Sランク冒険者の受付嬢

おすし

文字の大きさ
上 下
41 / 67
綺麗な土と水に美しい花

第9話

しおりを挟む

 揺れに気付いたシルヴィアは、すぐに右手を掲げてありったけの魔力を流した。すると、五本の指から小さな種子が飛び出し、大陸中の建物へと降り注いでいく。

保護種シード・プロテクト

 種は建物に落ちた瞬間、弾けて外壁へと蔦を這わせていった。蔦は土の外壁を潜り込み、内壁との間に伸びて骨格をより強固な物へとしていく。
 それと同時に大陸も大きく揺れ始め、2人は姿勢を低くした。

「そんな…!なんでまたっ?!」

 ソイルは天災の再来に顔を歪ませたが、辺りの建物には既に蔦が張り巡らされ、前回の様に崩れた建物はほぼ皆無だった。
 
「…なんとか、倒壊は防げましたね」

 シルヴィアは安心した様に呟いたが、その隣でソイルは遠くを見つめて顔を真っ青にしていた。

「どうかしましたか?」

「…違う」

「え?」

 声が小さくシルヴィアは聞き返したが、ソイルはそれに気づく事なく全身を砂状にして、彼女を残して1人空をサラリと飛んでいった。



 アクアは起き上がり、周りを見て混乱した。突然の揺れに耐えきれず、倒れて立ち上がったと思ったら、建物全てに謎の蔦が這わされている。
 訳の分からない状況に困惑していると、『アクア様』と言う声がした。振り返れば、銀髪の女性がこんな状況にも関わらず、いつもの無表情で駆け寄ってきた。

「ご無事ですか?」

 なんだか自分だけ慌てているのが恥ずかしくなり、アクアは咳払いをして平静を装った。正直初めて経験した地震に怖くてたまらないが、こんな所で立ち止まっている場合ではない。

「だ、大丈夫に決まってるでしょ!それよりこの蔦、全部あんたがやったの?」

「はい。皆様が懸命に修復したものを、簡単に壊されるわけにはいきませんので」

「…そう」

 ほっと一息ついたアクアの向かいで、シルヴィアは何やら考え込むような素振りを見せた。

「何、どうしたの?」

「…少々お待ち下さい」

 そう言うとシルヴィアは魔義眼に魔力を流し、ソイルの向かった方向に目を凝らした。流した魔力の分だけ遠くを見通す事が可能で、彼女は義眼に映った景色を見て息を呑んだ。

「…このままだと、蔦を這わせた意味がなくなってしまいます」

「は?」

が、こちらに向かっています」

「波?」

 アクアは何を言っているのか分からず眉を潜めたが、シルヴィアは今から何が出来るかを考えた。そして1つ案を思いつき、アクアに視線を向ける。

「…アクア様、1つ確認してもよろしいですか?」

「何よ」

「魔法で水を操る事は可能でしょうか?」

 こんな時になんだと思ったが、アクアは小さく頷いた。それを確認するなり、シルヴィアは右手の蔦を伸ばしてアクアのお腹に結びつけた。

「何してんの?!」

「しっかり捕まっていて下さい。飛ばしますので」

「は?!何を?!」

 シルヴィアはアクアを脇に抱え、近くの両脇の樹に蔦を結びつけてピンと張らせた。そして張った蔦に背中からよりかかり、少しずつ後ろへ歩いていく。名付けるなら『人間スリングショット』かもしれないが、アクアは彼女がこれからする事に気付き、血の気が引くのを感じた。

「あんたまさか…飛ぶってそういう事?!」

「…時間がありませんので、お許しください」

「ちょっ…!私、高いところは苦手ー」

「行きます」

「人の話を聞きなさあぁぁぁ…………」

 慌てふためくアクアを無視して、シルヴィアは限界まで下がった所で地面から足を離した。瞬間、張り詰めた蔦は2人を空高くへと弾き飛ばした。



 砂浜に立ち、ソイルは遠くに見える波を見て戦慄した。1週間前の地震は大陸を中心に起きたので津波の心配はなかったが、先程のは違った。
 どこか揺れが前回より小さいと思ったが、それは海の方で発生したせいだった。そのため建物などに被害はなかったが、問題は海底で起きた事だ。ソイルの視線の先には、確実に波がこちらへと向かってきている。到達するのも時間の問題だろう。

(防波堤は…ダメだ、高さが足りない!)

 ソイルの視線の先には、砂浜から少しした所に防波堤があるが、明らかに高さが足りない。国の衛兵達は大陸内部の対応で殆どが出払っており、今すぐに防波堤の高さを上げる事は出来ない。
 そう、普通のドワーフだったらー。


『姉ちゃんを…頼む…!』


「…やるしかない」

 の言葉を思い出し、ソイルは海へと入って行った。防波堤は海中にあるため、辿り着くには海を歩くしかない。
 自身を構成する下半身の土が、じわじわと海の中に溶けていくが、そんなのお構いなしに目当ての防波堤に手をつける。

大地壁アース・ウォール!」

 ソイルが魔力を流した瞬間、防波堤は少しずつ高さを増して行った。

 ソイルは…防波堤にしがみつく彼は、創作者本物のソイルが創り出した土人形だったー。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...