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第10章
第172話
しおりを挟む「なんだこれ?」
「…とびら。」
牢獄内を歩き回ると、突き当たりに石でできた扉のようなものがあった。かなり年季が入っており、所々ヒビ割れている。
「開けられますか?」
「え?!いいんですか?」
「構いません、どうせ私達は脱獄犯ですしね。」
「た、確かに…」
フリーエルがやけに真剣な表情で言っていたので、とりあえず押してみたが動きはなかった。そこで魔力を込めると、扉はあっさり砂に変わって消えていった。
だが、扉のすぐ向こうにも石の扉があり何枚壊しても石の扉が現れる。厳重な造りなんてレベルじゃなかった。
「これ…何の部屋なんですかね。」
「昔噂で聞いた事がありますが、もしかしたら…」
30枚ほど扉を壊したあたりでようやく、大きな部屋に到着した。そして部屋の中央には、全身に何本もの鎖を繋がれた1人のエルフがいた。
女性のエルフで肌は黒く、髪も闇に飲み込まれるかのような黒色をしていた。女性からは生気を感じず、死んでいるのではないかと疑ってしまうくらいだった。
「…シオン?」
「え?」
隣を見れば、フリーエルは口を手に当てて震えていた。今にも泣き出しそうな顔で、その瞳は驚愕からか大きく見開かれている。
「シオンさんってハイエルフじゃ…」
俺が言い切る前に、フリーエルは駆け出してシオンの顔を覗き込んだ。
「やっぱり…シオン、しっかりしてください!」
「………ぁ……フリーエル?」
フリーエルの呼びかけに、シオンは顔を少しだけあげて消え入りそうな声で答えた。聞いていたハイエルフのイメージとはかけ離れているが、やはりシオンで間違いないようだ。
よく見ると、シオンの黒い肌には、更に黒い刺青のようなものがいくつもあった。護衛に浮き出ていたものとよく似ている。
「シオン!一体何があったのですか?!」
「……見ないで……私は…堕ちたエルフだから……」
「レイ様!シオンに回復魔法をお願いします!」
「了解です。」
シオンのそばの地面に手を向け、すぐに魔力を流し込む。
「『世界樹の妖精の讃歌』」
詠唱を終えると地面から植物が飛び出し、光の妖精がシオンの周りを飛び回った。しかし、妖精達は黒い闇に呑まれて全て消えていった。
「なんだこれ…?!」
「魔法じゃない。」
「え?」
隣で見ていたフローリアが小さく呟きすぐに鑑定すると、状態異常ではなく《詛呪》と書かれていた。
「呪いって事か…?」
魔法を弾く呪いなど聞いた事がないが、ある事を思いついた。Fateのエミヤに近いかもしれない。
今度はシオンに手を向け、前回より多い魔力を込める。
「『全針操作』」
手を反時計回りに回転させると、刺青は少しずつ消えていき、黒かった肌は雪のように綺麗な白色になっていった。回復魔法が効かないのなら、シオンが呪いをかけられる前の状態に時間を巻き戻したのだ。
すぐに髪も透き通るような白色になり、回復魔法で魔力と体の傷を治して俺の仕事は終わった。
「これは…」
「シオン!」
自分の肌を見て驚くシオンに、フリーエルは泣きながら抱きついた。シオンは倒れそうになりながらも、小さく微笑みながらフリーエルを抱き返した。その瞳には、うっすら涙が浮かんでいる。
「どうしよっか…」
「………帰る?」
その場にフローリアと取り残されてどうすればいいのか困っていたが、シオンがフリーエルから離れて俺の所に歩いてきた。
「ありがとうボウヤ。それと、フリーエルを連れて早くこの島から逃げて。」
「え?」
「…もうすぐ、ファルファラが誕生する。」
シオンはどこか遠くを眺めるような瞳で囁いた。
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