かったらしい。
「申し訳ありません。今すぐ新しいコーヒーを淹れてきます」
「いや、まぁいいよ。それより何か疲れてる?」
グレイは塩気たっぷりのコーヒーに口をつけ、若干顔をしかめながら尋ねた。聞かれた本人は紅茶を飲むと、カップを持ちながら小さく口を開いた。
「…少し、依頼が難しいと感じています」
「なるほどね。どんな依頼?」
「生命の泉の巫女を探す依頼です」
「あー、あれか。そりゃ見つけるのは難しいだろうな」
まるで森の場所を知ってるような口ぶりに、シルヴィアは少しだけ目を見開いた。
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