異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし

文字の大きさ
上 下
201 / 210
第10章

第181話

しおりを挟む

姫と天翼族が囮となり、空を縦横無尽に駆けて古龍のブレスを避けている。そして後方からエレナとエルフたちが古龍の周りに魔弾を放っていた。
古龍を目覚めさせたフォルカスがいない以上、術を解く方法がないので古龍の魔力を全て使わせるという作戦だ。念のためにシオンハイエルフの共鳴術を試したが、古龍と繋がることは不可能だった。

その様子を、レイとロゼッタは離れたところからジッと眺めていた。レイが何も言わずに手を出さないせいか、ロゼッタは少し困ったような表情を浮かべている。

「あの、マスター」

「何?」

「何故助けないのですか?マスターが時を戻せば、古龍は元に戻るのでは…」

「だろうね」

「では何故…」

「俺が助けたら、意味がないから」

ロゼッタはレイの答えに謎が深まったのか、レイの目を覗き込んだ。

「マスター、ジョーカー達と何かあったのですか?」

「…あった」

「何を言われたのですか?」

「この世界の未来の話、かな」

「未来…?」

「…ロゼッタ、俺が死ぬ時まで一緒にいてくれる?」

「…え?」

ロゼッタは聞き間違いかと思い、聞き直そうとしたがレイの顔を見てそれをやめた。冗談でも聞き間違いでもないのを悟ったのだ。
 
「もちろん、私はマスターの未来の花嫁ですからね」

「…ありがとな」

レイがそれだけ言い残し、2人の会話はそこで終わった。



数時間後、古龍は有していた莫大な魔力が底をつきエルフの森に墜落した。エルフ族と天翼族が協力した末の結果で、戦いが終わりホッとしている者や疲れて座り込む者など様々だ。
皆が喜びを分かち合う中、姫は島の外へと歩いて行った。そして島の端まで行くと背中に翼を生やし、ジョーカーの元へ帰ろうとした時だった。

「待って!」

「…………何?」

飛ぼうとする姫の後ろには額に汗を浮かべたエレナがおり、姫の手をぎゅっと掴んでいた。

「やっぱりあなた、私と何処かで会ってるよね?その翼もさっき使ってた言葉や魔法、全部私の世界にしかないものだし…」

「………お前がどこの誰だろうが、私には関係ない。それにお前が私の事を覚えていようが、私はお前の事なんて記憶にない。そもそも私に記憶なんてものはない」

「え…?記憶喪失みたいな?」

「……何でもいい。それより手、離して」

「ご、ごめん…」

エレナが手を離すと、姫はそれ以上何も言わず大空を一直線に駆けて行った。
エレナはそれをボーッと見送り、すぐにレイの元へ走っていった。

「レイ!」

「どうした?」

「あの姫って子覚えてる?変な服着た、龍の翼持ってる女の子!」

「あぁ…ジョーカーと一緒にいた」

「その後の顔念写して!」

「ちょっと待ってな…」

そしてすぐにレイを見つけ、姫の顔を紙に念写させる。それを受け取ると、エレナは魔法陣を展開してすぐに自分の世界へ帰る準備を始めた。

「じゃあレイ、すぐに戻ってくるからちょっとだけ帰るね!」

「待ってくれ。これをアイナさんに」

レイは魔法袋から一通の封筒をエレナに持たせた。エレナは封筒をまじまじ見つめるが、特に変わった所は何もない。

「何の手紙?」

「まぁ近状報告みたいなもんだ。エレナが相変わらずうるさいですよ、みたいな」

「う、うるさくないよ!」

「あはは、冗談だよ…。行ってらっしゃい」

「うん、待っててね!」

エレナはそっとレイの頰に口づけを残し、魔法陣の中へと消えて行った。

「なんだか少し寂しくなりますね…。エレナもスサノオさんも居なくなってしまって」

「そうだな」

「そしてあのグータラ女との時間が増えると思うと…ゾッとします」

「少しは仲良くしてくれよな」

2人はそんな話をしながら、全員の傷の手当てにまわった。



「あ、お母さん!」

「あら、エレナ?急にどうしたの?」

エレナは龍の国に帰り、城で母のアイナを見つけて飛びついた。なんだか久しぶりな気もするが、ここに着た目的を思い出してすぐに離れる。

「今日はちょっと聞きたい事があって帰ってきたんだ」

「何かしら?」

「えっとね…この子知ってる?」

エレナが姫の念写絵を渡すと、アイナは絵を見て目を見開いた。そのただならぬ雰囲気にエレナは恐る恐る尋ねる。

「…お母さん、どうかした?」

「エレナ…この人と会ったの?」

「え?ついさっきレイ達の世界で…やっぱりお母さんも知ってるの?」

「知ってるも何も…この人は私の母よ」

「はは……。母…?…えぇ?!」

エレナの驚いた声が城中に響き渡った。



エルフの島から離れた大陸にある国の城の窓に座るジョーカーを見つけるなり、姫はジョーカーの腹めがけて一直線に突っ込んだ。
ジョーカーがそれを避ける間も無く、城の一部が大きく抉れあたりに砂埃が舞う。ジョーカーは姫に押し倒されるような体制のまま口を開いた。

「随分派手なお帰りですねぇ♬何かありましたか?」

「………知り合いに会った」

「あの龍の女の子ですかぁ?」

「……多分、私の知り合い。何か特別な…よくわからないものを感じた」

「それはきっと、家族にしかわからないものですねぇ♪今度、あなたの古巣に一度帰りますか?」

「………いい。私は既に死んだ事になってるし、お互いに覚えている人も少ない」

「そうですかぁ…わかりました」

ジョーカーは嬉しそうに笑うと、姫と一緒に影の中に沈んでいった。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...