Sランク冒険者の受付嬢

おすし

文字の大きさ
上 下
2 / 67
色のない受付嬢

第1話

しおりを挟む

 絶望の淵で現れた彼女は、天使のように宙を舞い、敵を亡き者にしていく。
 その姿は、昼間見た受付嬢の彼女からは想像も出来ないくらい強く、そして何より美しかったー。



 昼間、早朝の閑散としたギルドは一変して1階は数多くの冒険者達で賑わっていた。
 壁に貼られた数々の依頼書を眺めるパーティーや、昼間から酒を飲んで騒ぐ男達など人によって様々だ。これが王都最大のギルド《ラウト・ハーヴ》の日常だった。

 そんな様子を、白銀の刺繍が入った受付嬢《シルヴィア・ルナセイアッド》は、5つある受付の真ん中に座って静かに眺めていた。

「お姉さん」

 だがシルヴィアの視界を遮るように1人の男性が現れ、シルヴィアに人懐っこい笑みを向けた。その手には依頼書が握られており、受付依頼と判断した彼女は黙ってそれを受け取る。彼女の本日最初の仕事だ。
 シルヴィアは手元にある依頼書の内容を、左右で色の違う瞳で確認した。右が水色で左が金色と少し変わっているが、それが逆に彼女の美しさを際立たせている。その姿に男性冒険者は見惚れていたが、シルヴィアが顔を上げてハッとなった。

「ゴブリンの討伐クエストですね。お一人ですか?」

「い、いや4人パーティーですよ!ほら」

 男性がそう言うと、近くにいたパーティーメンバーが駆け寄ってきた。男女2名ずつのパーティーで、男性は2人とも剣士で女性は魔術師が1人と弓師が1人だ。
 シルヴィアはそれを確認すると4人の冒険者カードを受け取り、ランクや適性魔法の確認をした。受付嬢はクエストのレベルを見た後に各々のステータスなどを確認し、クエストに行っていいかどうかを判断するのだ。

「…少し背伸びしているような気もしますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。これでも、もう20件くらいは依頼をこなして来ましたから」

 少し不安要素もあったが、4人とも早く依頼に行きたいという顔つきをしており、シルヴィアは依頼書にクエスト受理のハンコを押した。そして依頼書を受理済みの引き出しに入れ、ギルドの紋章が描かれた小さな袋を渡した。

「ゴブリン5体分の魔石回収が済みましたら、こちらの袋に入れてください。達成報酬は銀貨4枚です」

「わかりました!」

「それと、念のため隣の売店でポーションなどのサポートアイテムのご購入をお勧めします。討伐クエストは何が起きるかわからないのでー」

「大丈夫ですって、それじゃあまた後で!」

 男性は痺れを切らしたのか、シルヴィアの助言を最後まで聞かず、パーティーメンバーを引き連れてギルドを出ていった。

「…お気をつけて」

 シルヴィアはその背中に声をかけ、仕事を再開した。



 しばらくクエスト受理や書類整理の仕事をこなし、シルヴィアは昼休憩に入った。席を外して厨房に入り、毎度の事ながら用意してもらっているコーヒーを2つトレイに乗せて2階へと上がっていく。
 そして朝に来たギルドマスターのいる部屋に来ると、2回ノックして部屋の中に入った。部屋には黒髪の男性が1人と眼鏡をかけた金髪の女性が1人いて、男性は机に向かって書類と睨めっこをしていた。だがシルヴィアが来たのに気がつくと、顔を上げてパアッと頰を緩ませる。

「休憩か?」

「はい。コーヒーをお持ちしました」

「毎日ありがとな」

「ありがとうございます」

 ギルドマスターの《グレイ・ロイヤード》と秘書の《ユキノ》は礼を言いながらコーヒーを受け取り、グレイは一気に口に流し込んで顔をしかめた。

「お口に合いませんでしたか?」

「いや、この身体に染み渡る感じがね。たまらん」

「それはどういう感じでしょうか?」

 シルヴィアの澄み切った瞳で見つめられ、グレイは『う~ん…』と言って頭を悩ませた。

「こう食べた物が身体中に漲って、力が溢れてくる感じ…かな?」

「それは興奮しているという事ですか?」

「まぁ近いっちゃ近いかな」

 そんな話をしていると、部屋をノックする音がして綺麗な青髪の女性が入ってきた。女性はグレイの顔を見て少し顔を明るくしたが、隣にシルヴィアがいるのに気がつくと少し顔を曇らせる。

「あれ、アーちゃんもう帰ったの?」

「はい。…というか、私はアーちゃんじゃなくてアクアですよ!」

 サブギルドマスターの《アクア・ロゼマリン》は、少し頰を膨らませながらカバンに入っていた書類の束をグレイに渡した。
 グレイはすぐに書類を確認し始め、アクアはシルヴィアをひと睨みすると足早に部屋を出て行ってしまう。
 睨まれたシルヴィアは、首を傾げてグレイを見た。

「アクア様、どうかしたのでしょうか?」

「便秘なんじゃないかな?」

「なるほど」

(…アクアさん、大変ですわね。ですが面白そうですし放っておきましょう)

 鈍感な2人の会話を聞き、ユキノは2人に呆れると共にアクアの乙女心に少しだけ同情した。
 
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...