3 / 67
色のない受付嬢
第2話
しおりを挟む日が沈みかけた頃、シルヴィアは受理済みの依頼書を確認していた。クエストには定められた期日があり、これを過ぎると達成報酬が一日置きに減らされる仕組みになっている。
そしてその中に1枚、今日の夜までの依頼書を1枚見つけた。クエスト受理のハンコは押されているが、達成のハンコが押されていない。
「これは…」
それはシルヴィアが昼に確認したもので、あの4人パーティーの冒険者達が受けたものだった。まだギルドを閉める時間ではないのだが、魔物の潜む森に夜に入る冒険者は少ない。視界が悪いと、暗闇から奇襲を受ける確率が昼間より格段に跳ね上がるからだ。
少し嫌な予感がし、シルヴィアは依頼書と4人のギルド登録用紙を手にしてギルドマスターの部屋へと向かった。
「失礼します」
昼間のように声をかけ、シルヴィアはグレイのいる部屋に足を踏み入れる。グレイは休憩中だったらしく、椅子に座って仮眠を取っていた。
「グレイさん、シルヴィアさんがいらしてますよ」
「んぁ?」
ユキノが揺すり起こすと、グレイは口元の涎を拭って目をシュパシュパさせた。まだ眠たそうだが、シルヴィアは気にせずグレイの前に詰め寄る。
「ぁれ、どうした?夕飯のお誘い?」
「いえ。昼間、こちらの依頼に行かれた冒険者の方々がまだ帰られていないのです」
グレイとユキノは依頼書を見てから4人の登録用紙を確認し、少し考え込むようなそぶりを見せた。
「別に実力が足りてないって感じでもないし、なんとも言えないな。期日はあと1時間か…」
「依頼代行書の発行の許可をお願いします。今ならまだ間に合うかもー」
「それは出来ませんわ」
シルヴィアの提案にユキノはかぶりを振った。
《依頼代行》。依頼に行った冒険者が、怪我をしたなどの原因で依頼の続行が不可能な場合、ギルドが依頼代行書を発行して他の冒険者に手助けを頼むものだ。緊急クエストの一種でもあり、代行をした冒険者には特別報酬が出る。だがそれを発行するには、1つ問題があった。
「代行書は、依頼に行った冒険者に何か問題が発覚した"後"にしか発行出来ません。そうギルド協会の規定で決められています。お忘れですか?」
「…すみません、少し焦っており見落としていました」
シルヴィアはそう呟いて左手の拳を握りしめた。彼らに何か問題があったと発覚はしていないが、シルヴィアの勘がそう告げていた。『彼らの身に、何か危険が迫っている』と。
(もしあの時、クエストの受理をしていなければ…。具体的なサポートアイテムもー)
「シルヴィア」
気がつくとシルヴィアの頭の上にグレイの手が置かれており、シルヴィアはハッとして顔を上げた。虚ろな表情をするシルヴィアとは対照的に、グレイは優しく微笑んでいる。
「とりあえず、今日はもうあがっていいよ。用事があるだろうし」
「…ありがとうございます」
何もかも見透かされているようでシルヴィアは少し驚いたが、ペコリと頭を下げると足早に部屋を後にした。
急いで部屋を出て行くシルヴィアを見送り、グレイは小さく笑うと椅子に腰掛けた。
「…あの、グレイさん」
「何?」
グレイが声のした方に視線をやると、ユキノは少し困ったような表情を浮かべていた。普段はクールでキリッとした面持ちをしているので、こういった表情は少し新鮮だ。
「シルヴィアさんを止めなくてよろしいのですか?」
「止めるって何を?きっと近くの酒場にでも飲みに行くんだろう。そういえばあそこの酒場、今日は女性割引だったような…」
わざとらしくとぼけるグレイの前に立ち、ユキノは例の依頼書を取り上げてグレイの前に突き出した。
「彼女が今からこの依頼に行く事くらい、貴方ならおわかりのはずです。それを止めなくていいのかと聞いてるんです」
「そうだねぇ…。でもまぁ、たまたま通りかかった冒険者が、困っている冒険者を助ける位なら問題にはならないよ」
「ですが…」
口ごもるユキノの向かいで、グレイはいつもの明るい笑みを引っ込めて真剣な顔つきになった。その表情に、ユキノは思わず息を呑む。人前では大抵、グレイは笑った顔くらいしか見せないからだ。
「俺が止めようとしたら、きっと彼女と一戦交える事になるからね。そうしたらここら一体が吹き飛ぶかも」
「っ…!」
そう言って可笑しそうに笑うグレイに、ユキノは何も言う事が出来なかった。
11
お気に入りに追加
2,044
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる