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綺麗な土と水に美しい花
第9話
しおりを挟む揺れに気付いたシルヴィアは、すぐに右手を掲げてありったけの魔力を流した。すると、五本の指から小さな種子が飛び出し、大陸中の建物へと降り注いでいく。
「保護種」
種は建物に落ちた瞬間、弾けて外壁へと蔦を這わせていった。蔦は土の外壁を潜り込み、内壁との間に伸びて骨格をより強固な物へとしていく。
それと同時に大陸も大きく揺れ始め、2人は姿勢を低くした。
「そんな…!なんでまたっ?!」
ソイルは天災の再来に顔を歪ませたが、辺りの建物には既に蔦が張り巡らされ、前回の様に崩れた建物はほぼ皆無だった。
「…なんとか、倒壊は防げましたね」
シルヴィアは安心した様に呟いたが、その隣でソイルは遠くを見つめて顔を真っ青にしていた。
「どうかしましたか?」
「…違う」
「え?」
声が小さくシルヴィアは聞き返したが、ソイルはそれに気づく事なく全身を砂状にして、彼女を残して1人空をサラリと飛んでいった。
アクアは起き上がり、周りを見て混乱した。突然の揺れに耐えきれず、倒れて立ち上がったと思ったら、建物全てに謎の蔦が這わされている。
訳の分からない状況に困惑していると、『アクア様』と言う声がした。振り返れば、銀髪の女性がこんな状況にも関わらず、いつもの無表情で駆け寄ってきた。
「ご無事ですか?」
なんだか自分だけ慌てているのが恥ずかしくなり、アクアは咳払いをして平静を装った。正直初めて経験した地震に怖くてたまらないが、こんな所で立ち止まっている場合ではない。
「だ、大丈夫に決まってるでしょ!それよりこの蔦、全部あんたがやったの?」
「はい。皆様が懸命に修復したものを、簡単に壊されるわけにはいきませんので」
「…そう」
ほっと一息ついたアクアの向かいで、シルヴィアは何やら考え込むような素振りを見せた。
「何、どうしたの?」
「…少々お待ち下さい」
そう言うとシルヴィアは魔義眼に魔力を流し、ソイルの向かった方向に目を凝らした。流した魔力の分だけ遠くを見通す事が可能で、彼女は義眼に映った景色を見て息を呑んだ。
「…このままだと、蔦を這わせた意味がなくなってしまいます」
「は?」
「波が、こちらに向かっています」
「波?」
アクアは何を言っているのか分からず眉を潜めたが、シルヴィアは今から何が出来るかを考えた。そして1つ案を思いつき、アクアに視線を向ける。
「…アクア様、1つ確認してもよろしいですか?」
「何よ」
「魔法で水を操る事は可能でしょうか?」
こんな時になんだと思ったが、アクアは小さく頷いた。それを確認するなり、シルヴィアは右手の蔦を伸ばしてアクアのお腹に結びつけた。
「何してんの?!」
「しっかり捕まっていて下さい。飛ばしますので」
「は?!何を?!」
シルヴィアはアクアを脇に抱え、近くの両脇の樹に蔦を結びつけてピンと張らせた。そして張った蔦に背中からよりかかり、少しずつ後ろへ歩いていく。名付けるなら『人間スリングショット』かもしれないが、アクアは彼女がこれからする事に気付き、血の気が引くのを感じた。
「あんたまさか…飛ぶってそういう事?!」
「…時間がありませんので、お許しください」
「ちょっ…!私、高いところは苦手ー」
「行きます」
「人の話を聞きなさあぁぁぁ…………」
慌てふためくアクアを無視して、シルヴィアは限界まで下がった所で地面から足を離した。瞬間、張り詰めた蔦は2人を空高くへと弾き飛ばした。
砂浜に立ち、ソイルは遠くに見える波を見て戦慄した。1週間前の地震は大陸を中心に起きたので津波の心配はなかったが、先程のは違った。
どこか揺れが前回より小さいと思ったが、それは海の方で発生したせいだった。そのため建物などに被害はなかったが、問題は海底で起きた事だ。ソイルの視線の先には、確実に波がこちらへと向かってきている。到達するのも時間の問題だろう。
(防波堤は…ダメだ、高さが足りない!)
ソイルの視線の先には、砂浜から少しした所に防波堤があるが、明らかに高さが足りない。国の衛兵達は大陸内部の対応で殆どが出払っており、今すぐに防波堤の高さを上げる事は出来ない。
そう、普通のドワーフだったらー。
『姉ちゃんを…頼む…!』
「…やるしかない」
創作者の言葉を思い出し、ソイルは海へと入って行った。防波堤は海中にあるため、辿り着くには海を歩くしかない。
自身を構成する下半身の土が、じわじわと海の中に溶けていくが、そんなのお構いなしに目当ての防波堤に手をつける。
「大地壁!」
ソイルが魔力を流した瞬間、防波堤は少しずつ高さを増して行った。
ソイルは…防波堤にしがみつく彼は、創作者が創り出した土人形だったー。
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