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七天聖と受付嬢
第7話
しおりを挟む次の日の夜、シルヴィアは受付に座り見慣れた景色を眺めていた。既にアクア以外の七天聖4名は、聖騎士と王都の外にある闇ギルド本部へと向かってしまった。アクアはお留守番らしく、二階の部屋で待機している。
シルヴィアの前では、冒険者達が酒を飲んで笑いあったり、力比べなのか軽い殴り合いをして戯れていた。
基本的に、ギルドの職員が冒険者のいざこざを止める事は無い。喧嘩の売り買いは当人達の自由だし、軽い怪我程度なら医務室で絆創膏を貼ってもらえる。
(…椅子、1つ。銅貨5枚)
だがシルヴィアの目の前で酔っ払った冒険者が転び、椅子にぶつかって椅子の脚が折れた。シルヴィアは紙にその冒険者の名前と備品の詳細を記し、側にある箱に入れる。
こういったお金が発生する場合は、喧嘩とは別で酔いが覚めた翌朝、本人に直接請求するのだ。なので冒険者達は、物が壊れない程度に上手くはしゃいでいる。
「シルヴィアちゃん!これから一杯どうだ?」
シルヴィアが記入を終えたところで、年配の男の冒険者がジョッキを片手に酒の席を誘ってきた。顔がだいぶ赤く、かなりの量を飲んでいるのだろう。それにたくさん食べたのか、お腹もだいぶ膨れている。
「私はお酒は飲まないので、遠慮させていただきます。それに今は仕事中ですので」
「そっか、わりぃわりぃ。それにしても、シルヴィアちゃんも少し変わったな」
「変わった?」
シルヴィアは引き出しから鏡を出し、自分の顔や服を見てから首を傾げた。
「特に異常はありませんが…」
「はっはっはっ!そうじゃねぇよ、内の話だ」
「内とは…何の事でしょうか?」
「心とか、気の持ちようだな。ほら、前に酒に誘った時の事覚えてるか?」
シルヴィアは少ない記憶を探り、その時の事をすぐに思い出した。
「はい。今日のように、騒がしい夜でした」
「そん時はさ、シルヴィアちゃん『必要ありません』って氷みたいに冷たく断ったからよ。それに比べりゃ随分変わったもんだ」
「そう、でしょうか…」
言われてもシルヴィアは良く理解出来ず、虚ろな瞳で宙を眺めた。こんなにも騒がしい場に1人、自分だけが冷たく静かな気がする。
そんな彼女を尻目に男は酒を喉に流し込むと、『美味い!』と言って嬉しそうに笑った。
「まぁまた今度付き合ってくれよな!」
「はい。機会があればよろしくお願いします」
会話は終わり、男は近くで飲んでいる仲間の元へと帰っていった。
シルヴィアはその後も作業をしながら言われた事を考え続けたが、結局明確な答えが見つかる事はなかった。
同時刻、王都の壁を出た所にある村の近くで、聖騎士団とギルド関係者は突撃の準備を整えていた。村にはいくつか家があり、その中心に大きな屋敷が見える。ここにあるすべての建物が、闇ギルドの根城となっているのだ。
グレイ達の仕事は狼煙をあげるようなもので、始めに家を少し潰せばその後の事は全て聖騎士団の仕事となっている。そのため、グレイ含む七天聖は最前線に立ち、始まりの合図を待っていた。
「やぁやぁ、悪いね。早く帰って寝たいだろうに」
タバコをの煙をふかして待っていると、陽気な声と共に1人の女性が歩いてきた。女性の背中には身長程ある大剣が納められており、初見だとそんな力があるのかと疑ってしまう。
グレイは短くなったタバコを地面で踏み消し、新しいタバコに火をつけた。
「それが分かってるなら、こんな依頼してくるんじゃねぇよ」
「確かにその通りかも!でもまぁ、やるならド派手にいきたいだろぅ?」
聖騎士団副団長《シズク・ロゼマリン》は戯けたように笑い、グレイの肩をバンバンと叩いた。
「詰まる所、常識知らずで派手な君達に暴れて欲しいわけさ。《成敗!》みたいな感じで」
「俺だけは控えめだけどな」
「え~?私の妹ちゃんも常識人なのに。ってあれ、アクアちゃんどこにいるの?」
「留守番してもらってる。ギルドを無防備にする訳にもいかねぇし、お前とは顔を合わせたくないだろうからな」
「…そっか!」
シズクは一瞬真顔になったが、すぐに満面の笑みになると王都の方を見つめた。その水色の瞳に光はなく、どこか遠くを眺めているようにも思える。
「残念だなぁ…久しぶりに話せると思ったんだけど。まぁあの子の事、よろしく頼むよ」
「わかってるよ。それより、その成敗はいつ始まるんだ?」
「じゃあ私も早く帰りたいし、もう始めますか!」
シズクはそう言って腕をパンッと叩くと、伝令の者に始めるよう伝えた。
「じゃあツカミは頼んだぜ、ギルドマスターくん!」
「はいはい」
グレイはため息をつきながら、他の3人と共に村の方へと歩いて行った。
村に入るなりヘリオスは太刀を抜き、姫はウルフェルの背中に乗ってギュッとしがみ付いた。ネムリは布団に包まったまま寝ており、グレイがロープを繋いで引きずっている。
「それにしても、こんな普通の村を根城にしていたとは!何故騎士達は手を出さなかぅたのだ?」
「ここらの領地を治めてる伯爵だったか…?そいつの息がかかってたらしくて、お偉いさんも手を出せなかったんだと」
「そういう事か!上流階級も腐っているな!」
「お前それ貴族街で言うなよ…?」
ヘリオスは嬉しそうに笑ったが、ウルフェルは影を泳ぎながらヌッと顔を出した。その背中で、姫は頭巾を深く被りビクビク震えている。
『では、あの副団長は上の命を無視して今宵の作戦を実行しているのか?』
「つい先日、伯爵様の違法交易やら闇商売が明るみに出たらしい。それよりその子大丈夫か?失神しそうだぞ」
『案ずるな、姫はこの俺が命に代えても守る』
「怖くない怖くない…!」
「はぁ…なんで連れてー」
「来るずら」
突然ネムリの呟きが辺りに響き、2人と1匹は暗闇に目を凝らした。そして瞬き1つの後に、樹々を跳んで何人かの刺客が姿を現す。
「うむ!闇からの奇襲とは、なかなか良い手を使うな!同じギルドの仲間だったら、俺が直々に鍛えていたぞ!」
ヘリオスは嬉しそうに大きな声を出すと、太刀を宙に向かって軽く一振りした。そこで一瞬空気の流れが止まるが、次の瞬間、空中で大爆発が起き森に風が吹き荒れた。夜なのに辺りが一転して眩しくなり、それが狼煙の代わりとなる。
「…確かにこれは派手だ」
「長殿、俺は東を行くぞ!」
『ならば我は北の影から逃亡者を喰らう』
「…じゃあ私は東の反対で寝てるずら…」
「殺さない程度にな」
「御意!」 『承知』 「ZZzzz…」
全員返事をしながら、グレイの視界から姿を消した。
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