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第10章
第181話
しおりを挟む姫と天翼族が囮となり、空を縦横無尽に駆けて古龍のブレスを避けている。そして後方からエレナとエルフたちが古龍の周りに魔弾を放っていた。
古龍を目覚めさせたフォルカスがいない以上、術を解く方法がないので古龍の魔力を全て使わせるという作戦だ。念のためにシオンの共鳴術を試したが、古龍と繋がることは不可能だった。
その様子を、レイとロゼッタは離れたところからジッと眺めていた。レイが何も言わずに手を出さないせいか、ロゼッタは少し困ったような表情を浮かべている。
「あの、マスター」
「何?」
「何故助けないのですか?マスターが時を戻せば、古龍は元に戻るのでは…」
「だろうね」
「では何故…」
「俺が助けたら、意味がないから」
ロゼッタはレイの答えに謎が深まったのか、レイの目を覗き込んだ。
「マスター、ジョーカー達と何かあったのですか?」
「…あった」
「何を言われたのですか?」
「この世界の未来の話、かな」
「未来…?」
「…ロゼッタ、俺が死ぬ時まで一緒にいてくれる?」
「…え?」
ロゼッタは聞き間違いかと思い、聞き直そうとしたがレイの顔を見てそれをやめた。冗談でも聞き間違いでもないのを悟ったのだ。
「もちろん、私はマスターの未来の花嫁ですからね」
「…ありがとな」
レイがそれだけ言い残し、2人の会話はそこで終わった。
数時間後、古龍は有していた莫大な魔力が底をつきエルフの森に墜落した。エルフ族と天翼族が協力した末の結果で、戦いが終わりホッとしている者や疲れて座り込む者など様々だ。
皆が喜びを分かち合う中、姫は島の外へと歩いて行った。そして島の端まで行くと背中に翼を生やし、ジョーカーの元へ帰ろうとした時だった。
「待って!」
「…………何?」
飛ぼうとする姫の後ろには額に汗を浮かべたエレナがおり、姫の手をぎゅっと掴んでいた。
「やっぱりあなた、私と何処かで会ってるよね?その翼もさっき使ってた言葉や魔法、全部私の世界にしかないものだし…」
「………お前がどこの誰だろうが、私には関係ない。それにお前が私の事を覚えていようが、私はお前の事なんて記憶にない。そもそも私に記憶なんてものはない」
「え…?記憶喪失みたいな?」
「……何でもいい。それより手、離して」
「ご、ごめん…」
エレナが手を離すと、姫はそれ以上何も言わず大空を一直線に駆けて行った。
エレナはそれをボーッと見送り、すぐにレイの元へ走っていった。
「レイ!」
「どうした?」
「あの姫って子覚えてる?変な服着た、龍の翼持ってる女の子!」
「あぁ…ジョーカーと一緒にいた」
「その後の顔念写して!」
「ちょっと待ってな…」
そしてすぐにレイを見つけ、姫の顔を紙に念写させる。それを受け取ると、エレナは魔法陣を展開してすぐに自分の世界へ帰る準備を始めた。
「じゃあレイ、すぐに戻ってくるからちょっとだけ帰るね!」
「待ってくれ。これをアイナさんに」
レイは魔法袋から一通の封筒をエレナに持たせた。エレナは封筒をまじまじ見つめるが、特に変わった所は何もない。
「何の手紙?」
「まぁ近状報告みたいなもんだ。エレナが相変わらずうるさいですよ、みたいな」
「う、うるさくないよ!」
「あはは、冗談だよ…。行ってらっしゃい」
「うん、待っててね!」
エレナはそっとレイの頰に口づけを残し、魔法陣の中へと消えて行った。
「なんだか少し寂しくなりますね…。エレナもスサノオさんも居なくなってしまって」
「そうだな」
「そしてあのグータラ女との時間が増えると思うと…ゾッとします」
「少しは仲良くしてくれよな」
2人はそんな話をしながら、全員の傷の手当てにまわった。
「あ、お母さん!」
「あら、エレナ?急にどうしたの?」
エレナは龍の国に帰り、城で母のアイナを見つけて飛びついた。なんだか久しぶりな気もするが、ここに着た目的を思い出してすぐに離れる。
「今日はちょっと聞きたい事があって帰ってきたんだ」
「何かしら?」
「えっとね…この子知ってる?」
エレナが姫の念写絵を渡すと、アイナは絵を見て目を見開いた。そのただならぬ雰囲気にエレナは恐る恐る尋ねる。
「…お母さん、どうかした?」
「エレナ…この人と会ったの?」
「え?ついさっきレイ達の世界で…やっぱりお母さんも知ってるの?」
「知ってるも何も…この人は私の母よ」
「はは……。母…?…えぇ?!」
エレナの驚いた声が城中に響き渡った。
エルフの島から離れた大陸にある国の城の窓に座るジョーカーを見つけるなり、姫はジョーカーの腹めがけて一直線に突っ込んだ。
ジョーカーがそれを避ける間も無く、城の一部が大きく抉れあたりに砂埃が舞う。ジョーカーは姫に押し倒されるような体制のまま口を開いた。
「随分派手なお帰りですねぇ♬何かありましたか?」
「………知り合いに会った」
「あの龍の女の子ですかぁ?」
「……多分、私の知り合い。何か特別な…よくわからないものを感じた」
「それはきっと、家族にしかわからないものですねぇ♪今度、あなたの古巣に一度帰りますか?」
「………いい。私は既に死んだ事になってるし、お互いに覚えている人も少ない」
「そうですかぁ…わかりました」
ジョーカーは嬉しそうに笑うと、姫と一緒に影の中に沈んでいった。
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