Sランク冒険者の受付嬢

おすし

文字の大きさ
上 下
40 / 67
綺麗な土と水に美しい花

第8話

しおりを挟む

 作業場につき、シルヴィアは辺りを見回した。明かりのないせいでかなり暗く、魔義眼に魔力を流してソイルを探す。
 すぐに隅の方に座っている姿を見つけ、シルヴィアは目の前にしゃがんだ。寝ているのか、俯いておりシルヴィアに気付く様子はない。

「こんばんは」

 試しに呼びかけても、やはりソイルの反応はない。今度は少しだけ声を大きくして呼びかければ、ようやくソイルは目を覚ました。

「……あ、すみません!俺寝ちゃってて!」

「お休みのところ申し訳ありません。こちらをエルマ様から預かっています」

 渡された小包の中を見て、ソイルは顔を綻ばせた。そして座って小包を自身の隣に置き、シルヴィアに笑みを向けた。

「ありがとうございます。わざわざ届けてくれて」

「問題ありません」

 会話はそこで終わったように思えたが、シルヴィアはその場を離れようとしなかった。薄暗い作業場に佇むシルヴィアを見て、ソイルの笑顔が困ったような表情に変わる。

「あの…どうかしました?帰らなくていいんですか?」

「はい。それより、?」

 その言葉に、ソイルはビクッと震えて言葉を詰まらせた。そして諦めたようにため息をつくと、左手で包みを持って立ち上がった。右手は半分ほど無くなっており、今も少しずつ砂となって宙に消えていっている。

「…いつから、気付いてたんですか?」

「最初にお会いした時です」

「そんなに前から…?!」

「はい。上手く隠しているようでしたが、何か質の違う魔力が2つ感じられたので

 ソイルは驚いてシルヴィアの顔を見たが、彼女が嘘をついているようには見えなかった。
 暫し悩んだあと、ソイルは深々と頭を下げた。その体は不安からか少し震えている。

「お願いします…姉ちゃんには、黙っておいてくれませんか?」

 シルヴィアの返事はない。おそらく、彼女もソイルと同じように悩み考えているのだろう。だが少ししてソイルが顔を上げれば、シルヴィアは小さく口を開いた。

「わかりました」

「え?いいんですか…?」
 
 確認するように尋ねれば、先程から変わらない表情で頷く。

「私が他人の事情を好き勝手に言う権利はありませんので」

「ありがとうございます…!」

「いえ。ですがー」

 シルヴィアは言葉を続けようとしたが、何かを感じて突然しゃがみこんだ。そして手袋を外し、右手で地面に触れる。
 突然の行動に、ソイルはただ驚く事しか出来ず固まった。少し遅れて、彼女の特殊な腕に驚く。

「あの、何を…?」

「…今すぐ、安全な場所に避難してください」

 シルヴィアが真剣な眼差しで呟いた瞬間、大陸が小さく揺れ始めた。



 束の間の眠りから目覚めたアクアは、小さく欠伸をしながらベンチに座りなおした。ずっと忘れていたものを思い出して気分が悪いが、久しぶりに寝られたので体は軽かった。
 そのまま座ってボーッとしていると、近くを通りかかった親子の子供の方がアクアに気付き、笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。

「いた!お姉ちゃん!」

「え…?」

 面識のない子供に突然迫られアクアは身構えたが、少女は構わずポケットから飴玉を取り出してアクアに手渡した。

「これあげる!」

「あ、ありがとう…」

 混乱するアクアをよそに、父親もカバンから小さな袋を出してアクアに渡した。中には土で出来たウサギの置物が入っており、アクアは何故貰えたのかわからず余計混乱する。

「突然すみません。少し前にお連れの受付嬢の方にも会ったんですけど、その方に直接渡した方が良いと言われまして。ここ数日、作業を手伝ってくれたお礼です」

「あ…」

 そこでようやく、アクアは父親が作業場にいたのを思い出した。そんな父親は辺りを見回して頰を緩ませた。どの家にも明かりが灯り、小さな笑い声や楽しそうな声が聞こえてくる。

「1週間ほど前は悲惨な状況でしたが、あなた達のお力添えもありかなり復興が進みました。本当に、ありがとうございました」

「そんな…。私は別に、何も…」

「何もなんて事ないですよ。還土作業に水は必要不可欠ですが、ドワーフ族僕達は水魔法の適性がありませんから大助かりでした」

 恐縮して縮こまるアクアの隣に、娘は目を輝かせて勢いよく座った。そして輝く目をアクアに向けた。

「私も見たよ!お姉ちゃん、水を出しながら走っててすごいカッコよかった!」

「私が?」

「うん!いいなぁ~私は水が出せないから、羨ましい」

「私が、カッコいい…」

 初めて言われたその言葉をどう解釈すれば良いか悩んだが、目の前の少女の笑顔を見て素直に受け止めておく事にした。

「こちらこそ、ありがとね」

 礼を言って頭を撫でれば、少女は大きく頷いて花のような笑顔を咲かせた。

 親子は家へと帰っていき、アクアは貰った飴玉と置物を眺めた。他人から感謝された事など、アクアの記憶には殆ど無かった。
 自分を見つけてくれた人のために、誰からも馬鹿にされないくらい強くなるために、今までの努力は無駄じゃなかったと確認するためだけに討伐依頼をこなしてきた。故に孤独だったが、それでも構わないと思っていた。

 はずだったー。

「あれ…?」

 気づけば視界がぼやけ、大粒の雫がアクアの頰を濡らしていた。何が起きたのか一瞬わからなかったが、すぐに自分が泣いているのだと察する。
 アクアは貰った物を胸に抱き、嗚咽を漏らした。今にも声を上げて泣きたかったが、まだ早い。アクアには、まだやり残した事がいくつかあった。

「…よし」

 ゴシゴシと袖で涙をぬぐい、すぐに帰ろうとした。だが突然地面が小さく揺れ始め、何処かで大きな爆発音がした瞬間、アクアは地面に倒れていた。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...