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第10章
第175話
しおりを挟む「おい」
「何かな?」
俺の目の前で、フォルカスは座って当たり前のように本を読んでいた。感情の読みづらい変なやつだ。
「話ってなんだよ。早く俺をここから出してくれ」
フォルカスはパタンと本を閉じ、顎に手を当てて少し考えるようなそぶりを見せた。
「君は、転生先のこの世界をどう思う?」
「どうって…ファンタジー?」
「うん、確かにそうだね。僕たちのいた前世では考えられないしね…。だからこそ、僕はこの世界に可能性を見出していた」
「可能性…?」
フォルカスはゆっくり立ち上がると、俺の前まで歩いてきて悲しそうに笑った。
「前の世界は、崩壊へと歩みを進めていた。誰しもが自分の為に生き、自然を破壊して文明を発達させようとしていた。それが何を意味するかわかるかい?」
「あー…アニメでよくあるな、移民だとか?」
「なかなかいい考察だね。そう、あの世界はそう遠くない未来で終わる。資源が枯渇して戦争が始まり、やがて何も無くなって人類は滅びる。そして人類がいなくなり、新たな生命が芽生える…歴史は繰り返すからね」
「それで?お前はこの世界をどうしたいんだよ?」
「簡単だよ、この世界に住む人族・亜人族・エルフ・天翼族…全ての種族の生命を浄化する、かな」
「っ?!」
ファルカスはさぞ嬉しそうに笑った。その笑顔はどこまでも純粋無垢で、一切の悪意を感じなかった。それ故に、背筋に冷たいものが走る。
「せっかく転生した世界を滅ぼすつもりか?」
「滅ぼす…?冗談はやめてくれ、滅してるのはむしろ君達のような人類だ。このままでは、この美しい世界もあの醜い世界と同じように滅びの道を歩んでしまうからね」
「いかれてるな…」
「それは、僕が普通ではないという事かな?」
フォルカスは真面目な顔つきになると、俺の周りをゆっくり歩きまわり始めた。
「そもそも、何故人を殺めてはいけないんだい?」
「何でって…それが当たり前だからだろ」
「当たり前か。それは、人間が生物の頂点に君臨しているから言える事だね。つまり、どの世界でも強い者の常識が世界のルールになる。」
「…何が言いたいんだ?」
「もし世界に新たなピラミッドの頂点に立つ者が現れ、世界を破壊し始めたらどうする?」
「そりゃ…止めるに決まっー」
「何故?」
「っ…!」
なんだか心の奥を見透かすような瞳で覗き込まれ、俺は言葉に詰まった。本当に何を考えているのかわからない。
「それが新たな強者にとっての普通かもしれないのに?」
「…………。」
「人間は奪って来た側だからわからないかもしれないけど、人類は生命からすればただの殺戮者じゃないのかな?」
「それは…」
フォルカスの思想は間違っているはずなのに、何もいいかえせなかった。
「『ミネルヴァのふくろうは夕暮れに飛び立つ』という言葉を知っているかい?」
「…そんなもん知らない」
「ヘーゲルという人の言葉だが、ふくろうは知恵の女神の眷属だから賢い…だから夕暮れという時代の終わりから、新しい時代の始まりを告げつつ飛び立っていく。そうして、人類は時代を前へ前へと進んでいくんだ。」
「何か言いたい…?」
フォルカスは本のページをパラパラとめくり、あるページを愛おしそうに撫でた。
「僕がミネルバの使者の代わりに、この世界の新たな始まりを手伝ってあげるんだよ」
「…そんな事させるか」
「止めたいのなら、全力を尽くす事をお勧めしておくよ」
「言われるまでもー」
言葉を言い切るよりも前に俺の意識は薄れ、闇の中から光の方へと飛んで行った。
そんな俺を、フォルカスは闇の中でじっと見据えていた。
「ぅおっ?!」
『ピャ?!』
「マスター!」
意識が戻ると、俺の腕にフェルが噛み付いていた。耐性があるので前よりは痛くないが、少しだけ傷口から煙が出ている。痛みで俺を起こそうとしてくれたのだろう。
そして側には、大会に出ているはずのロゼッタがいた。ロゼッタは泣きそうな顔で、俺に飛びかかって来る。
「良かったです…!」
「あー…どうしてここに?」
「分身が消えたので、マスターに何かあったと思って。」
「なるほどね…ん?」
誰かに肩をつつかれた気がして振り返ると、背後にはフローリアがいた。相変わらずの無表情で空を見上げている。
「あれ」
「ん…?あっ!」
フローリアの指差す方では、空中でフリーエルと闇エレナが激しい空中戦を繰り広げていた。シオンも木々の上の方を飛び移りながら、魔法で援護している。
そして森の北側からは、美しい不死蝶の鳴き声と轟音も鳴り響いていた。
「よしっ…みんな準備はいいか?」
『ピャ!』
「やりましょう!」
「うん」
2人+1匹はコクリと頷き、全員臨戦態勢に入った。
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