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七天聖と受付嬢
おまけ
しおりを挟む天聖集会から数日後、ヘリオスはある島を訪れていた。島に海から上陸して北の方へと進み、目的の家に着くとノックもせずに玄関の扉を開けた。
「シュウ!久しぶりだな、上がらせてもらうぞ!」
家主に事前に来る事を伝えていないが、ヘリオスは構わず二階へと上がっていく。そして懐かしい魔力を感じる部屋に入れば、上半身裸の渋い男性がベッドで横になっていた。
「シュウ!二日酔いはどうだ?相変わらず酒が好きだな!」
「…そういうお前さんは、相変わらず火のように暑苦しいな」
シュウと呼ばれた男は呆れながらベッドのそばに座り、サイドテーブルにあった酒を飲み干した。
ヘリオスは側にあった椅子に座り、ポケットからぐしゃぐしゃになって手紙を取り出して渡した。手紙の裏には、ギルドの紋章が描かれている。
「長殿から手紙だ!」
「坊やからか、懐かしいな…」
シュウは文面に目を通しながら、上機嫌に目を細めた。そして手紙を読み終えると、部屋にある戸棚にそっと閉まった。
「闇ギルドの掃討作戦に参加したのか」
「あぁ!あの大きな屋敷を燃やすのは、心が滾る光景だった!シュウも来て参加すれば良いと思ったぞ」
「…俺は今、お前の声で頭が割れそうなくらいに痛いんだよ」
「そうなのか!」
高笑いをするヘリオスの前で、シュウは新しい瓶を取り出して酒を流し込んだ。きっとユキノやアクアがいれば、何かしら言うのかもしれないが、ツッコミが不在の部屋は何とも言えない状況になっている。
だがある事を思い出し、ヘリオスは笑いをやめてポンと手を打った。
「そう言えば、面白い女性に会ったぞ!」
「面白い…?具体的に頼むよ」
「ここ数年空いた木天聖を務められるような、莫大な魔力を持った強い女性だ!」
その言葉にシュウは酒を飲むのをやめ、少し不審がるような表情を浮かべた。
「お前さんは、俺より若いのにもうボケが始まったのか?」
「何を言っている!俺は1度覚えた事は、忘れない人間だぞ!」
「じゃあ今言ったこと、もう一度言ってみな」
ヘリオスは首を傾げながらも、言われた通りに復唱する。
「何を言っている!俺は1度ー」
「その前だ」
「ここ数年空いた木天聖を務められるような、莫大な魔力を持った強い女性だ!」
「それだよ」
シュウはベッドから立ち上がり、シャツを着てヘリオスのおでこを指で弾いた。
「見事にボケが始まってるじゃないか」
「む?さっきから何の事を言っている?」
「それはコッチのセリフだな。木天聖がここ数年空いた事なんざ、俺の記憶にはない」
「シュウこそ何を言っている!現に今年の集会には木天聖がいなかったが、誰も疑問には思っていなかったぞ!」
「…それは本当か?」
「あぁ!」
シュウはじっと暑苦しい男の顔を見つめたが、彼が嘘をついているようには見えなかった。見ているだけで体温が熱くなった気がして、一旦視線を外して質問を続ける。
「木天聖がいないのは、いつからだ?」
「2.3年くらい前だ!」
「お前が会った女性の名前…シルヴィアじゃないだろうな?」
「む、知っていたのか!なら、彼女が適任なのもわかるだろ!」
嬉しそうに話すヘリオスを見て、シュウは小さくため息をついた。
「適任も何も、お嬢さんは前から木天聖だろ…」
シュウは小さく呟いたが、ヘリオスは自分の高笑いのせいで何も聞いていなかった、
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