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第11章

第182話

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地下ダンジョンの天井が崩れゆく中、シオリは少し昔の事を思い出していた。隣でディァブロが何かを叫んでいるが、それがどこか遠いようで懐かしく感じるのは気のせいだろか。
体は先程倒した魔物と自分の血で赤く染まり、頭部からも少し出血しているせいで今にも意識を失いそうになる。

『おい聞いてんのか!このままじゃ死んじまうぞ!』

「…おかしいですね、ディアブロはんがうちの心配してくれてはる。明日は槍でも降るんやろか」

そう言って笑うシオリに、寄生していた彼は辛そうな顔を返した。



その人に会ったのは、私がまだ5歳くらいの頃だった。魔力量の多かった私は村の近くにある森に通い、いつも1人で魔法の練習をしていた。
そんなある日、隣の村で恐ろしい化け物が暴れているという情報が入った。みんな家の中怯えて隠れていたが、当時の私は『新しく覚えた魔法でやっつけてやる!』とでも思ったのか家を抜け出して隣の村まで走っていった。

「なんや…これ」

村に着いた私はそう呟く事しか出来なかった。民家の全てがボロボロに壊れており、辺りは煙と炎で酷い有様になっている。
私はすくむ足になんとか力を入れその場から逃げようとした。恐怖や焦りが小さい体をあっという間に支配し蝕んでいくが、本能がここから逃げろと告げている気がしていた。

「っ?!」

しかし突然、村の中心に倒れていた人が私の視界の隅で動き出したのだ。その人の周りは血の海が出来ていたので死んでいると思っていたが、その人はゆっくり立ち上がると血まみれの顔を私に向けた。
その瞳には殺意しかこもっておらず、私はその瞳に射抜かれて腰を抜かしてしまう。『死んだ』としか思えなかった私の所へ、その人はボロボロの体を引きずりながら近づいてきた。

「…テメェ…この村のやつか?」

「う、うちは…!」

「…なかなか良い魔力持ってんじゃねぇか」

その人はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべると、聞いたことのない魔法を詠唱した。詠唱が終わるとその人は黒い霧となり私の口から体内へと強引に侵入していく。
私は為す術もなく、その人の侵入を許してしまった。

それが、私とディアブロはんの出会いだった。



『おいコラ起きろ。夏休みだからってだら」けすぎだろ』

「んん……まだ、もう少しだけ寝させてくれはっても…」

『枕元にデケェ虫いるぞ』

「えぇっ?!」

慌てて飛び起きて確認するとそんなものはどこにもなく、代わりに私のお腹から上半身だけ出したディァブロはんがゲラゲラ笑っていた。

「だ、騙したんですか?!」

『ぶはははははは!お前何回引っかかるんだよ。そんな騙されやすいようじゃ、このクソみてぇな世の中生きていけねぇぜ?』

「う、うちの周りには騙すような人おりまへん!」

『どうだろうなぁ…例えばあのガキ2人とか怪しくねぇか?』

「レイさんとガジルスさんですか?そんな事あるわけー」

『いつか絶対あの2人をぶちのめしてやる。特にレイとかいう方は、必ずこの手で血祭りに…』

「あきまへん!そんな事させませんよ、せっかく出来た数少ない友人なんですから」

私の言葉にディアブロはんはぐちぐち文句を言いながら、私の体に戻っていく。
もうすっかり馴染んでしまったが、彼は私の体にかれこれ5年以上住み着いている。理由はただ1つ、壊れた体を修復するためだった。
あの日、ディアブロはんは村人に殺されかけ力尽きようとしていた。そこに私が偶然居合わせ、私の無駄に多い魔力を気に入った彼は私の魔力を喰らい生き長らえているのだ。その代わり私はいくつも魔法を教えてもらっているのだが、彼が私の体から出ていく気配はあまり感じられない。

「はぁ…いつまでこの生活が続くんやろか」

『テメェが一人前になるまでだな』

「…ディアブロはんが認めてくれる日なんて来ると思えへん」

『どーだかな』

そう言って彼は、私の中で惰眠を貪るのであった。


暑い日差しが照りつける中、私は『アミュレット・サーガ』というギルドに向かっていた。
あまり冒険者になるつもりはなかったのだがディアブロはんが『戦わせろ!』とうるさかったのと、王都から離れた所にある村に住む両親に日頃のお礼を贈るため、私は初めてギルドという場所に足を運んでいる。

『なぁ、冒険者同士で殴り合いとか出来ねぇのか?』

(出来るわけないです。そないな事する場所じゃないです)

『チッ、仕方ねぇな。じゃあ魔物でも狩ろうぜ!』

(うちは薬草集めとかで満足やし…戦うのはあまり好きじゃないー)

『早く行こうぜ、お前の身体の中暑くてしょうがねぇ』

(文句ばっかりやないですか…)

頭の中に響く声に、私は心の中で返事をしながらギルドに向かった。



「ありゃ、今の感じ…ディアブロちゃん?」

ギルドの近くで、炎天下の中灰色のローブに身を包んだ女性は汗を流しながら歩くシオリの後ろ姿を眺めた。フードで隠れているが、女性の頭には小さな角が2本あり肌は薄い紫色をしている。

「気のせいかなぁ。まぁいいや~」

女性はだるそうに呟くと、近くにあったお店に入って昼間から冷えたエールを注文し一気に飲み干した。
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