Sランク冒険者の受付嬢

おすし

文字の大きさ
上 下
33 / 67
綺麗な土と水に美しい花

第1話

しおりを挟む
 
 私と彼女の関係は、多分この先も変わらない。でも前と違う点があるとすれば、それはきっとー



 次の日、アクアはギルドの前で鞄を足元に置き、同伴者とやらを待っていた。まだ出航までかなり時間があるので、暇つぶしに今朝買った新聞に目を通していく。
 見出しの記事には、これから向かうドワーフの国の事が大きく書かれていた。記事には、先日発生した地震により、ドワーフの国では数多くの被災者が出て、かなりの建物が倒壊したと記されている。そのため、現在は国が一丸となって復興にあたっているそうだ。

(それにしても遅いわね…)

 アクアは顔も知らない同伴者が気になり、通りを隅々まで見渡した。街の住人や商人が行き交っているだけで、それらしき人物の姿は見当たらない。
 だが後ろのギルドの扉が開き、少し気に入らない魔力を感じた。振り返れば、そこには受付嬢の制服を着た銀髪の女性が1人、アクアに左右で色の違う瞳を向けている。

「お待たせしました、アクア様」

「な、何であんたが…」

 綺麗なお辞儀をするシルヴィアを見て、アクアは同伴者が誰なのかを察した。そんなはずは無いと思っても、彼女の顔が事実だと告げているように感じる。

「マスターから、アクア様に同伴してくれと命を受けています。これから1週間、よろしくお願いします」

「ふざけないでよ!なんで貴重な休みを、あんたと過ごさなきゃいけないわけ?!」

「ふざけてなどいません。それより、港に行く前に寄りたい場所があるので、お先に失礼します」

「あ、ちょっと…!」

 シルヴィアはそう言って、ギルドの裏庭から巨大な荷物を積んだキャリーワゴンを引いてきた。ワゴンには箱がいくも積んであるが、それらを覆うように茶色い布が被せられているので、中身が何かはわからない。
 ポカンとするアクアをよそに、シルヴィアは重たそうなワゴンを涼しい顔で引いて何処かへと歩いて行った。


 後をついて行くと、シルヴィアは王国大聖堂の前で足を止めた。そしてワゴンを道の端に寄せ、大聖堂の中へと黙って歩いて行く。アクアは何を言っていいかわからず、とりあえず自分も続いた。

 聖堂の中に入れば、祭壇の前でお祈りをしていた少女が、シルヴィアに気づいて嬉しそうな表情を浮かべて走ってきた。
 この国の民なら誰でも知っている。白い修道服を着た彼女はー

「シルヴィアさん!こんにちは!」

「こんにちは、聖女様。お元気そうでなによりです」

 聖女の《エステリア・スプレンドーレ》は首から下げたロザリオを揺らしながら、シルヴィアのもとに駆け寄った。
 そしてアクアに気づくと、少し頰を赤く染めて照れ笑いを浮かべた。聖女という立場を忘れた、年相応の笑みにアクアの肩からふっと力が抜ける。

「ご、ごめんなさい。海の聖のアクアさんですよね?初めまして、聖女のエステリアです」

「…アクア・ロゼマリンです。こちらこそ初めまして」

「シルヴィアさん、今日はどうしたのですか?」

「今月分を、お渡しに来ました

 エステリアは『そうでしたね!』と頷くと、ポケットから試験管の様なものを一本取り出した。同時に、シルヴィアは右腕の手袋を外す。

「あんた、それ…」

 いきなり緑色の腕が現れ、アクアは目を見開いた。いつも右手にだけ手袋をしていると思っていたが、その下にこんな物が隠れているとは思ってもいなかった。


 驚くアクアの前で、シルヴィアは人差し指を試験管の口に近づける。そしてすぐに、指先から光り輝く液体が一滴だけ零れ落ちた。
 シルヴィアは手袋をして腕を隠し、エステリアは試験管に蓋をして大事そうに抱えた。

「ありがとうございました!本当に、毎月申し訳ないです」

「問題ありません。それでは」

「また会いに来てくださいねー!」

 エステリアに見送られ、2人は港へと向かった。


 港でワゴンを係員に預け、2人は大型船に乗り込んだ。ドワーフの国までは数時間かかるため、船内にある個室を取っているのだが、グレイの計らいなのか2人は同じ部屋へと案内された。

