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第10章
第173話
しおりを挟む「ファルファラって…」
どこかで聞いた事ある名前だと記憶を探っていると、フリーエルが目を見開いていた。
「シオン…もしかして不死蝶の事を言っているの?」
「えぇ。」
そこでようやく思い出した。エルフの里だけでなく世界を護っている、不死蝶ファルファラ。ただ、その存在は人目に触れた事がないと言っていたはずだ。
「本当に存在するんですか?」
「間違いないと思う。あの男が言っていたから…」
「あの男?」
「つい先日脱獄した、フォンセプリズンに幽閉されていた殺戮者フォルカス…」
シオンは恐怖を滲ませた瞳で、その男の名を呟いた。
フォルカスは、横たわるイグニスの腹の上に座り繭を眺めた。イグニスは首から血を流し、すでに絶命している。
繭をじっと眺めていたフォルカスだったが、突然辺りを見回して頰を緩ませた。
「おめでとう、やっとハイエルフに戻れたみたいだね…」
フォルカスはそう呟くと、立ち上がって大きく両手を広げた。
「キリストは言った…艱難は忍耐を生じ、忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ず。さぁ、この汚い世界を浄化する希望を呼び醒まそうじゃないか!」
フォルカスの叫びに共鳴するかのように、繭は上部からブチブチと音をたてて破れていった。
「シオン!」
「お母様!」
あの後、すぐに長の家に転移し親子は数年ぶりの再会を果たした。俺たちの冤罪もフランが皆に呼びかけてくれたらしく、とりあえずは疑いも晴れたようだ。
だが安心している暇もないらしく、フランは神妙な面持ちでシオンと話していた。
「それで…あのフォルカスがこの島にいるのは本当なの?」
「間違いまりません。私の捕らえられていた牢獄に、彼は何度か来たことがあります。」
側で待機していた俺は、隣にいるフリーエルにこっそり尋ねた。
「フォルカスって誰なんですか?」
「フォンセプリズンに幽閉されていた囚人ですわ。随分前に世界中で殺戮を繰り返して、フォンセプリズンで終身刑だったはずですが…」
「死刑にならなかったんですか?」
「それが…どんな魔法や攻撃をしても、誰も殺せなかったそうですよ」
「そんな人が…」
とりあえずとんでもない奴だと言うのはわかった。簡単な言えば、四皇のカイドウみたいな感じだろう。
「なぜあの男が…それにファルファラを目覚めさせるですって?」
「はい。私に何度かそうこぼしていました」
「なぜファルファラの保護地を知っているの…すぐにでもあの場所の警備を固めてー」
フランが立ち上がってどこかに行こうとした瞬間、大きな轟音と共に島が揺れ始めた。
「何が?!」
驚いたのも束の間、島中に何かの生き物の声が鳴り響いた。あまりの声の大きさに、鼓膜が破れそうになる。
「まさか…ファルファラが?!」
「見てきます!」
家を出て空に飛び、ソレはすぐにわかった。エルフの森の北側で、大きな翼が周りの木をなぎ倒しながら飛び出してきていた。
「あれが、ファルファラ…」
その姿は、不死蝶の名に相応しい美しさと神聖さを兼ね備えた巨大な蝶だった。
十字架に架けられたジョーカーの手首の縄を、姫は無言でといていた。ジョーカーは全身血だらけだが、相変わらず顔に笑みを浮かべている。
「……わざと負けた……?」
「よくわかりましたねぇ…ただ、彼の野望がどんなものか気になっただけですよぉ♫」
「……そう」
姫が縄を全てほどき終えると、ジョーカーは軽やかに地面に降りたった。そして体の傷をあっさり治し、繭の抜け殻を眺めた。
「実に美しいものを見れましたねぇ~。ハイエルフが数百年に一度しか誕生しない理由を知っていますかぁ?」
「………知らない」
「ファルファラの昂ぶった魔力が、産まれてくる新しいエルフに宿るそうですよぉ♬つまり、彼が言っていたハイエルフの少女は、ファルファラの分身と言っても過言ではありませんねぇ…」
ジョーカーは嬉しそうに話しながら、姫とどこかへ歩いて行った。
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