Sランク冒険者の受付嬢

おすし

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綺麗な土と水に美しい花

第8話

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 作業場につき、シルヴィアは辺りを見回した。明かりのないせいでかなり暗く、魔義眼に魔力を流してソイルを探す。
 すぐに隅の方に座っている姿を見つけ、シルヴィアは目の前にしゃがんだ。寝ているのか、俯いておりシルヴィアに気付く様子はない。

「こんばんは」

 試しに呼びかけても、やはりソイルの反応はない。今度は少しだけ声を大きくして呼びかければ、ようやくソイルは目を覚ました。

「……あ、すみません!俺寝ちゃってて!」

「お休みのところ申し訳ありません。こちらをエルマ様から預かっています」

 渡された小包の中を見て、ソイルは顔を綻ばせた。そして座って小包を自身の隣に置き、シルヴィアに笑みを向けた。

「ありがとうございます。わざわざ届けてくれて」

「問題ありません」

 会話はそこで終わったように思えたが、シルヴィアはその場を離れようとしなかった。薄暗い作業場に佇むシルヴィアを見て、ソイルの笑顔が困ったような表情に変わる。

「あの…どうかしました?帰らなくていいんですか?」

「はい。それより、?」

 その言葉に、ソイルはビクッと震えて言葉を詰まらせた。そして諦めたようにため息をつくと、左手で包みを持って立ち上がった。右手は半分ほど無くなっており、今も少しずつ砂となって宙に消えていっている。

「…いつから、気付いてたんですか?」

「最初にお会いした時です」

「そんなに前から…?!」

「はい。上手く隠しているようでしたが、何か質の違う魔力が2つ感じられたので

 ソイルは驚いてシルヴィアの顔を見たが、彼女が嘘をついているようには見えなかった。
 暫し悩んだあと、ソイルは深々と頭を下げた。その体は不安からか少し震えている。

「お願いします…姉ちゃんには、黙っておいてくれませんか?」

 シルヴィアの返事はない。おそらく、彼女もソイルと同じように悩み考えているのだろう。だが少ししてソイルが顔を上げれば、シルヴィアは小さく口を開いた。

「わかりました」

「え?いいんですか…?」
 
 確認するように尋ねれば、先程から変わらない表情で頷く。

「私が他人の事情を好き勝手に言う権利はありませんので」

「ありがとうございます…!」

「いえ。ですがー」

 シルヴィアは言葉を続けようとしたが、何かを感じて突然しゃがみこんだ。そして手袋を外し、右手で地面に触れる。
 突然の行動に、ソイルはただ驚く事しか出来ず固まった。少し遅れて、彼女の特殊な腕に驚く。

「あの、何を…?」

「…今すぐ、安全な場所に避難してください」

 シルヴィアが真剣な眼差しで呟いた瞬間、大陸が小さく揺れ始めた。



 束の間の眠りから目覚めたアクアは、小さく欠伸をしながらベンチに座りなおした。ずっと忘れていたものを思い出して気分が悪いが、久しぶりに寝られたので体は軽かった。
 そのまま座ってボーッとしていると、近くを通りかかった親子の子供の方がアクアに気付き、笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。

「いた!お姉ちゃん!」

「え…?」

 面識のない子供に突然迫られアクアは身構えたが、少女は構わずポケットから飴玉を取り出してアクアに手渡した。

「これあげる!」

「あ、ありがとう…」

 混乱するアクアをよそに、父親もカバンから小さな袋を出してアクアに渡した。中には土で出来たウサギの置物が入っており、アクアは何故貰えたのかわからず余計混乱する。

「突然すみません。少し前にお連れの受付嬢の方にも会ったんですけど、その方に直接渡した方が良いと言われまして。ここ数日、作業を手伝ってくれたお礼です」

「あ…」

 そこでようやく、アクアは父親が作業場にいたのを思い出した。そんな父親は辺りを見回して頰を緩ませた。どの家にも明かりが灯り、小さな笑い声や楽しそうな声が聞こえてくる。

「1週間ほど前は悲惨な状況でしたが、あなた達のお力添えもありかなり復興が進みました。本当に、ありがとうございました」

「そんな…。私は別に、何も…」

「何もなんて事ないですよ。還土作業に水は必要不可欠ですが、ドワーフ族僕達は水魔法の適性がありませんから大助かりでした」

 恐縮して縮こまるアクアの隣に、娘は目を輝かせて勢いよく座った。そして輝く目をアクアに向けた。

「私も見たよ!お姉ちゃん、水を出しながら走っててすごいカッコよかった!」

「私が?」

「うん!いいなぁ~私は水が出せないから、羨ましい」

「私が、カッコいい…」

 初めて言われたその言葉をどう解釈すれば良いか悩んだが、目の前の少女の笑顔を見て素直に受け止めておく事にした。

「こちらこそ、ありがとね」

 礼を言って頭を撫でれば、少女は大きく頷いて花のような笑顔を咲かせた。

 親子は家へと帰っていき、アクアは貰った飴玉と置物を眺めた。他人から感謝された事など、アクアの記憶には殆ど無かった。
 自分を見つけてくれた人のために、誰からも馬鹿にされないくらい強くなるために、今までの努力は無駄じゃなかったと確認するためだけに討伐依頼をこなしてきた。故に孤独だったが、それでも構わないと思っていた。

 はずだったー。

「あれ…?」

 気づけば視界がぼやけ、大粒の雫がアクアの頰を濡らしていた。何が起きたのか一瞬わからなかったが、すぐに自分が泣いているのだと察する。
 アクアは貰った物を胸に抱き、嗚咽を漏らした。今にも声を上げて泣きたかったが、まだ早い。アクアには、まだやり残した事がいくつかあった。

「…よし」

 ゴシゴシと袖で涙をぬぐい、すぐに帰ろうとした。だが突然地面が小さく揺れ始め、何処かで大きな爆発音がした瞬間、アクアは地面に倒れていた。
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