「はぁ…」

 アクアは大きなため息をつき、荷物を降ろしてベッドに座った。同室の彼女に視線を向ければ、椅子に座って何もせずにじっとしている。

「…ねぇ」

「何でしょうか?」

 感情のカケラもない無表情を向けられ言葉に詰まるが、咳払いをして誤魔化し、話を続ける。

「さっきのは何?」

「植物の栄養分と魔力を配合した、特製の薬です。月に一滴しか出せないので、続けて出すとー」

「そうじゃなくて!あんたの、その…腕よ」

 アクアに視線を向けられ、シルヴィアは自分の右腕を見た。今は白い手袋で覆われているが、軽く動かせば絡み合った蔦が小さく音を立てる。

「これがどうかしましたか?」

「何があったらそんな事になるわけ?ハッキリ言って気……普通じゃないわ」

「申し訳ありません。私も知らないのです」

「は?何でよ」

「目覚めた時からこの状態で、詳細は不明だと知らされています」

「…あっそ」

 正直最初見た時は不気味に感じたが、本人も特に気にしてないようだったので、アクアはベッドに横になって会話を終わらせた。
 シルヴィアが窓を開ければ、静かな部屋に穏やかな風が流れ込んでくる。そして座って待っていると、体を揺さぶる大きな汽笛が鳴り響き、2人を乗せた船はドワーフの国へと出航した。


しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~

みなかみしょう
ファンタジー
錬金術師イルマは最上級の階級である特級錬金術師の試験に落第した。 それも、誰もが受かるはずの『属性判定の試験』に落ちるという形で。 失意の彼女は師匠からすすめられ、地方都市で工房経営をすることに。 目標としていた特級錬金術師への道を断たれ、失意のイルマ。 そんな彼女はふと気づく「もう開き直って好き放題しちゃっていいんじゃない?」 できることに制限があると言っても一級錬金術師の彼女はかなりの腕前。 悪くない生活ができるはず。 むしろ、肩身の狭い研究員生活よりいいかもしれない。 なにより、父も言っていた。 「筋肉と、健康と、錬金術があれば無敵だ」と。 志新たに、生活環境を整えるため、錬金術の仕事を始めるイルマ。 その最中で発覚する彼女の隠れた才能「全属性」。 希少な才能を有していたことを知り、俄然意気込んで仕事を始める。 採取に町からの依頼、魔獣退治。 そして出会う、魔法使いやちょっとアレな人々。 イルマは持ち前の錬金術と新たな力を組み合わせ、着実に評判と実力を高めていく。 これは、一人の少女が錬金術師として、居場所を見つけるまでの物語。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

【追放29回からの最強宣言!!】ギルドで『便利屋』と呼ばれている私。~嫌われ者同士パーティーを組んだら、なぜか最強無敵になれました~

夕姫
ファンタジー
【私は『最強無敵』のギルド冒険者の超絶美少女だから!】 「エルン。悪いがこれ以上お前とは一緒にいることはできない。今日限りでこのパーティーから抜けてもらう。」 またか…… ギルドに所属しているパーティーからいきなり追放されてしまったエルン=アクセルロッドは、何の優れた能力も持たず、ただ何でもできるという事から、ギルドのランクのブロンズからシルバーへパーティーを昇格させるための【便利屋】と呼ばれ、周りからは無能の底辺扱いの嫌われ者だった。 そして今日も当たり前のようにパーティーを追放される。エルンは今まで29回の追放を受けており次にパーティーを追放されるか、シルバーランクに昇格するまでに依頼の失敗をするとギルドをクビになることに。 ギルドの受付嬢ルナレットからの提案で同じギルドに所属する、パーティーを組めば必ず不幸になると言われている【死神】と呼ばれているギルドで嫌われている男ブレイドとパーティーを組むことになるのだが……。 そしてそんな【便利屋】と呼ばれていた、エルンには本人も知らない、ある意味無敵で最強のスキルがあったのだ! この物語は29回の追放から這い上がり『最強無敵』になった少女の最強の物語である。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。  行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー! ※他サイトにて重複掲載しています

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...